雲野霧子の留学
【第五十四章】
〜アスティオン〜


さて、今日はヴィヴィオの壮行会なの。
だけど、何故か場所はヴィクトーリアさんの屋敷で、ジークさん、ファビアさんも合同になってたの。

「こじんまりと、うちのジムだけでやる積もりだったんだけどな」
「ジークは他人じゃありませんし、ノーヴェのジムもうちのジムの出先みたいなものですからね。それに、ファビアも古代ベルカに連なる人みたいですし」
「ヴィクトーリアさんも古代ベルカの雷帝に連なるんでしたよね」
「そうですわね。血縁はだいぶ薄いらしいですけど」
「こんな豪華な壮行会を開いてもらっていいんですか?」
「遠慮無く。私達を打ち負かして代表になったんですから、それ相応に活躍してもらわないと困りますものね」
「あはは、頑張ります」
「ヴィヴィオ、笑い事じゃないぞ」
「ノーヴェの言うのも分かるけど、なんだか現実感が無くて、緊張しないんだよ」
「そりゃ現実感が出てきたら固くなるってことだろ」
「そうかも」
「そんな緊張することあらへん、ミッドチルダ予選を勝ち抜いたなら、よっぽどの相手に当たらんかぎり、勝てない相手やないわ」
「そりゃ前々回優勝者だから言えるんだと思うよ」
「異世界にも伏兵はいますものね、油断は禁物ですわ」
「そうだよね、第97管理外世界から参戦して、いきなり予選ベスト8って例もあるし」
「結局予選は負けちゃったの」
「初参加でそうそう突破されたら、私達の立場がありませんわ」
「ヴィクトーリアさんの言うのももっともだけど、ヴィヴィオもファビアさんも初参加だと思うよ」
「そうでしたわね」

そんな会話を交わしながら、豪華な料理が出そろうと、食事会に入るの。

「アインハルト」
「なんでしょう、クロ」
「まだデバイスを持ってないはず」
「ええ、ノーヴェさんからデバイスを用意すると言われてますが、まだ汎用の防護デバイスしか持ってないですね」
「インテリジェントデバイスを、ノーヴェに頼まれて準備した」
「インテリジェントデバイスですか? それはまた高価でしょう」
「お金のことは気にしない。ちゃんと材料費と手間賃はもらった。それより、この子の事を気に入るかどうかが大事」
「この子って、どういうことでしょう」
「シュトラでは、ユキヒョウを飼ってた。そのユキヒョウを参考に作って見た」
「そうなんですか」
「この子、開けてあげて」
「はい、ありがとうございます……って、ユキヒョウでしたよね」
「ちょっと子供にしてみた」
「どうみても猫にしか思えないんですけど」
「気にしない。それより、名前を付けて登録してあげて欲しい」
「名前……そうですね、ユキヒョウを模したのでしたら、ユキヒョウの名前を付けてあげましょう。
 ……アスティオン、略してティオはどうでしょう」
「自分が気に入った名前なら問題ない」
「そうですか、では、登録はどうすればいいのでしょうか」
「手に取って、そこの紙に書いてある通りにすれば大丈夫」
「分かりました」

そう言うと、アインハルトさんは、説明書きを読んでから、その、ユキヒョウを模したというネコ型のデバイスを手にするの。

「デイバイス登録、アスティオン、愛称ティオ。マスター認証開始」
「にゃあ」

鳴き声も豹と言うより、どう聞いても猫なの。

「ティオ、デバイスセットアップ」

そう言うと、アインハルトさんはティオを使って変身を始めるの。

「気に入ってもらったようでうれしい」

変身も無事に終わったの。テストは成功みたいなの。

「初めての変身とは思えないぐらいしっくり来ます」
「正統派魔女は伊達じゃない」
「ありがとう、クロ、御礼は……」
「勝って結果を出して欲しい。それが何よりの御礼」
「分かりました、ウィンターカップ、優勝を目指します」
「頑張って、今回はU-15のチャンピオンも出るから、優勝すればチャンピオンシップも夢じゃない」
「ありがとうございます」
「そう簡単に優勝させる訳にはいかないけどね」
「そうですね、泪さん。当たった時はお互い全力を出しましょう」
「もちろん」
「私達も忘れないで欲しいの」
「そうでしたね」
「優勝が目標なんですか」
「たとえ戦力的にAクラスを目指すのがせいぜいのチームでも、開幕前は優勝を目指すものなの」
「Aクラス?」
「そういえば、この世界にはプロ野球はなかったの」
「とにかく、やる前に負けることは考えないってことですよね」
「そうなの」
「こんども、ベスト8は私達で独占しようね。そこから先はくじ運次第かな」
「強気ですね」
「実力的にみれば、おまえ達はベスト8や優勝が十分狙える。
 あとは、実力を出し切れるかどうかだな」
「はい、ノーヴェ」

執事のお兄さん……おじさんって言っちゃ悪い程度には若いひとだと思うの……が、ヴィクトーリアさんのそばによるの。

「その件については大丈夫ですわ。うちのチャーター船を使えば、少々の時間オーバーはカバー出来ます。
 ですから、チャーター船の準備を今からしてくださるかしら」
「かしこまりました」

執事のお兄さんは一礼して出て行くの。

「そんなにタイトなスケジュールなの?」
「大丈夫ですわ。明日はちょっと朝早く……日の出より前に出立になりますけど
 今晩出かける必要はないですわ。
 ですから、今夜はゆっくりと歓談して出かけてくださいな」
「あんまり遅くなると、便もなくなるし、寮長さんも心配すると思うの」
「それも心配ないですわ、今夜はここに泊まればいいですし、サンクト・ヒルデには連絡済みですわ。
 ヴィヴィオさんの家にも連絡はしてありますから、気にせずゆっくりと過ごしてくださいな」
「では、お言葉に甘えて」

そうは言っても、話題は来るべきインターミッド本戦と、ウィンターカップミッドチルダ戦になるの。

「アインハルトさんは、新しいデバイスも手に入れたし、これで本戦に向かう準備は万全だね」
「ええ、この子は私の弱点を補うように作られているようです。防御と回復に特化されてるようですね」
「私はロンギヌス・スピアの槍術で戦うわけに行かないから、普通の格闘をメインにして、デバイスは防御に回すつもりなの」
「私もそうかな、みんなは」
「スターセイバーはむしろ攻撃向きですね。ヴィヴィオさんじゃないですけど、近づく為には相手の攻撃を見切って回避できないといけませんね」
「ブランゼルには攻防でお世話になると思います」
「ソルフェージュ、ボク達も頑張ろうね」
「Yes」
「そういえば、2年前の本戦で、強敵ってどんな方がいたんですか?」
「2年も前の事だし、あのときは無我夢中で戦ってたから、誰が強かったかなんてのもおぼえてへん。
 それに、誰が強かったとか弱かったとかより、目の前の相手に集中できることが大事なんよ」
「一戦一戦着実にですね、参考になります」
「別になんか特別な事言うたつもりもないんやけどな」
「同じ事を言っても、結果が伴ってると重みがあるよ」
「だれが言うても、真理は真理や。そうはいうても、2年前はチャレンジャーやったけど、今回はディフェンディングチャンピオンや。
 多分、本戦でも2年前とはちごうて、研究はされとるやろなあ」
「それはそうですよね」
「その分、ノーマークのファビアやヴィヴィオにもチャンスあるんちゃうかな」
「あはは、行けるところまでは行くよ」
「本当はアインハルトと戦いたくてインターミッドに出た。だけど、本戦に出るからには最善を尽くす」
「すいません。私が未熟なばかりに」
「そうだな、あのときは精神的に落ち着いてなかったからな。
 でも、今はどうだ? 落ち着いて戦えるか?」
「はい。誰が相手であろうと、一戦一戦きっちり勝ち上がるだけです」
「そうか、それなら良かった。
 後のことはミカヤ達に頼んであるから、安心して戦ってこい」
「はい」
「そういえば、ミカヤさん達はここに来られてないですね」
「ああ、ウィンターカップの準備をしてくれてるよ、ミカヤ達は」
「私達だけパーティに呼ばれてていいんでしょうか」
「声かけはしたんですけど、ミカヤさんの方で断られましたわ。
 みなさんはゆっくりリラックスして本番を迎えて欲しいけれど
 私はやるべき事を済ませるとおっしゃって」
「でも、達っていうことは、他にも声かけした人はいると思うの?
 みなさん断られたの?」
「みなさん、ミカヤさんが見えないのに自分だけ来る訳にはいかないという返事でしたわ」
「そうなんだ」
「でも、みなさんはリラックスして楽しんでくださいな。
 それがミカヤさんの望みでもありますわ」
「ありがとうございます」

こうして、雑談をしながら、時間は過ぎていくの。
そうして、夜も更けると、就寝時間がやってくるの。

明日は、インターミッド本戦組の出立の日。
そして、私達も目の前にウィンターカップの本戦が待ってるの。






 

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