召喚少女別伝
【第六章】
サービスしちゃう？ああっご主人さまぁん
ここは、晶の喫茶店である。
名前は、まだない。
「名前のない喫茶店などない。匿名希望にしているだけ」
「あ、あのお姉ちゃん…出だしからそんなけんか腰にならなくても…」
「すまない。だが、ナレーションには一言言いたくなった」
「まあまあ」
「気がついたら、なんだかここに来るのが習慣になっちゃったね」
「そーそー。部活帰りにぶらっとよったり」
「夜勤明けのブラックコーヒーがおいしいのよ〜」
「食い逃げしない客ならいつでも歓迎」
「あら〜食い逃げなんてしたことないわよ〜」
「そういえばそうだった。少し、記憶が混乱している」
「みたいね〜」
「あの子の手伝いも、ずいぶん慣れてきたんじゃない？」
「うん、それは実感するよ。モンスターなんか一撃だし」
「…こちらで、そういう…練習とか…してるわけじゃ……ないから…」
「やっぱ、あいつの努力？」
「そうじゃない？近況報告でも、毎日まじめに勉強してるみたいだしね」
「その分、部屋の散らかり方は異常。食ってる物は輪を掛けてひどい」
「ルテジアが時々は行ってるみたいだけど、一緒に住んでるわけじゃないから
面倒は見きれないみたい」
「まず〜あの子って〜生活が不規則だから〜」
「マキさんも十分生活が不規則だと思うよ」
「私は〜お仕事の都合で仕方ないけど〜」
「あいつは自分でスケジュールを立てる能力に欠けてるだけ」
「…おねえちゃんも…深夜までゲームしてるけど…ちゃんと…生活は規則正しいし…」
「向こうは一日が30時間だから、こっちで予定表作ってあげるってのもね」
「けど、召喚が出来ないだけで、勉強自体ははかどってるんじゃない？
師匠のビルギエッタ先生からも、がんばってるって評価はもらってるらしいよ」
「召喚できなければ落第。何の意味もない」
「それもそうか。けど、努力を続けてれば、何かきっかけを見つけられるよ」
「きっかけっていえば、ほら、あの子の勉強見てる女の子っていたじゃない」
「だれだっけ？ああ、あの子か」
「アスレイちゃんだったかしら〜」
「そうそう、アスレイって子。あの子とアスレイと、どういう関係なのかしらね」
「アスレイがどう思ってるかは、見ればわかる。
あいつが何を考えてるかも、見ればわかる」
「…お姉ちゃん、みたらわかるんだ…」
「わからない方が鈍すぎる」
「あぅぅ…」
「けど、二人とも奥手だから、ほっといたんじゃ絶対”ただのお友達”で終わっちゃうね」
「奥手っていうか、あの子って鈍すぎるんじゃないかな」
「なまじルテジアが身近にいるから、かえってわからないんじゃない？」
「けどま、関係ないっちゃ関係ないよ」
「そうはいかない。わかった以上…なんとかしてやりたい」
「あー、晶ちゃん、あの子の事気に入ったんだ〜」
「努力もせずに不平を鳴らす奴は嫌いだ。
だが、がんばっている奴は、何か応援してやりたくなる」
「そうね〜。けど、応援するって言っても、今まで通り
クエストの手助けぐらいしか、出来ることはないよ」
「……いや、他にも出来ることは、ある」
「他にできること〜？」
「魔法のことは全然わからないが、別な事なら、すこしはわかる」
「わかるって…晶って、そういう経験豊富なんだ…」
「そ、そういう意味ではない」
「あら〜隠さなくてもいいのよ〜、初恋はいつかしら〜」
「しょ、小学三年生…」
「おあいては？」
「あ、相手は……だーっ！私の話はいいっ！」
「その話はまたこんどゆっくりと…」
「しないっ！」
「お、おねえちゃん……そんなムキにならなくたって…」
「とにかくっ！ あいつが卒業出来なければ、契約がいつまで経っても終わらない。
すこしは考えるべきだ」
「それと、追加の手助けと、なにか関係あるの？」
「…べつにないけど…」
「けど〜。ちょっとお姉さん、面白いこと思いついちゃった〜」
「なになに？面白いことなら大賛成」
「あのね…」
中略
「〜というわけなのよ〜」
「確かにそれは面白そう」
「ふむ…悪くはないな」
「え、えと…あの…そんなこと…するんですか…」
「そのくらいやらないと〜あの子達はわからないわよ〜」
「マキさんって、結構過激だったんだ…」
「うふふ〜おねえさんに、おまかせあれ〜」
「おかえりなさいませ、ご主人さまぁん」
まどかから、全員を召喚してくれ、という電話が掛かってくるのはこれで2回目だ。
前はピクニックに連れて行けって話だったし、今度もそういう話じゃないかと
ある程度見当をつけていて、トビー爺さんには景色のいい釣りの場所を教えてもらい
レナからは、釣り竿やピクニック道具をレンタルする約束をして、準備万端整えてから
家に帰ってきたんだけど、帰ってきた僕を出迎えたのは、冒頭の台詞だった。
「えと、どうしたのみんな？」
「ご奉仕にまいりました、ご主人さまぁん」
「いや、だからどういう事か説明してよ」
「簡単に説明すると、家の掃除と当面の食事の準備に来たのよ」
「えと、べつに僕はそんなこと頼んでないし、家が散らかっててもべつに困らないからいいよ。
使ってる部屋なんて、台所と自室ぐらいで、他はほったらかしだし」
「それが良くない」
「え？なんで？」
「精霊というのは、要するに万物に宿る魂なのだろう」
「そういう説もあるね。異世界にあるエネルギーって説もあるし
この世界にやどる精神の具象化って説もあるけど。
でも、それと家が片づいてないのは無関係だよ」
「大いに関係がある。店でも、お客さんに見えないところまできちんと
掃除が行き届いて、初めてお客さんに好印象を与えることが出来る。
第一、自分の家の物の気持ちがわからなくて、精霊の気持ちを理解出来ないのは当然」
「…あ、そういうこともあるか。晶、ありがとう」
「それぐらい常識。わかったら掃除の準備を立てて欲しい…ご主人さまぁん」
「…いや、とってつけたように言わなくてもいいし…」
「ごふまんですか〜ご主人さまぁん」
「いや、だから、無理に言わなくてもいいってば」
「無理に言わなくてもいいということは、好きこのんで言ってもいいということだよね、ご主人さまぁん」
「変な気持ちになるからやめて」
「わかりました、ご主人さまぁん」
「……ちょ、ちょっと講義に出かけてくるから、あとよろしくっ！」
「はい、行ってらっしゃいませ、ご主人さまぁん」
な、なんだったんだ今のは。
夢かな？夢だとすれば、僕にそういう願望があるということか？
ううぅ…最近、クエストや講義で、食べる暇もなく勉強してたからかな。
まどか達の言うとおり、もう少し余裕を持ったスケジュールを立てよう。
とりあえず、校内をぶらぶらしてから、講義に出ようか。
次受けたい講義まで、あと一時間以上あるし。
「あら、校内の散歩ですか、結構なご身分ですわね」
「たまには息抜きをしないとね、アスレイは予習？」
「当然ですわ」
「そうだアスレイ、一つ聞いてみたいことがあるんだけど」
「なにかしら？」
「アスレイって、いつ寝てるの？」
「…夜はちゃんと５時間眠ってますわ」
「5時間寝れば十分なんだ、ありがとう、参考になったよ」
「どういたしまして。…それで、あなたは、今まで何時間寝てましたの」
「うーん…クエスト中にまどか達に見張ってもらって昼寝したり
講義の休みに教室で2時間ぐらい仮眠を取ったりかな。
時間を決めて眠ってるわけじゃないから、よくわからないや」
「はぁ…そんな不規則な眠り方をするから、授業中に居眠りするんですわ。
どうして規則正しい生活が出来ませんの」
「そんなことやってたら勉強が追いつかないんだよ」
「規則正しく生活しなければ、体のリズムが狂いますわよ。
研究職志望でしたら、戦場みたいな生活リズムは必要ないですわ」
「…そうかも。じゃお休み…」
「ここで眠りますの？」
「講義中には眠れないからね。講義が始まったら起きるよ」
「そうですか。せいぜい、風邪を引かないようになさいませ」
「ありがとう、アスレイ」
いつまでも講義は受けていられない。
ていうか、どうせ冗談なんだろうから、しばらく僕をからかったら
たぶん、元通りになってると思う。
一続きの講義列（10時間ほどだよ）が終わったし、そろそろ家に帰ろうかな。
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ〜ご主人さまぁん」
「………まだやってるの？」
「家の掃除はあらかた終わった。とりあえず確認を頼む……ご主人…さま…」
「確認っても、べつにいいよ、掃除なら世界中どこでも同じだろうし。
ていうか、掃除道具の場所なんかはどうやって調べたの？」
「うちから持ってきた。この世界の掃除道具を使ってもいいが
化学ぞうきんを使ってほこりを吸着させたほうが効率がいい…ご主人さまぁん」
「だから、無理してまで言わないで」
「は〜いわかりましたご主人さまぁん」
「…あのさ、一体なんでそういう呼び方を始めたの？」
「だって、仮にも雇い主なんだから、君とかこいつとかあの子じゃ悪いんじゃないって話になって」
「それで、何がいいかって話をしてたら、ご主人様だよねっていうことになったんだよ」
「…メイド喫茶ですと……お客さんのこと…そうよびますし…」
「だから、気にしないでね〜ご主人さまぁん」
「やっぱ、マキさんが一番上手…」
「うふふ〜経験の差よ〜」
「何の経験なの？」
「お姉さんは〜動物のお医者さんだから〜」
「動物に、ご主人さまとか言うの？」
「動物だからこそ〜心を込めてお話するのよ〜ご主人さまぁん」
「…動物だから、心を込めてお話しする、か…」
「どうしたのご主人さまぁん」
「…………お腹すいた…」
「では、そろそろ食事にしよう。食卓で待っていて欲しい、ご主人さまぁん」
「…晶、だから無理しなくていいってば…」
「わかった。食卓でお待ちください、ご主人様」
「………うん、みんなは？」
「我々は帰ってから食べるから大丈夫。
給仕は結にさせる。ドジっ娘だが、向こうでもちゃんとウェイトレスをやっている。
心配せずに何でもいいつけてもらっていい。ご主人様」
「…晶が言いにくかったのって、語尾を伸ばすことだったんだ」
「甘えたような声を出すのは苦手…」
「それは性格だもんね」
「では、直ちに料理の仕上げに入る」
「仕上げって、もう出来てるの？」
「もちろん。掃除の後、みんなで料理を作ったのよ、ご主人さまぁん」
「へー」
「材料なんかは、ルテジアさんからお金を借りて買ってきましたけど…よろしかったでしょうか…
ご主人さまぁん…」
「べつにいいよ。じゃ、食堂で待ってるから」
「はい、すぐにおもちしますご主人さまぁん」
・・・・いかん。だんだんみんなが”ご主人様”って言うのに慣れてきたぞ。
なんだか、このままだと自分がダメ人間になるような気がしてきた…
「うふふ〜お仕事はこれで半分ね〜」
「そうだな。…我々が町中で噂を言いふらしておいたし
これで、多少はあの鈍い女も、動く気になるだろう」
「ルテジアにも頼んでおいたし、レナにもお願いしたし」
「…あ、あの…本当に、こんなことして、いいんでしょうか？」
「なに？結ちゃんは恥ずかしい？だったらやめていいよ」
「い、いえ、そういうわけではないんですけど…」
「…まあ、ご主人さまぁんが、結ちゃんご指名だったら、追い打ち掛けちゃうかもしれないね」
「あ、あの、べつにそんなつもりでは…」
「…噂をすれば。…魔法の鳴子に反応有りだ」
「では〜お姉さんが出迎えてきましょう〜」
「お願いね、マキさん」
「結、料理を出す。特別にフルコース用意した。順序よく出して料理の説明をするように」
「は、はい。わかりましたおねえちゃん」
「まどか、ボク達はお風呂の準備だね」
「だね」
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「はい、満足いただいてありがとうございます…ご主人さまぁん」
「…ていうか、いい加減それ辞めてくれない？聞いてる方が変な気持ちになるから…」
「そうですかご主人さまぁん。私は…だんだん言い慣れてきましたけど…」
「いや、何か人間として間違ってるような気がするから」
「…ですけど…今日一日ぐらいは…かまわないんじゃないでしょうか…ご主人さまぁん…」
「じゃ、今日一日だけね」
「はい、…ありがとうございます、ご主人さまぁん」
なんとなく、妥協させられてしまった。
「ご主人さまぁん。お風呂の準備ができました」
「お風呂の準備？ありがとうまどか」
「卯月も褒めてあげてね、ご主人さまぁん」
「わかったよ。じゃ、着替えを用意してから行くから」
「はい、ごゆっくりご主人さまぁん」
………気にしない気にしない。
着替えを用意してゆっくりお風呂に入って、今日はさっさと寝よう。
明日から規則正しい生活を心がけて、中間試験を乗り切るぞ〜っ！
召喚以外の講義は、今度の中間試験で卒業可能な水準まで引き上げて
卒業試験は、召喚術に専念出来るようにしておきたいな。
マキさんの言葉や、晶の言葉に、何か召喚のヒントがあったような気がするし。
さて、お風呂に行くか。
「いらっしゃいませご主人さまぁん」
「うわああああ」
「どうなさいましたご主人さまぁん」
「ど、ど、どどうしたって、一体何事なのその格好？」
「もちろん、ご奉仕のためです、ご主人さまぁん」
「ご奉仕って…一体なにをするの？」
「…簡単に言うと、ご主人様が風呂に入る手伝い。
背中を流したり頭を洗ったりする」
「……それならべつに水着でいいんじゃ。
あ、バスタオルの下は水着になってるとか」
「ご主人さまぁん。ボク達がそんなおもしろみのないことしませんって」
「うん、バスタオルの下は、期待通りだから安心してね、ご主人さまぁん」
「なら、やっぱり水着なんだ」
「ちがうわよ〜ご主人さまぁん」
「…あ、あの……え、遠慮せずに…誰でもご指名ください…」
「ご指名って、1人…誰かえらべってこと？」
「はい、どうぞ私をご指名くださいご主人さまぁん」
ハモって言うなぁ！…ていうか、い、いくらなんでも
こ、こ、こ、こんな状況アスレイに見られたら、なんていいわけすればいいんだ？
むしろ、言い訳の余地なんて残らないじゃないか。
ど、ど、ど、どうしよう？
「どうなさいました、ご主人さまぁん」
「え、えと…どうしましたって、…た、た、た、ただでさえ街で
変な噂が流れてるのに、こ、こんな事アスレイに知られたら…」
「…アスレイに知られたら？」
「………なんていいわけすれば…」
「………ご主人さまぁん…誰も選ばないって選択肢も、逃げるって選択肢もないですけど…」
「…どうしても、誰かを選ばないとだめ？」
「口で言いにくかったなら〜指名札を上げてくれれば〜いいですよ〜ご主人さまぁん」
「…ぢゃ、指名札をとりあえず…」
な、なんでこんな事に…って、なんで6枚指名札があるんだろう？
ええと、まどかに、卯月に、マキさんに、晶に、結に、アスレイ？！。
アスレイはこの場にいないじゃないか。…うん、良かった。逃げ場が出来て。
「じゃ、じゃあ…この子で」
「あら〜やっぱりアスレイちゃんを選ぶのね〜」
「なーんか残念」
「なに言ってるの卯月。最初からわかってたでしょ」
「あはは、まあね」
「ご主人様。安心する。ちゃんと指名札に入ってる人がサービスする」
「で、では…ご主人さまぁん…ごゆっくり…」
「？？？」
何を言っているのかよくわからないが、まあ、とりあえず風呂場に行こう。
「………お、おまちしておりましたわ、…ご主人…さま…」
「え、え、えとえとえと…アスレイ？」
「ど、どうなさいました…ご主人…さま…どうぞ…かけ湯をなさってお風呂にお入りください…」
「う、うん…」
本当にアスレイがお風呂の前で待っていた。
べつにバスタオルをまいた格好、っていうわけじゃなくて
浴衣（そのときにはどんな名前の服かしらなかったんだ。後でまどか達に聞いて、
ゆかた、って名前なんだって知ったんだけど）を着てる。
ただ、生地がやけに薄いから、なんとなく体が透けて見える。
うう、見たらまずい場所がちゃんと隠れてるまどか達の方がまだ目のやりばがあったよ。
あんな、全体が湿気を吸ってほんのり透けたら、目のやり場が本当にないじゃないか。
アスレイは、透けてるのにまだ気づいてないみたいだし…。
とりあえず、僕は湯船につかって目をつむる。
まだ心臓がどきどきいってる。
まどか達は僕をからかうためにやったのはわかるけど
なんでアスレイがここにいるんだろう？
べつに、まどか達は、幻覚魔法なんて使えないはずなのに。
「あまり湯船につかってますと、のぼせてしまいますわ…ご主人様…」
「あのさ、アスレイ。まどか達は僕をからかうためにやってるだけだから
何もアスレイまで”ご主人様”なんて言わなくていいよ」
「…………からかうため？」
「うん、何も聞いてないけど、絶対そうに決まってるし」
「…召喚獣と召喚主の関係は、ペットと主人ですわ。
それを家畜扱いするか、家族の一員とするかは、召喚主の好みですけど
召喚獣から見れば、召喚主がご主人様なのはとうぜんですわ…ご主人様…」
「いや、だからそれはいいってば……まどか達はそうする理由があるけど
アスレイにはべつにそうする理由はないはずだし」
「…理由は…ありますわ」
「なに？まどか達と一緒にアスレイも僕をからかってるの？」
「…違いますわ。………あの…聞いてよろしいですか、ご主人様…」
「いや、だからそれはやめて…でも、質問はいいよ、一体なんなの？」
「あの5人とつきあっているというのは、本当ですの？」
「つきあってるって、どういう意味？」
「…言葉通りの意味ですわ。…その…アダルトな意味でのつきあいをされてるとか…」
「ないっ！絶対にない！…ていうか、それ誰から聞いたの？」
「道具屋のレナからですわ…ご主人さま…」
「………なんだか、いろんなところで訳わからない誤解されてるみたいだなあ。
こりゃ誤解解くの大変そう…」
「…それで、本当のところはどうなんですの、ご主人様…」
「そんなつきあいあるわけないってば。
そりゃ、12歳過ぎれば大人だけど、べつにまどか達はレナやクリスと同じ
普通の友達だよ。ただ、卒業まで、いろいろ僕のことを手伝ってくれるってだけ」
「…私は…友達ではありませんの？ご主人様…」
「…いや、だからアスレイ、それ辞めて…アスレイは、幼なじみじゃない」
「…それだけですの？」
「…………それだけって…どういう意味？」
「私は、あなたにとって、ただの幼なじみですの、ご主人様」
「…………」
「………アスレイ、その質問はずるいよ。僕がアスレイにとってどうなのか教えてよ」
「なんでも質問していいっておっしゃったのは、あなたですわ、ご主人様」
「…ただの幼なじみじゃないよ」
「では、なんですの？」
「特別な幼なじみじゃ…だめ？」
「……ふふっ。特別な、ですか？」
「うん、特別な幼なじみ」
「…ダメですわ。答えになってませんもの」
「…う、…」
「ですけど、本当にいい加減上がらないと、のぼせてしまいますわよ。
さあ、背中を流しますから上がってくださいご主人様」
「う、うん…あ、あれ」
すっこん。
「…いわないことではない。…かなり熱かったでしょう」
「うん、それなりに」
「…皮膚が赤くなってますわ。今水を用意いたします」
「用意って？」
「…はい、どうぞおのみください、ご主人様」
アスレイはそういうと、手のひらから水をしたたりおとした。
額に当たる水が気持ちいい。
「あ、なんか冷たくて気持ちいい。…それも魔法？」
「当然ですわ。これくらいの魔法なら、あなたにもつかえるはずでしてよ。ご主人様」
アスレイに誘導されるまま、アスレイの手のひらから落ちる水を飲む。
「ありがとう、アスレイ。おかげで生き返ったよ」
「では、背中を流しますわ。目をつむってください」
「え？なんで背中を流すのに目をつむる必要があるの？」
「一緒に頭まで洗いますわ」
…目をつむっていると、アスレイは頭から背中から体中…って、ええええええ、あの、アスレイ、そこは…
「素早く洗ってかけ湯をして、暖かい寝間着を着てすぐに眠られる方がよろしいですわ。
のんびりしていますと、湯冷めいたしますわよ、ご主人様」
「う、うん…」
そういう間に、アスレイは体中を洗って石けんを洗い流してくれた。
「肩を貸しましょうか、ご主人様」
「い、いいよ、それぐらいは自分で出来るから」
「そうですの。ですが、肩をお貸ししますわ。…前のお礼もしたいですから…ご主人さま」
「…う、うん、そこまで言うなら…」
アスレイの肩に腕を回して支えてもらいながら歩く。
本当にのぼせてて、本当にまっすぐは歩けないのを実感する。
「では、素早く着替えてください、ご主人様」
「うん、そうするよ、ありがとう、アスレイ」
「どういたしまして、ご主人様」
「………もちろん、明日からは普通につきあってくれるよね」
「ええ、もちろんですわ」
「よかった」
僕は、素早く着替えると、すぐに自分の部屋に帰ってすぐに目を閉じた。
目を閉じても、なんだか眠れない。まぶたの裏にはアスレイの姿が浮かぶし
腕にはアスレイの感触が残ってる。
…何考えてる僕。明日から規則正しい生活をして、絶対に卒業するんだって決めたじゃないか。
雑念を払って、召喚に専念だ専念。……
そんなことを想いながら、僕はいつしか眠っていた。
ああ、言うまでもなく、翌日からはまどか達も、アスレイも、今まで通りに戻ったよ。
…たまに、ちょっとだけ残念な気がするのは、ここだけの話。