僕の名前は、コオル・リアロ。マグストラタム学園に通う特待生だ。
だけど、今ぼくはピンチにある。特待生は成績優秀だという理由で
学費が免除され生活費が補助されている。つまり、学業不振に陥れば
特待生資格は剥奪されてしまう。
　いや、２年生の時には、本当に特待生資格を剥奪されかけた。今でも
特待生資格を保持できてるのは、ビルギエッタ師匠が、３年生になったら
一発で卒業する、出来なければ学費を全額弁済するから一年だけ
特待生資格の取り消しを猶予してくれ、と、学園長に掛け合ってくれたからだ。

 

そして、正念場の卒業試験は、もうすぐそこまで迫ってきている。

 

ビルギエッタ師匠（以下師匠）：バカ弟子、説明的な台詞は終わったかい？
　コオル：説明的な、っていうか、台詞じゃないですよ。

　　師匠：解説していたのは事実なんだろ。こんなところで油売ってていいのかい？
　コオル：今のところクエストも受けてないし、次に受けるべき講義はまだ先だから…
　　師匠：講義が先なら自習でもしてな。ここにいたっていいことはありゃしないよ。
　コオル：だけど、街の中を歩いてて、講義時間に遅れるのもいやだから。
　　師匠：それだけじゃないだろ。
　コオル：ていうか、次の予定講義は師匠のだから、師匠と一緒にいれば絶対に遅れない
　　師匠：はぁ…要領いいんだか時間感覚ないんだかどっちだろうね。時計は持ってるだろ。
　コオル：一応は…だけど、時々どっちがどっちの時間かわからなくなっちゃうんだよ。
　　師匠：何がだい？
　コオル：ほら、まどか達とこっちじゃ時間が違ってて、両方の時間を意識しないといけないから。
　　師匠：ああ、おまえの連れてる変な召喚獣のことか。
　　卯月：変なって言わなくてもいいのに。
　まどか：こんにちは。…明けましておめでとうございます。
　　マキ：あけおめことよろ〜
　　　晶：明けましておめでとう。これはうちで作ったおせちだ。良かったら食べて欲しい。
　　　結：あ、あの…新年…おめでとう……ござい…ます……
　コオル：あれ？新年って、まだこっちじゃ１２月だよ。
　まどか：私たちの世界だと、今日新年になったんです。
　　卯月：そうそう。だから、特別なことをしようかなって。
　　マキ：服も特別に持ってきちゃいました〜
　　師匠：バカ弟子、校内じゃ携帯禁止って言わなかったかい。
　コオル：校内で呼び出せるほど器用じゃないですよ。

 

ちょっとだけ、説明しようかな。
マグストラタム学園には結界が張ってある。
学園内では、基本的に危険な魔法実験は行わない。
そういうのは修練場でやることになっているんだ。
だけど、本来魔法というのは、一歩間違えれば何が起きるかわからない危険なものなんだ。
たとえて言うなら、たばこ一本でも、街を焼き尽くす大火事になりかねないようなもの。
だから、常に魔法が使われている、この学園では、街に被害をもたらさないように
魔法障壁を作って防護してあるんだ。
その影響で、携帯電話の電波も届かない。その障壁を突破して電波を飛ばすなんて
器用なことが出来たら、落第寸前の成績になんてなってないよ。

 

アスレイ：ビルギエッタ先生。すこしお聞きしたいことが。
　　師匠：アスレイかい。なんだい、勉強の質問なら後にしな。講義中に質問すりゃいいさ。
アスレイ：いえ、そうではなく…。
　コオル：アスレイでもわからないことがあるんだ。なんかほっとしたよ。
　　卯月：志低すぎ。
　コオル：いたっ。
アスレイ：なんで殴るんですの。
　　卯月：殴ったんじゃなくて気合いを入れたの。てか、なんでアスレイが突っ込みいれるのよ。
アスレイ：べ、べつに私は心配をしたとかそういうわけではありませんわ。
　まどか：べつにそういうことは聞いてないのに。
　　マキ：あらら〜アスレイちゃん、ちょっと焼き餅〜
アスレイ：違いますっ！
　　　晶：ところで、もうすぐ講義なのだったな。
　コオル：ああ、そうだよ晶。
　　　結：あの…でしたら、どうして私たちを…呼んだり……したの…でしょう……
　コオル：みんなと一緒の方が勉強がはかどるからね。集中して勉強しなきゃ。
アスレイ：そうですわ。何を聞きに来たのか思い出しまたわ。
　　師匠：それで、何を聞きに来たんだい。アスレイ。
アスレイ：それは…その、本人の目の前では聞きにくいことですが…
　コオル：自分の事ならいつでも本人のことだよ。
　　卯月：やっぱり…
　　マキ：鈍いって…
　　　晶：時々犯罪。
　　　結：…え、あの………その……一体……どういう……事なんでしょうか……
　まどか：結ちゃんもあんまり変わらないか。
　　師匠：ああ、そういう話か。
　コオル：どういう話？
　　師匠：バカ弟子。おまえ、卒業のめどは立ってるのかい？卒業試験じゃこいつら呼び出しても点にならないんだよ
　コオル：わかってるよ。まだちゃんとした召喚は出来てないけど、大体のめどは立ってるから。
　　師匠：ほぉ…そりゃまた大きく出たね。
　まどか：他の人より魔力の集中が難しいってわかったんだよね。
　コオル：そうそう。だから普通の人よりたくさんの晶石を使えばぼくでも召喚できそうなんだ。
　　　晶：魔力を大量に使うと、それだけ慎重さも必要になる、諸刃の剣。
　コオル：だから、晶石をたくさん集めて、練習するんじゃないか。
アスレイ：ですけれど、戦争の影響で晶石の価格もかなり高騰してますわ。大丈夫ですの。
　コオル：それは、仕方ないよ。自分の卒業に必要な晶石は、自分であつめないとね。
アスレイ：もし、よろしければ…
　　師匠：アスレイ、悪いが今日の講義は中止だ。自習にするって伝えに行ってくれ。
アスレイ：どうされましたか？
　　師匠：時計を見ろ。
　コオル：あーっ！もう講義開始時間過ぎてるよ。どうしよう…また先生に怒られる。
　　師匠：あのな。その講義する先生がここにいるんだよ。
　コオル：え、あ、よかった。師匠も遅刻してるんだったら…
　　師匠：おまえら、よくよくこいつのこと頼んだよ。
　まどか：はい、慣れましたから。
　　卯月：大丈夫、ビルギエッタ先生が思ってるほど、頼りなくはないですよ。
　　マキ：そーそー。自発的に勉強するようになりましたから。
　　　晶：元が酷すぎるともいう。
　　　結：お、おねえちゃん………
　コオル：あれ、でも困ったなぁ…今日は師匠の授業を受けてから、晶石を捜しに行く予定だったのに。
　　卯月：それじゃさ。せっかくだから初詣に行こうよ。
　コオル：初詣？なにそれ。
　まどか：一年の始まりに、お参りに行くことね。
　　マキ：こちらには〜神社があるかどうかは〜しらないですけれど〜
　　師匠：神社っていうか、一応教会ならあるよ。バカ弟子、行くなら案内してやんな。
　コオル：師匠はどうするの？
　　師匠：おまえと一緒に遊んでられるほど暇じゃないんだよ。講義を自習にしたのも一つはそれがあってね。
　　　結：え、えと……何か……私たちに……お手伝い…出来ることがあれば……
　　師匠：いや、おまえ達はこいつの面倒をみてやっててくれ。これはあたしでないと無理だろうからね。
　　　結：は、はい……わかりました。
アスレイ：自習だと伝えて参りましたわ。
　　師匠：済まないねアスレイ。じゃ、悪いがみんなあたしの部屋から出て行ってくれないか。
　コオル：はーい。師匠、あんまり根を詰めないでね。
　　師匠：おまえがいうな。

 

師匠は、僕たちを部屋から追い出すように退室させると、扉に”面会謝絶”という札をぶら下げた。
けど、これって普通病室に掲げるような札だよね。

 

　　マキ：あら〜アスレイちゃんまで追い出されてしまいましたね〜
アスレイ：あ、あの、あなたさえよろしければ、その…私の実家から送られた晶石を貸してあげてもよろぢいですわよ。
　コオル：ありがとうアスレイ。だけど、これは自分で集めるよ。
アスレイ：どうしてですの。
　コオル：晶石集めも、勉強の内だからね。晶石の魔力を感じる練習もしなきゃ召喚術師にはなれないよ。
アスレイ：…たしかに、あなたは変わりましたわね。
　コオル：そうかな。
アスレイ：一年前のあなたなら、間違いなく”ありがとうアスレイ恩に着るよ”といって受け取ってましたわ。
　　卯月：すごーい。こいつそっくり。
アスレイ：不本意ながら、長いつきあいですもの。
　コオル：…それだけじゃ、ダメなんだって、わかったから。
　　　晶：わかったならさっさと初詣に行く。時間を無駄にするな。私たちも暇だから来てるわけではない。
　　　結：あ、…あの……お姉ちゃん……今日は元日で定休日……
　　マキ：べつに今日はすることないわよね〜。
　　　晶：だが、時間は無駄にするべきではない。
　まどか：ここで話をしててもなんだから、早く行こう。
　　一同：おーっ！

 

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と、そういうわけで、僕たちは街の外れにある教会にやってきた。
教会っていっても、晶に見せてもらったあーるぴーじーと違って
街にはいくつも存在してる。僕たちの世界にはいろんな宗教があるから
宗教の数だけ、教会も必要なんだ。

 

　まどか：それで、私たちはどこへ行けばいいんですか。
　コオル：うーん、ぼく自身はべつにどこっていうわけじゃないんだけど…
　　卯月：先祖代々の墓とかないの？
　コオル：先祖の墓は王都の方にあるんだ。僕たちはホートウィッシュに移住してきたからね。
　　マキ：それで〜先祖の墓のあるのと〜同じ宗旨の教会は〜どこかしら〜
　コオル：うーん、…どこだろう…
ルテジア：あれ、あんた学園に行ってたんじゃないの。てか、アスレイも一緒？
　コオル：うん、受けようと思ってた講義が、アクシデントで中止になっちゃって。
アスレイ：あなたが無駄話をビルギエッタ先生とされてたからですわ。
　　　晶：一緒になって話してた奴が言っても説得力がない。
アスレイ：あなたも同じですわ。
　　　結：あ、あの……そんなことより……そろそろ……初詣先を……きめないと………
　コオル：あ、そうだ。ルテジアの教会に行こうよ。
　　卯月：なんだ、あるんじゃない。それどこ。
ルテジア：あんた達、初詣って、一体何を始めるつもり？
　まどか：ええと、何から説明すればいいのかな。
　　　晶：最初から説明しないとルテジアには理解できない。

 

というわけで、説明シーンは省略

 

ルテジア：またナレーションも手抜きね。けど、大体の事情はわかったわ。
　まどか：それで、ルテジアはどうしてこっちに？
ルテジア：うーん、まあ、あんま人に言うことでもないから。
　　　晶：花の香りがする。
　　卯月：え？
　　マキ：………ごめんなさい、ルテジアちゃん…
ルテジア：妙に勘のいい二人ね。けど、そんなの気にしなくていいわよ。もう慣れてるわ。
　　　結：……あ、あの…よろしければ…ルテジアさんも……一緒に……
ルテジア：あー、私はパス、一緒には行かない方がいいわ。…第一、もう行ってきたから。
　　卯月：けど、こういうのは人数が多い方が楽しいよ。
アスレイ：…つくづく、筋肉脳を持った召喚獣ですわね。
　　卯月：んだとー！
　コオル：ちょっと、卯月、押さえて押さえて。
ルテジア：アスレイ、卯月にわからないのは無理ないわよ。責めないで。
アスレイ：…そうでしたわね。
　まどか：それって、どういうこと？
　　マキ：あまり〜自分では〜言いたくないことですよ〜。
　　　晶：魔族の墓があるとわかれば、その教会そのものに迷惑が掛かる。
　　卯月：あ…
　　　結：…………
ルテジア：だから、そんな変な気を遣わなくたっていいわよ。あたしはあたしでしょ。
　コオル：うん、そうだよね。
　　卯月：じゃ、初詣に行こうか。
　まどか：本当は、私たちの世界の方の神社に来て欲しかったですけど。
　　卯月：本当はね。こっちじゃまだ新年が来てないんだから、厳密に言うと初詣にならないし。
　　マキ：…でしたら〜いっそ〜この子のうちで〜初詣しましょうか〜
　　　晶：？
　　卯月：マキさん、それってどういうこと？
　　マキ：うふふ〜おねーさんはいろいろと用意してきたのよ〜。

 

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そういうわけで、僕の家に帰ってきたあと、マキさん達は、僕たち３人を追い出して
なにやらいろんな作業を始めた。すぐ済むっていうけど、何をするんだろう？

 

　まどか：はい、もう準備は出来たわよ。
　　卯月：ちょっと壁に落書きしたけど、帰る前にはちゃんとけしとくから。
　コオル：それはいいんだけど、なに、その格好？
　まどか：似合ってますか？巫女服っていうんですけど。
　　卯月：神社で神様に仕える女の子が着る服なんだよ。

 

画像でお見せできないのが残念です。

 

　コオル：みんな、似合ってるよ。
　　　晶：ならいい、はやくする。
　　　結：あ、あの……どうぞ……こちらへ……

 

なんだかよくわからないまま、僕たちはなぜか風呂場に案内された。
そこには、まどか、卯月、晶、結とはまた違った格好のマキさんが待っていた。

 

　コオル：マキさん…それはいったい？
　　マキ：うふふ〜これは神主さんの格好よ〜
　　　　　そんなことより〜ここで手を洗って口をすすいでからこちらにどうぞ〜。

 

マキさんに言われたとおり、風呂場に張ってある水で手をすすぎ、水桶の水で口をすすぐ。

 

　　　結：アスレイさん……その……そこの水は……今……出したばかりだから……大丈夫……です……
アスレイ：べつにそういうことを気にしてる訳ではありませんわ。
　　マキ：では〜まずは〜私たちが〜やってみせますから〜
　コオル：やってみせるって、なにを？
　　マキ：参拝のしかたですよ〜。

 

そういうと、５人は、風呂場の壁に書いてある＃マークの上に突き出た部分がないような
ものが描いてあり、その＃印の下に何かの箱…っていうか、小型の祠みたいなものの前に
向かって、二回お辞儀、そのあと柏手を２回、さらに一回お辞儀する。

 

　　マキ：これだけです〜。最後のお辞儀のときに〜お願い事をするんですよ〜
　コオル：そうしたら何かすごい精霊が現れて願いを叶えてくれるの？
　　卯月：そういうのは一切なし。
　　　晶：神への祈りは自分への決意。天は自ら助くる者を助く。
　　　結：ですけれど……苦しいときの………神頼みとも〜いいますから………
　まどか：信じる者は救われるわよ。物は試しでやってみたら。
　コオル：まあ、まどか達がそういうなら。
　　マキ：アスレイちゃんやルテジアちゃんも遠慮しなくていいわよ〜
　コオル：じゃあ、３人一緒にやろうか。
アスレイ：そ、そうですわね。
ルテジア：まあ、何事も経験じゃない？

 

お辞儀一回。
お辞儀二回目。

 

ぱん
ぱん

 

そしてお辞儀…願い事……

 

　　マキ：おつかれさま〜
　　卯月：というわけで、お正月といえば
　コオル：お正月といえば？
　まどか：お年玉！
　コオル：お年玉って？
　　　結：……あ、あの……まどかさん……卯月さん……ええと………
　　　晶：我々の世界の風習。お正月には、大人が子供に特別な小遣いを渡す。
　　卯月：雇い主からもらってもいいかなって思ったんだけど…
　　マキ：年下の子にお年玉もらうのもなんだかな〜って思うから〜
　　　晶：餅を作ってきた。おせち料理はビルギエッタ師匠のところに置いてきてしまったが
　　マキ：こっちは帰ってからのつもりだったから、まだ持って行ってないわよ〜
　まどか：じゃあ、みんなで食べようよ。
アスレイ：あきれましたわ。晶石集めをするのではなかったんですの。
　コオル：大丈夫だよ。一日ぐらいは休んでも。
アスレイ：その一日が命取りにならないとよろしいですわね。
　　マキ：アスレイちゃんの分もあるわよ〜
　　卯月：アスレイは卒業が危ないなんてこと全然ないんだから、せめて一個ぐらい食べていったら。
ルテジア：餅って、どんな食べ物なの？
　　　晶：今雑煮を作る。少し待って欲しい。そうすればわかる。

 

結局、今日は晶石集めも講義も全然やらずに、一日中みんなと騒いでた。
けど、まあ、いいか。やるべき事をやっていれば、後は神様がなんとかしてくれるよ。
初詣もしたんだから。

 

…けど、神様って、一回の初詣で、二つの願い事を、両方とも叶えてくれるのかな？

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