僕は、マグストラム学園の特待生。
名前は、まだない。
いや、本当はあるんだけど、今回のお話でも
誰１人僕の名前なんて呼んではくれない。

 

「マスター。名前で呼ばれた方がうれしいんですか？」
「いや、べつにいいよまどか。呼びたいように呼んでくれれば」
「そうそう、マスターって言う方が呼びやすいもん」
「そういうものかな？名前で呼ぶ方が呼びやすくない卯月」
「マスターの方が呼びやすいよ」
「そんなに発音しにくい名前かなあ？」
「そういうわけではありませんけど、一応の折り目はつけましょう」
「そんなものかなマキ」
「ねえねえマスター。ところで、今日が何の日か知ってるよね」
「…」
「あー、もしかして、完全に忘れてた？」
「ちゃんとカレンダーにも書いて覚えてるよ。ホワイトデーなんでしょ」
「その通りっ！」

 

　そう、アスレイと晶が張り合ってチョコレートを配りまくった
バレンタインデーからもう一ヶ月が過ぎ去ったんだ。
ホワイトデーのお返しはもう用意してあるんだけど、みんなにはもう少し内緒かな。

 

「でねでねでね、マスターこれ見てよ」
「なにこれ？ああ、レナの所のチラシか。へえ、冒険の道具以外にも商ってるんだ」
「マスターは、追試で使う物以外には興味ないですからね」
「いやまどか。だから、試験や課題を全部追試っていう言い方するの止めてってば」
「気になりますか？ずっと追試追試と聞かされてましたから、つい口癖になりまして」
「とほほ……まどかが来て当分追試だらけだったから、否定できないよ」
「マスター。そういって、ボクの話をそらそうとしてるでしょ」
「そんなことないよ」
「だからね。マスター。ボクこれがいいな」
「これがいいなって…３倍返しどころか、お返しの固定？」
「うん」

 

卯月は、そういって断言した。

 

「あの…さ。もうみんなの分のお返しは用意してあるんだ」
「え？そうなの？」
「ちゃんと、３倍返しになるようにしておいたつもりだから」
「あ…そうなんだ」
「…何か残念そうだね」
「マスターは、あんまり、女の子への贈り物とか、したことがないんですね」
「うん、そうだねマキ。ルテジアさんからは、もらうばっかりだし
　ルテジアさんの誕生日なんかでも、何を贈っても喜んでくれたから」
「それは、ルテジアさんの方が気を遣ってるんですよ」
「そういうものなの？」
「そうですね…女物は、好みが激しいですから、人が見繕った物は
　大抵きにいらないものです」
「ルテジアさんが僕に贈るものは、無理矢理にでも送りつけるんだけどなぁ。
　あ、そういえば結、晶は来てる？」
「ええ、来てますけど、先にアスレイさんの所へ出かけましたよ」
「あ、そうなんだ。ちょっと安心したよ」
「姉さんと何かあったんですか？」
「何かあったっていうか、晶には、プレゼントは体で返せなんて言われてるから
　何をされるか今から恐ろしくって」
「それで、予め私たちも召還しておいたんですね」
「うん、ホワイトデーのお返しを渡しておこうっていうのもあったけどね」
「ねえねえ、マスター。それってもしかして、全員分用意してあるの？」
「ああ、そうだよ」
「あーっ！こんなことならもっと早く欲しい物を言っておけば良かったぁ」
「晶さんの作戦勝ちですね」
「さて、と。はい、これ。…確か、ホワイトデーは、マシュマロをお返しにするんだったよね」
「ええ、ホワイトデーというぐらいですから。
　他に、クッキーとかキャンディも普通ですね」
「ねえねえマスター。それで、どれが誰の分なの？」
「全部同じだよ」
「なーんだ。つまんない」
「全部同じぐらいの価格なんでしょ。３倍返しにしたって同じは同じだよ」
「マスター。三倍にこだわってますね」
「だって卯月にくどくどと念を押されたから」
「なんか、ボクが一方的に悪者になってる気がする」
「マスターも嫌々だったらプレゼントを用意しませんよ。
　ありがたくいただきますね。マスター」
「どうもありがとう。まどか」
「マスターありがとね。さっそくみんなで食べよ」
「急に元気になったね卯月…」
「そりゃ、マスターがボク達のために選んでくれたんでしょ」
「ま、まあ…そうなんだけど」
「ありがとうございますマスター」
「どういたしまして、マキ」
「ありがとうございます」
「どういたしまして、結」
「では、姉さんが来るまでゆっくりするために、お茶でも用意しましょう」
「さんせー！」
「では、しばらくお待ちを」

 

結は台所へ姿を消した。
湯が湧くまでちょっと時間があるかな。

 

「マスター。開けていいですか？」
「ああ、いいよ」
「本当にマシュマロなんですね。いただきます」
「まどか、もう食べちゃうの？」
「みなさんもどうぞ」
「いや、みんな同じ物をもらったんだし」
「なにやら、窓の外が騒がしくなってきましたね」
「…あ、晶とアスレイが来た」
「では、私が出迎えてきます」
「ああ、お願いまどか」

 

まどかは飛んで窓の外にでた…って

 

「ちょっとまどかまどかまどか。外からじゃ鍵が開けられないんじゃ」
「ご心配なく、合い鍵は持ってます」
「そうなの…って、えええ、いつのまに？！」
「ボクも持ってるよ。何かあったときのために全員分つくっときなさいって
　ルテジアさんから借りたんだ」
「ええ、晶さんも持ってますよ」
「ルテジアさんもそういうことは予め僕にも教えてくれればいいのに」
「マスターもご存じだとばかり思ってました」
「今聞いたよ…」

 

そういう会話をしているうちにも、部屋の中に晶とアスレイが入ってくる。

 

「マスター。遅くなりました」
「べつにあんたに用事はないけど、晶との決着をつけるために来たわよ」
「アスレイ。だから晶とそんなに張り合わなくていいってば」
「単なる料理で勝負を挑まれたならともかく、料理にも魔法があると
　言われて、引っ込んでいるわけにはいかないわ。
　マストラダム学園の名誉に賭けて、絶対に打ち負かしてやるから」
「望む所よ。晶の魔法、見せてあげるわ。
　そういうわけでマスター。まずはマスターが実験台…もとい
　判定者になってもらいます」
「あの、晶、もしかして、それが体で返してくれ、っていう意味」
「そうよ。私も全く同じよ」
「いや、アスレイの分はもう用意してあるからそれで勘弁してよ…」
「いらないわ。それより勝負よ」
「え、ええと…」
「そんなに引かなくても大丈夫ですマスター。
　決して激辛にんじん料理とか、そういう人間の料理を止めた
　ものを出そうというのではありませんから」
「…なんか、ボクへの当てつけみたいに聞こえる…」
「そんなことはありませんよ。卯月の料理も、十分おいしかったですから」
「マスターには気に入ってもらえなかったもん」
「当たり前です！人間の料理じゃないでしょあれは」
「晶、あなた、もう逃げ腰になったの？」
「冗談！さあ、勝負よ。で、お題は何かしら？」
「ホワイトデーらしく、白い料理で勝負しましょう」
「ええ、いいわ。さて、あなたは何を出すのかしら？」
「アスレイ風…」
「姉さん、アスレイさん、いらっしゃい。
　勝負もいいですけど、まずはお茶でも飲んで落ち着きなさいな」
「結、勝負が先よ」
「そうよ。まだ、他にも回る先はあるんですからね」
「二人とも、余裕なさすぎです」
「そうですね。晶さんもアスレイさんも、まずはお茶でも飲んでください。
　私たちを無視して盛り上がられても、迷惑です」
「ねえねえ、せっかくマスターがマシュマロをくれたんだから食べようよ」
「そうですね。ではとりあえず私のをみなさんに分けましょう」
「あー。すぐそういってまどかだけいい子ぶる〜。
　みんなのを出せばいいじゃない」
「すでにプレゼントじゃなくなってる…」
「マスター。気にしない気にしない」

 

…まあ、いっか。
僕らは、ひとまず、結が煎れてくれたお茶を使い
僕が買ってきたマシュマロを茶菓子にして、ちょっとしたお茶会にした。

 

 

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