僕は、マグストラタム学園、召還学科の特待生。
だけど、今までずっと落第の危機にさらされていた。
なんで落第の危機にさらされていたかっていうと
召還学科に所属しているのに、一度も召還に成功しなかったから。

 

　だけど、今はとりあえず落第の危機から一歩だけ遠ざかった。
特殊な触媒〜ケータイデンワ〜をつかえば、風の精霊が召還出来るようになったんだ。

 

　だけど、それで万事Ｏ．Ｋ．っていうわけにはいかない。
たまたま一体召還出来るチャンネルが開いた、っていうんじゃ
召喚術師なんて名乗るのはおこがましい。

 

　そういうわけで、僕は追試を受けている真っ最中なんだ。

 

「マスター。この世界では、テストのことを追試っていうんですか？」
「そんなわけないよ。僕が今まで赤点だったテストをやり直してるから追試なんだ」
「すいませんマスター。悪いことをいいましたか」
「いや、いいよ。本当のことだし、仕方ないって」

 

　今度の追試は、簡単といえばかんたん。先生から預かった羊皮紙に
山頂に置いてあるスタンプを押して帰ればいいんだ。
それのどこが召喚術師としての試験になるのかはわからないけど
とにかくそれで合格にしてくれるんだったら何も言うことはない。

 

「マスター、あの影！」
「…認識…捕捉…固定…これでも喰らえ！」

 

　アイス・スピアが物陰に隠れていたモンスターを直撃する。
それが合図になったように何匹か隠れていたモンスターが姿を現す。

 

「マスター、援護をお願いします。…いきますよっ！」
「あ、ああ…」

 

　どっちがマスターだかわからないけど、まどか、つまり僕が召還できる　
唯一の召還獣にして槍の名手の女の子にして風の精霊なんだけど、とにかく
まどかの方が戦闘については詳しいんだから仕方がない。
モンスターに突撃していくまどかの支援が僕の仕事だ。
まどかの背後に回ろうとするモンスターにファイアーボールをぶつけ
まどかがモンスターに傷を負わされたら素早く回復の呪文を唱える。

 

　幸い、モンスターはたいして強くもなく、あっさりと撃退できた。

 

「マスター、ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこっちだよ。まどかがいなかったら
　この山を突破できるかどうか怪しかった」
「光栄です、マスター」

 

　こんな調子でモンスターを寄せ付けず、僕らはついに山頂に到着した。
山頂には、なるほどスタンプとスタンプ台があった。…火山の火口のど真ん中に。

 

「マスター、あれをとってくればいいんですね」
「その通りなんだけど、あれは…困ったなあ」
「何か困ることなんですか？」
「まどか、火口の回りをみてよ」
「何か文様が描かれてます」
「炎の封印魔法陣だよ。本来ならこの距離まで近づいたら、僕らは丸焼けになってるはずだってこと」
「へええ・・・マスター、物知りなんですね」
「学院の生徒には常識だよ。だけど…困ったなあ。
　これだけの高温に耐えられるとなると、僕程度の魔力じゃ到底炎に対抗出来ない」
「マスター。私が空を飛んでとってきましょう」
「無理だよまどか。空を飛んでも、火口のど真ん中に降りないともてないんだ。
　あそこにまどかが行ったら、いくらまどかが風の精霊でも焼けちゃう」
「しょぼん…」
「はーはっはは。なにをやっている平民。このような課題、簡単ではないか。
　ちゃんと講義には出ていたのだろう」
「マスター、また変態が現れました」
「変態じゃないよ。変な人」
「人をなんだと思っているのだ平民。さては、答えがわからないのをごまかそうとしているな」
「そんなことはありません。ただ、僕はまだ火の精霊の召還が出来ないんです」
「マスター、火の精霊が召還できればいいんですか？」
「うん。火の精霊なら、この程度の熱には耐えられるからね。
　火の召還獣を使ってあれをとってこさせればそれで試験は合格なんだ」
「本当に、それでいいんですか？」
「信用しないのだな、めいどのまどか」
「メイドじゃなくて風の精霊です」
「落ちこぼれの平民の為に、とくべつに手本を見せてやろう。
　いでよ火の精霊！」

 

そういうと、ギュンター君は、召還魔法陣を出現させると
ヘルハウンドを召還して、火口の真ん中からスタンプを持ってきた。

 

「すごい…ヘルハウンドを召還して仕込んでる…それが出来るのって
　うちの学科でも５人といない…」
「はっはっは、すこしは見直したかね平民」
「う゛ー、それぐらい私にだって出来ます」
「無理だって、これは火の精霊を召還する試験なんだから」
「あちあちあち」
「ほら言わない事じゃない…大丈夫？」
「へ、平気です。これぐらいなら嘗めておけばなおります」
「そんなこと言わないで………ほら、もう大丈夫」
「ありがとうございます。マスター。……」
「そんなに落ち込まなくても…僕が、召還できないのが悪いんですから」
「平民、今日は出直してきたらどうだね」
「そんなこと…出来ませんよ。僕はこれが赤点だったら、落第なんですから」
「マスター・・・・そういえば、マスターが私を召還出来たのは
　確か、モンスターに襲われていた時でしたよね」
「ああ、そういえばそうだったね。でもそれがどうしたの？」
「……一人、火の精霊の友達がいるって、前にマスターにお話しませんでしたか」
「うん、それは聞いたよ。だけどまどかのいう番号につながらなかったから」
「……マスター。お覚悟！」
「ちょ、ちょっとちょっとまどかどうしたの」
「問答無用です」

 

うわわわわ〜っ。急にまどかが僕に襲いかかってきた。
ギュンター君はおもしろがって見てるだけだし
まさかまどかと戦うわけにもいかないし
ど、どうすれば・・・だれか、誰か助けて、助けてーっ！

 

心の中で叫んで携帯電話を振り回す。

 

「マスター、やった、やりましたよ」
「まどか、やったって一体なにを？・・・あっ」
「見てください、召還魔法陣です」

 

そう、ケータイデンワが再び召還魔法陣を発動させたんだ。
今までずっと何も出来なかったのに、どうして？

 

「マスター。どうやら、マスターが生命の危機を感じると
　新たな召還が発動するんですね」
「そ、そんなぁ。こんな心臓に悪い召還なんてやだよ」
「平民、それがいやなら、もっと精進することだな・・・うわち」
「ギュンター君、ヘルハウンドがなついてるよ」
「わ、わかって・・・ウォータースクリーン・・は、は、は…ズボンが焼けてしまったではないか」
「まったく、ドジなんだから…あ、まどかおひさー。
　ええと、どっちがボクのマスターになるの？」
「こちらの、質素な服装をした方です。卯月さん」
「あ、そ。ボクは卯月、火の精霊の一人なんだ。これからよろしく」
「え、ええと…火の精霊って・・・本当に？」

 

火の精霊って、普通は、火とかげとか、炎の犬とか、そういうのだよね。
なんでうさみみ少女が火の精霊なんてやってるんだろう…。

 

「あー、いまうさぎだからってバカにしたでしょ」
「バカにしてないよ。バカにしてないって」
「ボクの祖先には、火に飛び込んで旅人をもてなしたうさぎだっているんだからね。
　それ以来火の精霊を代々やってるんだから。
　ええと、まどか。ボクは何をすればいいの？」
「マスターのために、あの台の上にあるスタンプを持ってきてください」
「うん、おやすいご用だよ…あれ？スタンプって、なんにもないけど」
「ああ、そういえば、ギュンター君がこっちに持ってきてたっけ」
「じゃあ、返してくるね」
「返す前に、これに焼き印をおしてよ」
「マスターに押すの？」
「僕じゃなくて、この羊皮紙」
「ああ、なんだびっくりした。じゃジューっと。
　うん、やけたやけた、じゃ返してくるね」

 

そういうと、卯月は軽々と真っ赤に焼けた焼き印のスタンプを
手にとって僕の羊皮紙に印をつけてから、台まで返した。

 

こうして、僕は一応追試には合格できた。
だけど、召還獣じゃなくて召還嬢が二人になっちゃったよ。
この先こんなんで大丈夫かな…。

 

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