あっという間の一週間だったの。
そんな今日は、インターミッドの準決勝の日なの。

「よし、ヴィヴィオ、コロナ、落ち着いてるか？」
「うん、ノーヴェ、大丈夫だよ。やるべき事は全部やったし」
「はい、全力で頑張ります」
「ん、まあリラックスしていけ、ここまで来たら適度な緊張感の持ち方もわかってるだろうからな」
「はい」
「じゃ、あたしは二人をつれて控え室に向かう。
　他のメンバーは観客席で応援を頼むな」
「はい」

そういうわけで、ヴィヴィオとコロナ、そしてノーヴェは控え室へと向かうの。
私達は観客席で応援。

「そういえば、フォビアさんもセコンドはいませんでしたね」
「そうですね、一人で戦ってきてるようです。
　今回が初出場ですが、なぜインターミッドに出てこようと思ったのかは分かりませんね」
「みんながみんな１０歳でインターミッドに出る訳じゃないよ」
「そうですね」

アインハルトさんは、なんだか心ここにあらずな感じがするの。

「霧子、ヴィヴィオの入場だよ」
「ヴィヴィオー頑張れー」

今回のインターミッドは番狂わせ多数で、観客もなじみの選手が少ないみたいなの。
だけど、さすが、格闘技はミッドチルダの人気スポーツなの。
観客席は満員で、立ち見もぎっしり。

「泪、まるで甲子園の決勝みたいなの」
「霧子、まだ準決勝だよ」
「でも、熱気はすごいの」
「そうだね」

そして、フォビアさんも入場。

お互いがレフリーに導かれてリングの真ん中へ。
そして、試合開始のゴングが鳴るの。

「精神攻撃でずっと勝ち上がってきたフォビアさんだけど、ヴィヴィオには通用するかな」
「私にも通用しなかったんだし、それは効かないと思うよ」
「でも、ヴィヴィオさんはあなた方のような能力者じゃないですよね」
「ミウラさんの言うのも一理あるけど、そこは対策がちゃんとできてるんじゃないかな」

その通りに、ヴィヴィオは精神攻撃をはねのけてるの。
ちょっとフォビアさんは首をひねるの。
それから、落ち着いて高重力場を形成。

「パターンだね。だけど、それは全部対策したよ。AMF発動！」

ヴィヴィオが叫ぶと、高重力場が消えたみたいなの。

「なんなの？　AMFって」
「Anti Magic Field。魔法力を抑え込む場を作り出す能力だよ。
　私が教えた究極の魔法対策。これで魔法は使えないはず」
「でも、それだとヴィヴィオも魔法が使えないですよね」
「うん、だけど、AMF自体は珍しい技じゃないから、フォビアも対策してるかもね」

事もなげにルーテシアさんは言うの。
だけど、対策があったら、AMFに魔力をつぎ込んでるヴィヴィオが不利なの。

「AMFは想定内……」

そう言うと、フォビアさんは使い魔を放って、ヴィヴィオに襲いかからせるの。

「使い魔も想定内だよっ！」

そう言うと、ヴィヴィオは一気にフォビアさんとの間合いを詰めるの。
そして……。

「打撃じゃ距離が離れちゃうからね」

素早く腕を取ると、卍固めを決めるの。

「え？……ヴィヴィオって、関節技も使えたの？」
「ヴィヴィオの見よう見まねかな、関節技で倒せばいいっていうのは教えたけど
　関節技自体を覚えたのはノーヴェの指導だったはずだよ」

使い魔が助けに行こうとするけど、その前にフォビアさんがタップ、勝負ありなの。

「すごい……私があんな苦戦した相手をあんな速攻で下すなんて……」
「あはは、高重力場や空間湾曲は初めて見せた技だからね。
　私も知らなかったら勝てなかったかもしれない。
　ヴィヴィオには、分かってたから伝授できたんだけど」
「泪の犠打でヴィヴィオが決勝行きなのかもしれないの」
「あんまうれしくない、霧子」
「その前は精神攻撃だけで全部決めてますからね。
　ボクだったら精神攻撃対策だけで精一杯だったかもしれません」
「……やっぱり、クロですね」
「え？　アインハルトさん、どうしたの？」
「あ、いえ、こちらの話です」
「でも、気になるの」
「大したことではありません。クラウスの記憶がよみがえってきただけです。
　あれは森の魔女、クロゼルクの血筋に連なるかたに見えます。
　見た目も、使う魔法もそっくりです」
「クラウスの記憶なの？　だけど、基本的にはもう他人だと思うの」
「ええ、そうかもしれません。ですが、確かめてみたいと思います」
「まあ、どのみち三位決定戦があるから、また来週フォビアさんは見えると思うよ」
「……そうですね、そのときに話ができるよう、なんとか声かけしておきたいんですが」
「どうだろう、所属ジムもないみたいだし、誰に話をしていいか分からないよ」
「では、今から控え室へ行ってみましょうか」
「準決勝の第二試合はもう少し先だね、大丈夫だと思うよ」
「では、私は行ってきます」
「私達は行かない方がいいの？」
「いえ、別に内密にする話でもないので、クロが嫌がらなければ来ていただいても大丈夫です」
「じゃ、行ってみるの」

こうして、私達は控え室へ向かうの。
途中で、ヴィヴィオと出会うの。

「ありがとう、ルーテシアちゃん、おかげで勝てたよ」
「ヴィヴィオの努力だよ。事前の作戦通りだったね」
「それでも、いろいろと教えてくれたのはルーテシアちゃんだよ。
　事前の作戦もヴィヴィオが考えたわけじゃないから、ほとんどルーテシアちゃんのおかげだよ」
「そう言われると照れるなぁ」
「そういえば、クロの控え室はどちらに？」
「クロ？」
「あ、フォビア選手のことです」
「フォビアちゃんならあっちだよ。
　一応、入室前にはスタッフの人の許可がいるらしいけど」
「分かりました、行ってみます」

アインハルトさんを先頭に私達はフォビアさんの控え室へ向かうの。

「あなた方は？」
「私は、アインハルト＝ストラトス。クロ……いえ、フォビア選手には
　クラウス＝インクヴァルドの血族とお伝え下さい。
　こちらにいるのは、私のジムの練習仲間です」
「わかりました、少々お待ちください」

スタッフの人はフォビア選手の控え室の中に入るの。
しばらくしてから、フォビア選手の控え室からスタッフの人と、フォビア選手が出てきたの。

「アインハルトさん……私に何か用なの？」
「ええ、そうです。あなたは、森の魔女クロゼルクの血族に連なるかたですね」
「ええ、そう。だけど、だったらどうしたの？」
「いえ、ただ、あなたにも、過去の記憶があるのかと思いまして」
「クラウスが生きてた時代の記憶はない」
「そうですか、残念です」
「だけど、伝承は残ってる。本当はあなたと対戦したかった」
「どうしてですか？」
「伝承にある、クラウスとクロゼルクの祖先は一種の同盟関係にあった。
　だけど、クラウスは森をまもらなかった。
　それで、クロゼルクの当主は命を落とした」
「……それは、誤解です。お見せできる証拠があるといいのですが」
「あなたの勝手な記憶だけが証拠ということ」
「……いまは、そうなりますね」
「それじゃ証拠にならない」
「そうかも、しれません」
「認めるんだ」
「私がお話ししても、あなたは受け入れることができないでしょうから」
「当然」
「では、かならず証明できる何かをもって、またお伺いいたします。
　よろしいでしょうか」
「そんなものがあるなら、見せて欲しい」
「きっとあります。クラウスの時代の事についても研究書ならいくらでも……」
「……研究書じゃ証拠にならない、その時代の一次資料が欲しい」
「それはさすがに……」
「やっぱり無理」
「無理じゃないよっ！」
「ヴィヴィオさん？」
「大丈夫、時間さえくれればかならず一次資料を持ってこれるよ」
「そんなもの、あるわけがない」
「あるんだよ、無限書庫には」
「無限書庫って、なんなの？」
「あ、異世界から来た霧子ちゃん達は知らないか。
　無限書庫、次元世界の情報を無限に集めることが出来るロストロギア。
　管理局本局の中枢部にあって、日夜司書さんがデータ整理してるよ」
「だけど、部外者が入れるかなあ」
「じょぶじょぶ、私も司書の資格は持ってるから、司書長さんに事情を話せば
　閉架書庫も見せてもらえるはず。　
　そこには、古代ベルカ時代の情報もあるんだよ」
「私も、行かせてもらってよろしいでしょうか」
「いいよ、だけど、今はコロナちゃんの試合の応援に行かないと」
「そうですね」
「私は一旦帰る。だけど、来週ここに来る」
「そうですね、では、できればそのときまでにお見せできるよう努力します」
「うん、期待はしてないけど、待つだけは待つ」
「ありがとうございます」

こうして、フォビアさんは会場を後にしたの。
でも、森の魔女とクラウスの因縁ってなんなのかな。
それは、多分無限書庫に答えがあるの。

 

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