「十夜くん、仮眠を取っておいた方がいいよ」

「わかってる。けど、今は眠れないんだ」

「…Hi prestessの逆位置…あなたにとって、今日はあまり良い日にはなりそうに

　ないです…」

「おいおい、マナ、勝手に悪い占い結果を出さないでくれ」

「…悪い結果ではありません…タフな日になるというだけのことです…」

「タフな日か」

「トーヤくん、目をつむるだけでいいから、目をつむってたら」

「そうだな、P-3、そうするか」

「ふふ、十夜くんって、P-3の言うことには素直なんだね」

「からかうなよカスミ」

 

ここは、英国南部の空軍基地。

ヨーロッパ大陸を飲み込んだ、巨大なSC空間から現れる

謎の巨大ディゾナントから、英国を…ひいては世界を守るために

集結している、飛行ユニット装備のオーギュメント使いが待機している場所だ。

 

ほとんど、待機任務ではある。

 

「けど、十夜くん。地中海の方やロシアの方を守るために

　P-７やP-8は飛び回ってる。今までより二人の負担を減らしてる

　だけで、状況が良くなってる訳じゃ全くない」

「ああ、そうだな。広がるのをぎりぎり食い止めてるだけだし

　それがいつ、決壊するか、それすら俺達にはわかってない」

「…Ideas for peace計画も…国際的な非難を浴びてるようですね…」

「ああ、K-unitは人類に使えない力だとかいう話だろ。

　けど、俺達は１０年近くオーギュメントを使ってきてる。

　べつに何もおきてやしないし、K-unitは十分に安全な動力源だ。

　放射能汚染を引き起こすわけでもないし、温室効果ガスを排出するわけでもない。

　一体何が問題だというんだ」

「…ヨーロッパを飲み込んだSC空間が…K-unitの暴走が原因であろう事は…

　…先生の指摘を待つまでもなく…おおよそ…想像が付くことですから…」

「だからって、K-unitの未来を閉ざすことはないだろう」

「十夜くん。気持ちはわかるよ。けど、現実にSC空間に飲み込まれた

　ヨーロッパがある。だから、K-unitを目の敵にする人たちが

　いると言うことも、また、理解してあげて欲しいの」

「…カスミの言うこともわかる。だけど…」

「…だけど？」

「…だけど、俺は…K-unitのもたらす未来を、信じてる。

　K-unitが、本当の意味で、未来を切り開く突破口になると」

「…ありがと、トーヤくん」

「…P-3…」

「焼き餅焼いていい？」

「…ん？」

「十夜くんが朴念仁なのは、今日に始まった事じゃないか」

「なんのことだよ、カスミ」

「ひ・み・つ」

「…？？？」

「…今既に、ハードな一日になってるようですね…」

「なんだよそりゃ…俺は仮眠する」

 

十夜はそう宣言して目を閉じた。

その瞬間、基地全体に、ディゾナント登場を告げる

警報が鳴り響いた。

 

「なんだよ、休む暇ないじゃないか」

「だから、仮眠しておけばっていったのに」

「話を引っ張ったのはカスミだぞ」

「…喧嘩していても…始まらないかと…」

「わかってる。行くぞ、P-3」

「うん、トーヤくん」

「私も忘れないでね」

「忘れてないよ、カスミ」

「…何か自分が場違いな場所にいるようなきになるわ…」

 

k-unit。質量を、SC空間を用いて転換し、任意のエネルギーの形で

取り出すことの出来る、理論上もっとも効率的なエネルギー源。

E=MC^２の公式通りにエネルギーを取り出すのだ。

これを超えるエネルギー供給源は、永久機関以外にはない。

 

その、K-unitのオリジナル、P-3…現在のP-3…からコピーされた

第一世代は、各地の研究所に送られて、第２世代の製造法

さらには第３世代、第４世代と、安価に、かつ、安全に

コピーする方法の研究が行われている。

その研究の中で、ある種の暴走が起きたというのが、現在…

 

「十夜くん、ぼんやりしてたらだめ、そろそろ、ディゾナントに接触するよ」

「…けど…なんだか、今までとは毛色の違ったディゾナントみたいだぜ」

「…うん…話に聞いていたのは、巨大なディゾナントなんだけど

　今感じるのは、そんなに大きくない。精々１０ｍ？もっと小さい感じ」

「…その代わり…数が一つではないようですが…」

「やっぱり、マナもそういう気がする?…私も、なんだか今回は

　今までの訓練とは違った戦いをしなければならないような、そんな気がする」

「ハードな一日というのは、間違いじゃなかったって事か」

 

十夜達が飛行ユニットで接近していくと、やがて飛んでくるディゾナントの

存在が、肉眼でも確認出来るようになった、と、ディゾナント達が

散開するではないか！

 

「ちっ、これじゃSC空間に全部を取り込みきれないぞ」

「…小さく取り込んで、確実に潰していくのは…」

「その間に他のディゾナントに突破される可能性がある。

　くそっ。一機当たりはちっこいから小さなSC空間しか

　作れないとは思うが、だからって…」

「SC空間なしで、カレイドフェノムを打ち込めばいいと思うの。

　SC空間戦にこだわらなくても、飛行ユニット装着のデバイスレインは

　普通の戦闘機より戦闘能力が上なの」

「…P-3…けど、通常空間でのカレイドフェノムで、落とせるか?」

「相手がちっちゃいの。だから、…直径１０mのカレイドフェノムを使えば

　確実にたたき落とせるの」

「…わかった。けど、カスミやマナは？」

「援護をお願いするの」

「うん、いいよ十夜くん。P-3の言うとおり。

　十夜くんの背中は、確実に守るから」

「…では…私は…カスミさんの背中を…守りましょう…」

「…ありがとう…けど、俺達が今まで習った空戦の方法は一つしかないぜ」

「それで十分なの。…発見・決心・攻撃・離脱。空戦の基本はこれだけなの」

「よしわかった。行くぞ、P-3」

 

そういう会話をしているうちにも、飛行ディゾナントは

十夜達を取り囲むように機動する。

 

「複葉機か。なめられたもんだな」

「油断しないで、十夜くん」

「こっちのスピードにはついてこれないみたいだな」

 

十夜、カスミ、マナの３人は、急速上昇で、複葉機型ディゾナント〜

誠志郎がいれば、CR４２だとわかったのだろうが〜から距離をひらく。

ディゾナント達は、大きくループしながら高度を上げて十夜達を

襲撃しようとする。だが、垂直上昇する十夜達には追いつけない。

 

「ひいふうみ…全部で９機か。一航過で確実に一機ずつ仕留めるぞ」

「了解、十夜くん」

 

ループして追いすがってくるディゾナントの一つに向け

十夜は急降下して接近していく。

ディゾナントのうち、３機が急降下する十夜の背後に回ろうとする。

残りの６機は、そのままカスミとマナを襲う構えだ。

カスミとマナは上昇を続けて６機を引きつける。

十夜の方は、背後に回ろうとしたディゾナントのうちの

一機の正面にでると、カレイドフェノムを発生させた。

 

「よし、まずは一機！」

 

第三世代オーギュメントが発生させカレイドフェノムの前に

CR42似のディゾナントは、全体を包まれて撃破された。

 

「…そんなに強い相手じゃないな」

「十夜くん、後ろ」

「わかってる…デバイスレインの攻撃は、前だけじゃないんだぜ」

 

真後ろに回り込んで攻撃しようとしたディゾナントに向けて

第二のカレイドフェノムがきらめく。

再びディゾナントが通常空間で落とされていく。

 

「…楽勝だな」

「トーヤくん。そうとも言ってられなくなったよ」

 

確かに、P-3の言うとおりだった。

今や、十夜が危険な敵であることを、ディゾナント達も

しっかりと把握していた。

十夜にむけて、高度の優位を得たディゾナント達が

急降下で襲撃してくる。その数５機。

残りの２機が、カスミとマナの牽制にあたる構えだ。

悪くない判断能力だと言える。

 

「私たちを甘く見ないで！」

 

追いすがってくるのを見たカスミは、マナに目で合図する。

マナはそれを理解すると、さらにスピードを上げて上昇する。

カスミもそれについて上昇、ディゾナントはそれを確認すると

さらに上昇の速度を上げる。

 

だが、それが二人のねらいだった。

カスミが反転してディゾナントの正面にでる。

十夜と同じ戦術だ。…そして、カレイドフェノムが互いにきらめき合う。

落ちていくのは、もちろん、ディゾナントの方だ。

 

「十夜くんの攻撃で、どこにコアブレインがあるかがわかったよ。

　一旦場所がわかりさえすれば、後はそこにめがけて攻撃すればいい！」

 

僚機が落とされたのを見た…いや、ディゾナントに視覚があるかどうかは

全く不明だが…ディゾナントは、反転してカスミに対処しようとする。

だが、それがこんどは、マナに対して脆弱性を産んだ。

 

「…油断大敵です…」

 

背後から、マナが急降下で追いすがって一撃。

再びディゾナントが撃破される。

マナはそのまま急速降下を続ける。

カスミはその後ろを守るように飛行する。

 

だが、戦いは全く別の様相をしめした。

ディゾナントが集結して十夜を追ったことで、逆に

十夜達に大きなチャンスが生まれていたのだ。

 

「トーヤくん、この距離ならいけるよ」

「ああ、わかった…SC空間展開！」

 

実用化されている唯一の第三世代オーギュメント、P-3の展開可能な

SC空間の大きさの中に、ディゾナント達は集結してしまったのだ。

残った５機のディゾナントが、SC空間に取り込まれる。

こうなると、ごく普通のオーギュメント戦だ。そして

オーギュメント戦に持ち込まれたとき、もはや出力の点で

圧倒的に劣るディゾナント側に、勝利のチャンスはなかった。

 

「…終わったな」

「そうだね、十夜くん」

「…今のところは…終わりですね…」

「今のところの終わりでいいさ。…戦いは、これからも続くだろうし

　奴らも、もっと新しいイデア情報を集めて、挑んでくるだろうけどな」

「…十夜くん…」

「カスミ、マナ、帰るぞ。…つかれただろう？」

「十夜くんの方がつかれたんじゃないの？」

「…ん、まあな。けど、カスミやマナがつかれてないわけじゃないだろ」

「…ありがとう、十夜くん」

「トーヤくん、焼き餅焼いていい？」

「何でそうなるんだよ…」

「…仲のいいことで…」

 

ひとまず、今日の脅威は排除できたようだった。

だが、ヨーロッパを飲み込んだSC空間の中でも

ディゾナント達は日々進化を…いや、試行錯誤を…

行っていることは確実だった。

 

それが何を意味するか？

それが、日々の訓練で、考え得る限りの事態に備えるべきだ

ということ以上のことは十夜達にとって、考えの及ばないことであった。

 

 

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