私達が医務室についた時、ヴィヴィオは眠ってて、ノーヴェがそばについてたの。

「あれ？　ヴィヴィオはどうしたの？」
「医務室に入って気合いが抜けたんだろう。そのままダウンだな」
「よほどの打撃だったんですね」
「そうだな、アインハルト。あんな威力の攻撃をノーガードで受ければそうなる」
「でも、リングの上では、普通に話してましたよね」
「気合いが入ってる間は痛みを感じなかったり、打撃に耐えられたりしても
　ベッドについたらダメージに耐えられなくなるっていうのはよくある話さ。
　ヴィヴィオもそうだったんだろう。医者には治療してもらってるから
　怪我とかはきにしなくていいよ」
「どうして、ヴィヴィオさんは神髄を待ったんでしょう」
「さあな、ここに来るまでの間で話はしたが、勝つための作戦と言ってたよ。
　ただ、それは嘘が混じってるな。
　まるきりの嘘ってわけでもないんだろうけど」
「嘘が混じってるって？」
「エレミアの神髄に耐えることを、自分の義務みたいに思ってたみたいだな、ヴィヴィオは」
「どうしてなんでしょうかね」
「それはうちには分かる気がするわ」

ヴィヴィオの寝てるベッドの隣、カーテンで仕切られてる向こう側から声がするの。

「ジークさん、ジークさんも医務室だったんですか？」
「ガードできたとはいえ、あれだけの威力の技なんてめった食らわへんからな。
　ちょっと治療を受けたんよ。しばらく安静って言われたわ」
「しばらく安静なら、もっと静かにしてた方がよかったですか？」
「いや、もう大丈夫や。話をするぐらいやったら」
「寝てなければならない程なら、やっぱりおいとまいたしましょう」
「いや、もう寝るのも飽きたわ。少し話相手になって欲しいんよ」
「分かったの」
「ヴィヴィオは優しい子やな。エレミアの神髄を、ルール違反じゃない普通の技や言うてたわ。
　全然普通の技やないんやけどな。
　けど、うちがエレミアの神髄をつこうて、ミカさん怪我させた時の事を引きずってるのを
　ヴィヴィオは気に掛けてくれたんよ」
「ミカヤさんがエレミアの神髄で怪我をしたのは知ってます。
　でも、それを引きずってるのを気に掛けるって、どういうことなんですか」
「なんていうかな……ミカさんあれで重傷負ったさかいな。それに、ミカさんに使う前にも
　ろくな使い方してないし、はっきりとあれは呪われた技やおもうてたんよ」
「あれだけの威力のある技ですよね。使えば必勝とまで行かなくても、かなり有利に戦えますよね」
「そうやな。けど、人を怪我させたらスポーツやあらへん。殺し合いや。
　うちはスポーツ選手になりたいんよ。管理局員でさえ非殺傷能力が必要とされるのに
　エレミアの神髄はほんまの殺人技にしかならんからな」
「それと、ヴィヴィオとどう関係があるの？」
「ヴィヴィオは、そのエレミアの神髄を、普通の技やいうてたわ。
　ルールに則った、普通の技やいうてな。
　それを証明するために、わざとエレミアの神髄を受けながら、勝ちに行ったんやと思うわ。
　無茶やけど、無茶するだけの理由はあったんよ」
「結局勝てなかったですよね」
「紙一重や、うちのガードが遅れてて、ああまでヴィヴィオがノーガードで受けへんかったら
　結果は逆や。
　ヴィヴィオ、今回はガードする気もなかったみたいやしな」
「なんでそこまでしたんでしょう」
「うちに気をつこうたんよ。
　うちがエレミアの神髄をつかわへんことにとらわれてることから、うちがエレミアの神髄を憎んでる事から
　解放しようとしたんよ」
「それって、ミカヤさんを怪我させたからですか」
「それもあるけど、ヴィヴィオは知らへんおもうけど、その前からや。
　ヴィクターんとこの屋敷に泊めてもらってた時代にはうちは荒れててな。
　調度品とか部屋とか、神髄を使いまくって壊してたんよ。
　ヴィクターが格闘やってて、うちも格闘やることにしたんやけど
　そのときから神髄は使うまいと思うてたんや。
　けど、ミカさんにつこうてしもた。
　その結果は知っての通りや。
　せやから、なおのこと、エレミアの神髄を憎んだんよ」
「そうなんですか。でも、神髄を使わなくてもジークさんは十分強いですよね」
「十分、かどうかはわからへん。けど、去年は出場できへんかった。
　エレミアの神髄に、心が折れたんよ」
「心が折れるって、どういうことなの？」
「また強敵に出会ったとき、神髄を使うことになるかもしれへん。
　人を怪我させたり、最悪殺すかもしれへん。そう思うたら、怖くなったんや。
　それで、おととし優勝できたけど、去年は出場できへんかった、気持ちがはいらへんかったんや」
「けど、今年は出場ですね」
「うちも同じ所に止まってへんからな、神髄なしで、どこまで自分の力が通用するか、やってみる気にはなったんよ。
　けど、その上を考えてる人がおるとは思わへんかったわ。
　ほんま、ヴィヴィオは優しくて、強い子や。神髄を知ったら普通は使われんことを考えるやろうし
　使わせずに勝つ手段を考えるやろ。
　けど、ヴィヴィオは違ったんよ。
　うちのトラウマを解こうとしたし、エレミアの神髄を乗り越えようともしたんや。
　普通ならありえへんことや。
　大した知り合いでもない相手のトラウマなんて関係あらへんし
　あんな威力のある技使われんかったらその方が儲けや。
　でも、ヴィヴィオは、どちらも克服しようとしたんよ」
「そこまでヴィヴィオは考えてたのかな」
「考えてたやろ。考えてへんかったら、できんことや、あんな事は」
「……ヴィヴィオに追いつけない理由が分かった気がするの」
「どうしたんや、霧子」
「私がヴィヴィオに勝ちたいって思ってる間、ヴィヴィオはもっともっと上を目指してたの。
　ヴィヴィオに勝つには、ヴィヴィオが目指す頂点のその上を目指さないといけないの。
　そうでないと、いつまで経ってもヴィヴィオには本当の意味では勝てないの」
「ヴィヴィオの目指す頂点か……なんなんだろうね、エレミアの神髄を乗り越えなければ到達できないような頂点って」
「なんやろな……ごめん、なんか話疲れたわ、すこし寝かせてもらってもええか？」
「もちろんです。いろんなお話ありがとうございました」

ジークさんは、もう話さなかったの。

「私達はおいとましたほうがいいかな」
「そうだな、ヴィヴィオはあたしがついてるよ。
　おまえ達はもう帰った方が良い。
　次はＵ−１５に向けての練習が待ってる。
　インターミッドが終わっても、まだやるべき事はたくさんあるし
　来年のインターミッドもあるわけだからな」
「そうですね、ノーヴェさん」
「じゃ、解散。
　しかし、ヴィヴィオにはちょっとお説教が必要かもな」
「お説教って？」
「お節介が悪いとはいわんが、無茶すんじゃねえ。
　一歩間違えたら重傷負って、エレミアのトラウマを深くするところだったんだぞ。
　一歩間違えない自信はあったんだろうが、無茶には変わりない」
「そうかもしれないけど、ヴィヴィオの計算上は、勝つための手だったことに間違いはないと思うの」
「分かってるさ。スターライト・ブレイカーを打ち込むために神髄を使わせた面があるのは
　本人からも聞いたよ。
　だけど、お節介の前に、自分の体のことを考えなきゃだめだ。
　自分が壊れてしまったら、相手のことを思っていても、裏目に出る。
　相手に気をつかわせてしまうことになるし、下手すると、それがトラウマになる。
　自分を大事に出来ない奴は、人を本当の意味で大事に出来ないものさ」
「はい」
「話が長くなりすぎたな、今日はゆっくり休めよ」
「はい」

こうして、私達は医務室を後にし、そして、競技場から家路へとつくの。

「それにしても、すごい試合でしたね」
「そう思うの。ヴィヴィオに勝つには、ああいう試合のその上が必要になるの」
「その上なんて想像も出来ないですよ」
「でも、その上がいるの」
「……」
「アインハルトさん、どうしたの？」
「あ、いえ、私が私のことにとらわれてる時、ヴィヴィオさんはやっぱり、私のことも心配したんでしょうか」
「それは当然だと思うよ」
「……どこから、その心が生まれるんでしょう」
「なのはおばさんの影響かな」
「ヴィヴィオから聞いたことあるの、自分はなのはおばさんに助けられて今があるから
　なのはおばさんみたいになりたいし、なのはおばさんにも恩返ししたいって」
「なのはおばさんって、ヴィヴィオの言うなのはママの事なの？」
「そうだよ」
「そういえば、なのはおばさんにはまだ会ったことなかったね」
「管理局で忙しく働いてるから、なかなか時間が取れないんだって言ってた」
「そうなの。一度会ってみたいな」
「こんど、ヴィヴィオに話してみると良いよ」
「そうだね」

高町ヴィヴィオの恩人にして、目標である人。
どんな人なのか興味があるの。
いつか、会えるといいと思うの。


　

 

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