「ん、ん〜」
「おや、お目覚めかい、眠り姫」
「な、なに、ここはどこ。……どうして体が動かないの」
「ん？　どうした、洗脳が浅かったか？　用心のために拘束しておいてよかった」
「拘束って……どういうこと？」
「説明する義務はないな」
「説明する義務はなくても、説明してよ、ここはどこ、あなたは誰？」
「ここは地球のどこかで、俺は誰だろうと関係ないさ。まあ、人に名前を聞くときには、自分から名乗るのが礼儀じゃあるだろうさ」
「礼儀って、人を拘束しておいて礼儀もなにもないでしょ、礼儀を説くんだったら、私を自由にしてよ」
「それは出来かねる相談だね。まあ、事情は追々理解してもらうとするさ。少なくとも、俺が宇宙人で、あんたを
　地球外のどこかへさらおうっていうわけじゃない、安心しろ」
「安心できるわけないでしょうが」

瞳は、手足をじたばたさせ、自分の自由になる範囲がどの程度なのかを確認しようとした。
自分がいるのが、ベッドの上であることは間違いないようだった。
ただし、拘束具で両手両足を縛られていて、寝返り一つうつわけにはいかない。
首の方は縛られてないから、180度回すことが出来る。おかげで、ここがどこか見ることは出来る。
視界の中に入ってくるのは、うらびれた工場の雰囲気。そこにいるのは、どう見ても怪しげなゴーグルをかけたおっさん一人。

「おっさんとは失礼だな。まだ20代だぜ」
「考えがわかるの」
「顔に出てる。まあ、高校生から見ればおじさんかもしれないがね」
「私のことを知ってるの」
「まあ、ある程度は知っているさ。名前は名城瞳、身長体重スリーサイズは……」
「ちょ、なんでそんなことまで知ってるのよ」
「さらうときにちょっと身体測定をな」
「この変態が。何を考えてるのよ。はっ、もしかして香港かどこかに売り飛ばすつもり？」
「そんな事をしなくても、東京だって買い手はつく。だが、そういう趣味は俺にはないんでね」
「趣味はないって、じゃあ、どういうつもりなのよ」
「さて、どういうつもりかな。当ててみろ」
「当ててみろって……うちんちは貧乏だから身代金目的の誘拐なんてしたって無駄だからね」
「そんなべたなことじゃないさ。あと2回のうちに当ててみろ」
「じゃあ、改造人間にして戦闘員にしちゃうってのは？」
「……まあ、正解のうちにしておいてやろう。よく当たったな」
「え、うそっ、それが正解なの？　本当に？　冗談のつもりだったのに。
　でも、なんであたしなんか戦闘員にするのよ。戦闘員ならもっと屈強な奴の方が役に立つんじゃない？」
「いろいろとこっちにも事情があるんでね。おまえでないといけないのさ」
「……どういうことなのよ。あたしでないといけないって……」
「教える義務はないっていったろ」
「教えてよ。知る権利がないとしても、好奇心は普通にあるわよ」
「知らない方がいいことってのも普通にあるぜ」
「でも、知らずに戦わせられるのって、いやじゃない、ていうか改造人間って、サイボーグとかそんなの？
　ショッカーの戦闘員みたいな一山いくらなら誰でもいいんじゃない？」
「おいおい、オーギュメントみたいな貴重品を一山いくらの戦闘員に持たせるわけないだろ。
　重要な戦力と見なしてるんだぜ」
「オーギュメント？」
「ふん、口が滑った。オーギュメントっていうのは、簡単に言うと、新時代の兵器のことさ。
　SC空間っていう異次元空間を作り出す能力がある。異次元空間を作り出せるから、在来型の兵器は全く無力化できる。
　そこで戦えるのは、SC空間を作り出せるオーギュメントのみ、ってわけだ。
　あとはディゾナントだな」
「とにかく、オーギュメントっていう貴重な兵器を使わないと戦えないってわけね。あとディゾナントってなによ」
「SC空間で戦うロボットみたいなもんだな。時間がないから簡単な説明で行くぞ」
「ふーん。どっちが強いの」
「そりゃケースバイケースさ。まあ、出力が同じなら、頭の差でオーギュメント使いの方が強い。
　頭が悪けりゃ、オーギュメント使いの方が負けることもあるがね」
「手厳しい言い方ね」
「そうなるさ。おまえさんに負けてもらったらこまるからな。おまえさんの敵は、オーギュメント使いなんだしな」
「誰よ、オーギュメント使いって」
「……まあいいだろう。隠しても仕方ない。……十夜達さ」
「なんであたしが雲野達と戦わなきゃならないのよ。っていうかなんで雲野達がオーギュメントを持ってるのよ」
「話せば長くなるが、はしょって言えば、奴らがオーギュメントを持ってるから、カスミがいなくなったのさ」
「どういうことなの？」
「アインハルト事件」
「なに？」
「アインハルト事件がすべての発端さ。空木理子って奴が、DICEのイデア理論研究の成果を全部破壊して研究員と一緒に逃げ出した。
　すべてはそこから始まったのさ」
「なんでまたそんなことを」
「イデア理論の兵器転用を阻止するためっていってるけど、本当のところはわからんね。アインハルト教授の頃から、オーギュメントって形で
　イデア理論の兵器転用は始まってたからな。ともかく、アインハルト事件でカスミはDICEから追われる立場になったって訳だ。
　で、十夜は空木側に立ってオーギュメントを使ってる。で、カスミはDICE側で今保護されてるが、雲野はカスミを奪取するつもりだってわけだ」
「でも、DICEの方が圧倒的に強いんでしょ。問題ないじゃない」
「オーギュメントには在来型の兵器は一切通用しないって言ったろ。オーギュメント使いを阻止できるのはオーギュメント使いだけなのさ。
　で、雲野を阻止するには、その知り合いのおまえに戦ってもらおうって寸法なわけだ」
「じゃあ、カスミを返せばそれですむんじゃないの？」
「そうはいかない事情があるんでね、DICEの方に」
「どういうこと？」
「カスミは切り札なのさ、DICEのイデア理論研究にとって」
「どういう意味よ」
「さあな。俺は研究者じゃない」
「……そんな事情で、あたしに雲野と戦えっていうの？」
「そんな事情だから、十夜と戦ってもらおうってわけだ。十夜を阻止してくれれば、DICEの研究を邪魔するやつはいなくなる」
「冗談でしょ。どう聞いても、雲野の側に理があるじゃない」
「残念ながら、俺はお願いしてるんじゃないんでね」
「お願いじゃなきゃどうしようっていうのよ」
「俺はカスミを殺すつもりはない。が、DICEの中にはカスミを殺してでもイデア理論研究を進めよう、って奴らもいる。
　そいつらからカスミを守るためにも、おまえの協力は必要だ」
「雲野が勝てば、DICEのそういう連中からも守る必要はなくなるわよ」
「十夜は夢想家さ、いずれつぶれる。最後に立ってるのは、俺になる」
「ずいぶんな自信じゃない」
「カスミを守れるのは俺だけさ。あのときも結局そうだった。その点については俺を信じろ」
「あのときって？」
「信じるか信じないかは自由だし、信じようと信じまいと結果はかわらん。
　だが、俺の言葉に嘘はないはずだぜ」

そう言うなり、J.B.は瞳の顔に手をかざした。
瞳は顔を背けようとするが吸い込まれるように手を見つめてしまう。

「……ふぅ、今度は大丈夫だろう。世話を焼かせやがって。
　うん？……十夜より先に円宗寺か。名城、一仕事頼むぞ、俺も一緒に行く」
「……はい」

東京の一角にある廃墟になった工場。
そこで繰り広げられるJBと円宗寺、そして十夜との戦い。
それが世界の運命をかけたものであることを、まだ当事者以外、だれも知らなかった。

 

 

 

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