新学期が始まったの。
お勉強は日本とは大きく違って、魔法理論が中心なの。
今までの常識が通用しない分、宿題をやるのは大変なの。

「ねえ、霧子ちゃん、泪ちゃん、宿題できた」
「全然なの」
「まったく。そういうヴィヴィオは」
「終わったよ」
「じゃ、見せて」
「いいけど、写したんじゃ先生にばれちゃうよ」
「なら、やり方を教えて欲しいの」
「それならいいよ」

ヴィヴィオを先生に魔法理論の基礎を教わるの。
格闘の練習の後で魔法理論の宿題をするから疲れてて捗らないの。

「格闘の練習をしてるのはヴィヴィオも一緒だよ。
　捗らないのは、基礎がない上にやってるからだよ。
　基礎のお勉強も一緒にしないといけないね」
「どうせなら一年生に入った方が良かったかな」
「大丈夫だよ。まだそんなに難しい理論は出てないし、実技の方は成績優秀だし」
「実技は能力者だから問題ないの。だけど、理論は能力者でもどうしようもないの」
「第９７管理外世界じゃ、魔法使いのことを能力者って呼ぶんだ」
「厳密に言うと、存在波を認識できる能力を持ってる人のことなの。
　ママは最初に発見された能力者なの」
「こっちの魔法は苦手？」
「苦手とか考えたこともないの。だけど、勝手が違うとは思うの」
「すぐになれるよ」
「慣れるといいな」
「まだ新学期が始まって一ヶ月も経ってないよ。それで優等生になれたら超人だって」
「そうかもしれないの」
「この世界の歴史とかは、私よりコロナの方が詳しいかな。
　私は魔法理論とかの方が好き」
「そうなの、自然科学の方が強いの？」
「んー、まあ、そうかも」

そんなお話をしながら、それでも宿題を終えます。

「じゃ、また明日ね」
「また明日お願いするの」
「また明日〜」

ヴィヴィオは家に帰るの。
私達は学校の寮で勉強を教わってたから、そのままなの。

「そういえば、オーギュメントとは別にデバイスを用意するってノーヴェが言ってたけど、どうするのかな」
「分からないの。変身魔法とか言われても、まだどういう原理かも分からないし、できるかどうかも分からないの」
「まだ、魔法のお勉強も、そこまで進んでないもんね」
「焦らずゆっくりやっていくの」

焦らずゆっくりやるつもりだったの。
だけど、その翌日、格闘の練習に行ったらノーヴェがいきなり切り出したの。

「よし、霧子、泪、来たな」
「よろしくお願いするの」
「おねがいしま〜す」
「ヴィヴィオとコロナとリオはもう来てるよ。
　で、今日はおまえら二人に見せる物がある」
「なんですか？」
「これだ」

そう言って、ノーヴェが取り出したのは、普段使ってる防具と同じ物に見えたの。

「見せる物といっても、いつもの防具なの」
「ま、基本はいつもの防具さ。けど、それだけに見えるか？」
「ええと……なにかいつもの防具よりは機能が付いてそうに感じる」
「正解だ、これはおまえらに渡す仮のデバイスだ。
　インターミッドで使うための本式のデバイスは、いま管理局の方に連絡して
　どう調達するか検討中なんだ。
　第９７管理外世界で作るか、それともインターミッド用防具とおまえらの
　デバイスとを同時に使うか、そこらも含めてDSAAにも相談してる」
「大変なことをお願いしてるみたいなの」
「なに、そう大変でもないさ。それに、滞在期間は一年だろ。
　その間に、できるだけのことはしたいからさ」
「ありがとうノーヴェ、それはともかく、これの新機能って？」
「変身魔法、というか、成長魔法が使える機能が組み込んである。
　簡易型デバイスだけど、それだけに使い方は簡単だ」
「簡単って、どうすればいいの？」
「ん、装着して……と、コロナ、ヴィヴィオ、リオ、こっちに来てくれ」
「はーい」
「あ、これがノーヴェの言ってたデバイスなんだ」
「そうさ、で、おまえらには二人の補助を頼む」
「補助って言っても、私はあんまり補助は得意じゃないから」
「とはいえ、リオも成長魔法はちゃんと使えるだろ」
「ええ、一応は」
「二人に基本的なことを教えてやってくれよ。
　デバイスは簡易型で、成長魔法と防御に特化してるから、
　成長魔法は使いやすくあるとおもう」
「それで、どうすればいいの」
「えと、意識を開放して、成長した自分をイメージしてください。
　大体１６歳から１８歳程度をイメージすればちょうどになるはずです」
「コロナの言う通りだよ、魔法式を自分で組まなくても、デバイスが組んでくれるから
　そこらはイメージで大丈夫」
「分かった、やってみるの」

そうは言われても、自分の成長した姿なんてなかなかイメージ出来ないの。
ママの若い頃の写真を自分に重ね合わせるぐらいのことしか無理なの。

「まだ意識が固いよ霧子ちゃん、意識を開放してデバイスを受け入れて」

私の相棒はロンギヌス・スピアなの。だけど、今は簡易型デバイスが出す
存在波をそのまま受け入れるように自分をコントロールするの。

「うん、いいよ霧子ちゃん、そのままイメージして」

イメージしてみるの。

「うん、成功だよ」
「成功なの？」
「目を開けてみて、視点がいつもより高いでしょ」

目を開けるの。
確かに、ヴィヴィオやコロナやリオの背が縮んだように見えるの。
大雑把に、ノーヴェと背丈が同じぐらいになった気がするの。

「よし、それが変身魔法だ。泪、おまえもできるな」
「やってみる」

泪も成功させたみたいなの。
泪の背も私とほぼ同じぐらいになるの。

「ちゃんとしたデバイスじゃないから、背が伸びて体格がよくなるだけだが
　ちゃんとしたデバイスなら、バリアジャケットなんかも作れる。
　簡易型の防具とは性能が段違いだから、できればうちでデバイスを用意したいんだけどな」
「けど、私の相棒はロンギヌス・スピアなの」
「分かってるさ、その相棒を改良するっていうことも選択肢に入ってる。
　まあ、そこらはインターミッドまでに詰めることにしよう。
　今日はそれで練習だ。大きくなった体を自在に操れるようになるには
　相応の練習が必要だからな。
　ちゃんとしたデバイスが用意されるまで、待ってるわけにもいかんだろう」
「それで、簡易型で練習なの？」
「まあ、そういうことだな」
「ねぇノーヴェ、私達も変身魔法使っていい？」
「ああ、もちろんだ。そうでないと練習にならないしな」
「はーい」

ヴィヴィオ達も魔法を使うの。
ヴィヴィオ達はちゃんとしたデバイスだし、慣れてるから楽々とできるみたいなの。

「うん、調子いいよクリス」
「ブランゼル、ありがとう」
「O.K.ソルフュージュ」
「じゃ、みんな成長したところで、軽く基礎練習やるぞ」
「え？」
「え？　じゃないヴィヴィオ、いきなりスパーリングなんてやったら体に負担がかかる。
　二人は変身魔法を使ったのが初めてなんだぞ」
「うん、分かった」
「よし、じゃあ、二人はまず成長した自分の体になれるところからな」

結局、今日は成長した体でいろいろな基礎動作をやるだけで終わったの。
リーチも筋力も普段より増えていて、できなかったことができる気がするの。

「だけど、それは対戦相手も同じ事だからな。
　これが標準だと思わなきゃいけないぞ」
「はい、ノーヴェ」
「よし、今日はここまで、じゃ、また明日な」
「はい」

成長魔法を使ったら、なんだか、自分が魔法使いになった気がするの。
だけど、本当は、デバイスの力で変身しただけで、自力とは言いがたいの。

「ま、深くは考えない、霧子。まだこっちに来て一ヶ月にもならないんだから
　だんだんに覚えていけばいいって」
「でも、インターミッドはあと２ヶ月で始まっちゃうの。
　それまでに実力を身につけなきゃいけないの」
「そうだね、けど、なんとかなるよ、ノーヴィスなら」
「それで満足なの？」
「満足はしないけど、できることを限界までやるだけだよ」
「それは言えるの」

それから数日後、またノーヴェが新しいニュースを持ってきたの。

「第９７管理外世界のアインハルト先生、って人から、二人にプレゼントだそうだ」
「アインハルトおじいちゃんからプレゼントなの？」
「おじいちゃん？」
「ママのパパだからおじいちゃんなの」
「そりゃ確かにそうだな。
　中身は一応知ってるんだが、二人はまず開けてみろ」
「一応知ってるって？」
「まあ、その、そういうことだ」

箱を空けてみて見つけ出したのは、コアブレインだったの。

「説明書きが入ってるの」
「えーと、何々……オーギュメントを魔法世界のデバイスとして使用出来るようにするための
　アタッチメントで、普通にオーギュメントにアブソートすれば使えるってさ」
「とりあえずやってみるの」

私はロンギヌス・スピアに、泪はホーリ・クロスに、それぞれ専用のコアブレインをアブソートするの。

「オーパスっていうにはちょっと高度だけど、独立してオーギュメントになるには
　機能が足りないって感じなの」
「ま、難しいことはいいけど、これでどんなオーギュメントになったのかな」
「第９７管理外世界での、魔法研究の第一人者が作ったと聞いてる。
　これがDSAAの基準を満たすかどうかは、実際に審査してもらう必要があるから
　時間をとって行かなきゃならないけどな」
「いつ行くの？」
「気が早いな、来月になってからの話だ。
　まずはそれが防具としてどの程度の性能があるかきっちり見るところから始めるぞ」
「ノーヴェ、分かったの」
「はい。で、どうするの」
「どうするのって、いつも通りの練習さ。
　スパーはとりあえず防具なしで、そのデバイスを使ってやってみよう」
「はい」

さすがは、おじいちゃんが作っただけあって、性能はばっちりのようなの。
いつもの防具と違って、ある程度痛みも抑えてくれてるみたいなの。

「痛みを抑えてるというより、防御性能が上がって打撃が通りにくくなってるんだ。
　本番も問題なければこれで行くから、よくデバイスになれておけよ」

日を追うごとに練習はだんだんハードになってきてるけど、まだ顎を上げるほどじゃないの。
もちろん、音を上げるなんてしないの。
そして、いつか、ヴィヴィオの背中を追い越すの。

 

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