「うー」
「シャンテ、大丈夫？」
「ん、まあ、担架で運ばれたが、手当してもらったから、今は大丈夫だぜ」
「良かった」

ここは、ウィンターカップの選手控え室なの。
もうシスターシャンテは医務室から出て、控え室で待機してるの。

「本当に大丈夫ですか。手加減とか出来なかったんで思いっきり蹴っちゃいましたけど」
「手加減されてあれならなお悪いだろ。なんか悔しいけど、負けは素直に認めないとな」
「シャンテも練習してたもんね」
「練習も練習なんだけどよ。一番悔しいのはこのあたしが、だまし合いで負けたことなんだよな。
　陛下みたくストレートなタイプだと思ってたのによ」
「すいません、何かひねりを入れないと当たらないと思って」
「大ぶりの構えにだまされるなんて、まだまだあたしも修行不足だな。
　パワーとスピードとスタミナは鍛えた積もりなんだけどよ」
「4ラウンド動けるスタミナを身につけたの？」
「当然。パワーを付けるのにスピードが落ちちゃいけないってんで練習を……」
「シャンテさん、目に汗が……」
「ごまかさなくていいって。でも、あんだけ練習してまだ足りないのかよ。
　おまえら一体なに喰ってるんだ」
「いや、そこはどんな練習って聞く場面だと思うんだけど」
「練習はそっちと同じ以上にやった自信はあるぜ。
　それで勝てないって、一体何が悪かったんだよ」
「うーん」

何が悪かったって、確かにミウラさんのパワーがシャンテの防御を打ち砕いたというのはあると思うの。
だけど、シャンテが求めてる答えは、そういうのじゃないとも思うの。

「相手をのんで掛かるのが悪いとは言いませんけど、慢心は相手を見誤らせますよ」
「あ、シスターシャッハ」
「確かに、あなたは厳しい練習に耐えて、今まで以上の実力を身につけました。
　でも、己を高めるだけで、相手を知ることを怠れば、足下をすくわれても仕方ありませんよ」
「相変わらずシスターシャッハは手厳しいなあ」
「本当に手厳しいのは、試合結果ではありませんかね」
「それが手厳しいってのに……スピードとパワーの他に、防御力も練習しなきゃいけないのかな」
「向上心があるのはいいことです。でも、シスターシャッハは、私の話をまともに聞いてないですよね」
「え？」
「自分を高めるのは良いことです。でも、勝負事には常に相手がいます。
　相手を知ることは、自分を高める事と同じぐらいに大切なことですよ」
「相手を知る……ちゃんと研究もしたはずなのにな。
　それはシスターシャッハも知ってるでしょ。一緒にやったんだから」
「ええ、そうですね。でも、シスターシャンテ、あなたはもう少し謙虚さを身につけた方が、強くなれますよ」
「謙虚さ？　自信があるのが悪い事なんですか？」
「違いますよ。実力に裏打ちされた自信を持つことは良いことです。
　でも、あなたはすぐ慢心して、自分が最強だと思ってしまう。
　対戦相手も、練習を積んで、自分の長所を伸ばして来ていることを忘れてしまう。
　それが良くないのです」
「なんか難しくてよく分からないけど、シスターシャッハ、聞いていいですか？」
「なんです？」
「謙虚さって、なんですか」
「……そこから説明がいるんですか」
「自信を持つことはいいことだけど、謙虚さが必要って、謙虚さってどういう意味なのかわからないんですよね」
「謙虚さで分からなければ、対戦相手を尊重すること、と言ってもいいでしょうね」
「尊重？　飲んで掛かった方がいいんじゃないですか」
「人見て法説けということがあります。ミウラさんは、自分の実力を卑下する所があると聞いてます。
　そういう方には、相手をのんでかかる方が良い結果が出るでしょう。
　でも、シスターシャンテ、あなたは相手を侮る傾向があります。
　そういう人には、相手を尊重し、相手の実力をリスペクトする事が出来るように話をします。
　その方が、良い結果がついてくるでしょう」

シスターシャッハのいうことは難しいの。だけど、なんだか分かる気がするの。
自分に自信を持つこと、相手を尊重すること。この二つがどちらも出来ないと、強くはなれないということなの。

「なんか難しい……」
「いきなり理解するのは難しいでしょうね。
　私の練習方針もすこし間違ってたようです。
　もう少し、あなたより強い人と練習試合を組むようにした方が良かったのだと、今は思います。
　そうすれば、相手を尊重し、相手を理解し、相手を侮るのではなく、相手を正しく見ることが出来るようになるでしょう」
「……」
「頭で理解しようとすることではありませんよ、シスターシャッハ。
　こういうことは理解するのではなく、感じ取るものです」
「感じ取る？」
「そういう訳ですから、怪我が癒えたら練習ですよ」
「えー」
「強くなりたいのでしょう？」
「それはもちろん」
「では、今いる場所にとどまってるわけには行きませんよね」
「それはそうですけど……」
「千里の道も一歩から。一歩一歩進むのですよ」
「うぅ……」
「大丈夫ですよシスターシャンテ、基礎体力作りはもうそれほど厳しくしませんから。
　今の体力、筋力が維持出来る程度はやりますけどね。
　でも、今のあなたに必要なのは、むしろメンタル面での練習でしょう」
「メンタル面の練習？」
「でも、今は怪我を治すことに専念することですね。
　話が長くなってしまいました。では、私はこれで。
　シスターシャンテは、、もう少し休んでた方がいいでしょうね」

そう言うと、シスターシャッハは控え室を出て行くの。

「なんか難しいお話だったね」
「うー、また練習かぁ、なんか怪我が治らない方がいいような気がしてきた」
「よっぽど厳しい練習をしてきたんですね」
「まあな。シスターとしてのおつとめもサボれないし、練習も基礎体力を付けるための練習を主にやったし。
　ずるけようにも、ウィンターカップに向けての練習ってことで、騎士カリムが特別にシスターシャッハに
　マンツーマントレーニングをあたしにって話になってて逃げられなかったし」
「それ、かなり恵まれた環境じゃないの？」
「あたしはもっとサボりたかったぁ！」
「それじゃ強くならないよ……」
「そうかな。陛下なんかは、学業の合間に練習してあれだけ強いのに」
「シスターシャンテも、シスターとしてのおつとめの合間に練習してるんでしょ。　おんなじだよ」
「霧子、おまえの出番だ、行ってこい」
「はい、ミカヤさん、行ってきます」

私の出番が来たの。

「泪も二回戦の出番が来たぞ」

ハリーさんは泪を呼びに来たの。

「お互い、きっちり勝ってこようね」
「そのつもりなの」

いつまでも、シャンテと話をしてる訳にはいかないの。
私達も、ちゃんと勝ち上がらないと。


 

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