New War to END WARS
World in Flames
【第九章】
〜Nuclear Escalation〜
「全軍後退せよ、繰り返す全軍後退せよ」
某国のイラク派遣軍の各通信機に突如として次の通信が入った。
「直ちに後退せよ、最終兵器を投入する。繰り返す、直ちに後退せよ。
大統領は最終兵器の使用を許可した。危険地帯から後退せよ」
「後退せよ？一体どっちにだ？」
兵士がつぶやく、その疑問はもっともだ。
ルシフェルの放つカレイドフェノムは、四方八方どこから飛んでくるかわからない。
一体どちらが後方なのかさっぱりわからない。
いや、司令部から先に壊滅しているようでは、どっちに後退していいかわからない。
だが、技術の進歩とはありがたい物だ。
兵士1人1人の携帯地図に、集結地を示した地図が送り込まれてくる。
「退却！退却！」
「急げ、時間がないぞ！」
疲れ切った兵士たちが、最後の力を振り絞って、後退していく。
この状況で使われる最終兵器といえば、ひとつしか考えられない。
巻き添えを受けるような場所になど、いられないのだ。
一方、こちらは、そろそろイラク上空にさしかかる、某国の超音速ステルス爆撃機。
その爆弾倉の中に、P-3達が座ってる。
「ちゃんとSC空間を展開してるの」
「そりゃ普通の人間が与圧もなしに成層圏に行ったら、凍死しちゃうもんね」
「ロシアに行くときも、こっちの方が良かったぜ」
「誠志郎…すこしはP-3の疲労も考えてやれ」
「ううん、トーヤくん。これくらいなら平気だから」
「さて、そろそろ到着だな」
「園宗寺さん。いきなり撃ち落とされたりはしないだろうか」
「どうかな。あまり、期待はしないほうがいいだろう」
「…きっと、大丈夫だよ、お父さん」
「由佳里ちゃん、どうしてそう思うの」
「あのね、カスミおねえちゃん。ルシフェルっていう人、たぶん
ずっと私たちが来るのを、待ってたんだよ」
「待っていた？なぜそう言えるんだ」
「ええと、なんとなく」
「さて、と。ちょっとコクピットに行ってくるね」
「P-7、どこに行くの？」
「儀式だよ☆」
そういうと、霰はSC空間の外に出て、それから量子跳躍でコクピットに飛び込む。
「こんにちは」
パイロット二人がびっくりして後ろを振り返る。
誰も入れないはずの場所に、突然、女の子が現れれば誰だってびっくりする。
「おじさん、ガム貸してよ」
「・・・・・」
返事はない。が、それでも、副操縦士が、ポケットからガムを抜いて渡した。
「ありがと、後で必ず返すからね」
次の瞬間、霰の姿はコクピットから姿を消した。
それから、爆弾倉に展開されているSC空間の中へと戻る。
「借りて来ちゃった」
「P-7、それ、何に使うの」
「瞳、無事に帰れるためのおまじないだよ」
「…我々が無事に帰れるためのおまじないか」
「ううん。この飛行機が無事に帰れるようにって」
「P-7も、変わったような気がするの」
「？どうしたのP-3」
「きっと、昔のP-7だったら、この飛行機の事なんて、気にしなかったと思うの」
「そっかな？私は昔から変わったような気はしないよ」
「ううん、みんな変わったよ。…トーヤくんと出会ったのが昨日のことみたいに思えるけど
みんな…変わったね」
「あー、なに死亡フラグ立ててるんだよっ！
みんな一緒に帰るんだからね。P-3！」
「…そうだな。みんな、ちゃんと、一緒に帰るんだ。俺も、P-3も、…みんな」
「大丈夫…お父さんの計算が合ってれば、みんな、ちゃんと、帰れるから、ね」
「カスミおねえちゃん…」
「怖いのか？」
「ううん。忍おにいちゃん、そういうことじゃ、ないよ」
「…恐怖をごまかさなくていい。怖いのが普通だ。
俺だって、戦場に行くときには、いつでも恐怖を感じていた」
「そうなのかおっさん」
「ああ…だが、怖くないようでは、優秀な兵士にはなれんな」
「…お父さん、怖いとは、思わないよ。
べつに、戦いに行くんじゃないから。
だけど…ううん、やっぱり、怖いかな」
「それでいい」
壬生は、そっと由佳里の肩を抱く。
「…投下時間だ、準備しろ」
「はい、園宗寺さん」
「準備っていっても、特にすることないよ☆」
「P-7、外の様子を見張っていて欲しいの」
「うん、いいよ。P-3、落下の衝撃を受けるのは全部お願いね」
「うん、わかったの」
「じゃ、私が誘導するから」
「ありがとう、瞳さん」
一方、こちらはルシフェルである。
言うまでもなく、ルシフェルは、某国軍の撤退を感じ取っていた。
恐怖に駆られたわけではあるまい。そろそろ、何か切り札を出してくる頃だ。
「…来たか…」
天を見上げる。
砂漠の空、戦場の霧、戦いが巻き上げるほこりの向こうに、成層圏を行く爆撃機が見える。
「挨拶でもしておこう」
杖を照準する。そして、カレイドフェノムを放つ。
空中で爆発が生じるが、爆撃機は、急に速度を上げて逃げ始めた。
「…かばう必要もあるまいに」
それでも、ルシフェルは追い打ちを掛けることなく、その爆撃機が落とした何かが
地上に落下するのを待っていた。
ひゅるるるるるるるるる・・・・・・・・
「そろそろ、地面に激突するの」
「冗談じゃないぜ、ちゃんと受け止めてくれるんだろうな」
「柊、びびってるの？」
「パラシュートとかついてないのかよこれ」
「悠長にパラシュートなんか開いてたら、的になるだけだよ」
「…誠志郎おにいちゃん、P-3おねえちゃんを信じてあげて」
「着地終了」
「すこし、引き上げるよ」
霰の声が外から響いてくる。
空間全体がすこし動いたような感じが伝わると
SC空間が解除された。
「…ついたの」
「…なんにもないな」
「ふむ、最初の情報では、小さな集落があるということだったが」
「集落か？消滅した」
「誰だっ！」
一斉に、P-3達は、声のした方を向く。
もちろん、声の主は、ルシフェルだ。
「…よく来たわね」
「うん、はるばる来たぜ日本から」
「P-７，調子に乗ってる場合じゃないと思うの」
「えとえとえと☆3分だけ、ね、3分だけ好きにやらせてよ」
「…ずいぶんと、舐められたものね」
「舐めてないよ…強敵だって認めてあげたんだよ。
史上最強の戦闘機械、今やP-8を超える戦闘能力を持つこの
霰ちゃんが…P-7が、オーギュメントを使って、戦ってあげるっていうんだよ」
「…それを、舐めている、っていうのよ。
私を誰だと思ってるの」
「確かに、出力だけなら、私を圧倒してるって認めるよ。
だけど、戦いは、出力の勝負じゃないよ。戦闘経験の差、教えてあげる」
「戦闘？あなたがDICE本部壊滅でどれほどやったか知らないけれど
私はずっと戦い続けてたの、知らないの？」
「何をやってたか知らないけど、そういうのは戦いじゃなくて、虐殺だよ☆
本当の、ぎりぎりの、命を削る戦いなんて、したことないでしょ」
「あなたに、戦いの何がわかるのかしら」
「……えっとね…それを今から見せてあげるっ！」
「霰っ！」
オリジナルのカスミの叫びも、もうP-7を止めることは出来ない。
P-7はいきなり空中に飛び上がる。
「日輪の力を借りて、今必殺のソーラーアターック」
P-７が右腕を一振りすると、回りの空間がわずかに歪む。
その歪んだ空間がレンズの役割をして、太陽光線を一カ所に…ルシフェルのいる場所に
集中させた。
「何を馬鹿なことを」
ルシフェルが手をかざすと、集中された光がそのまま反射されて霰の方へ向けられる。
「こんなの、元に戻せば大丈夫」
空間の歪みが、元に戻る。
太陽光を使った霰の奇襲攻撃はまるで成果を上げてない。
「やっぱ、自力でまじめにやらなきゃだめかな」
「軽口を叩いてられるのも、ここまでよ」
ルシフェルが、4双の翼をきらめかせて上空へと舞い上がる。
P-７とルシフェルの双方が、空中で対峙しあう。
十夜達は、地上で見守るだけだ。
「…この勝負、霰に勝ち目あるのかよ」
「霰おねえちゃんには、まだまだいろんな作戦があるみたい」
「…動くぞ」
十夜の言うとおりだった。
P-7が、ブルーリボンを槍のように変形させると、真一文字にルシフェルめがけてつっこんでいく。
「ばかめ」
ルシフェルがカレイドフェノムでP-7を撃ち落とす。
P-7はまっすぐ地面に向かって墜落していく。
「口ほどにもないな」
もう、墜落していく霰には一瞥もせず、ルシフェルは、十夜達の集まりに目を向ける。
「そろそろ、本気を出したらどうだおまえ達。
さもなければ…」
「ルシフェルおねえちゃん。まだ、約束の3分は経ってないよ」
「なんだと？」
次の瞬間、一同はあり得べからざる物を見た。
ルシフェルの体に、深々と槍が突き刺さっている。
槍は、ルシフェルの肩口から、まっすぐ、縦に体を貫いている。
普通の人間なら、間違いなく、即死だ。
「あはは、だから言ったでしょ、戦いは出力だけで決しないって。
…はじけろっ！」
霰が叫ぶと、槍が急激にふくらんだように見えた。
ルシフェルの…カナの体が、はじけ飛ぶ。
完全にスプラッタ映像だ。
「墜落の運動エネルギーを維持したまま量子跳躍したんだよ。
これぞ不条理殺法ワープアタック」
「………それで、勝ったつもりか？」
「なに？」
さすがのP-7も、驚いた声を出す。
カナが手にしていたオーギュメントが、自分の意志でしゃべったのだから。
「戻れ」
杖が、命ずると、飛散したはずのカナの肉体が、完全に再生した。
「…なるほどな、…実体は、杖の方だということか」
「園宗寺さん、つまり、あいつの実体は、杖だってことですか」
「ちょっとだけ違うよ忍くん。完全にカナさんが、オーギュメントに乗っ取られているってこと。
普通は、オーギュメント使いが、オーギュメントを道具として使うんだけど
カナさんは、オーギュメントの道具として、使われてる」
「どういう事だ？」
「驚くことはないでしょう？ウツロと同じ。
簡易ディゾナントに人間が支配できるなら、完全な第三世代オーギュメントに
デバイスレインが支配できて、不思議はないのよ」
「つまり☆杖を破壊しなきゃだめだってことだね」
「…出来るかしら？」
「私の辞書に、あきらめるっ言葉はないよっ！」
「不可能はあるのね」
霰は、何も言わずカレイドフェノムをたたきつける。
ルシフェルは、左手を軽く振ってフェノムを打ち消す。
「がっかりだわ」
「カレイドフェノムで壊せなければ、物理的にたたき壊すまでっ！」
カレイドフェノムに隠れて、霰が量子跳躍で間合いをつめ
ルシフェルが手にしている杖にはまっているオーギュメントのひとつの角を突く。
ルシフェルは杖を後ろに引っ込めてかわす。
轟音が天空に響いた。
衝撃波が、地上にいる十夜達の所まで届く。
霰が、こんどは素早く身をかわして、ルシフェルの放ったフェノムを回避する。
「80cmカノン砲、ドーラだね」
「そうよ。でも、かわしたわね」
「そんな悠長なものに当たるわけないよ☆」
「なら、これはどうかしらね？」
すさまじい勢いで、ルシフェルからフェノムが打ち出される。
どの一発が当たっても、十夜達どころか、P-3ですら消し飛ばせる威力だ。
だが、霰は押し寄せるカレイドフェノムをすこしずつ先を読んで回避している。
「アキレスと亀も知らないなんて。それで一体何と戦ってたのかな☆」
「戯れ言をっ！」
ルシフェルがムキになってフェノムを強化するが、霰にはあたる気配がない。
「…園宗寺さん、一体どういうことなんです」
「忍、ゼノンのパラドクスは知っているか？」
「あ、俺、それ知ってるぜ。飛ぶ矢は不動であるとか、半分のものは全体に等しいとかいうやつだろ」
「柊、むりに難しいのを出さなくてもいいのに」
「…誠志郎くんらしいの」
「そのパラドクスのひとつに、アキレスは亀に追いつけないというのがある。
詳細は省くが、霰がやっていることは、それの応用だな」
「一体どんな応用なんですか？」
「一見流れるように動いてると見せて、実際には、短距離の跳躍をつないでるの」
「さすがだな。私が言おうとしたことを先取りした」
「…一体、どういうことなんだ？」
「だからね十夜くん。霰の移動には、速度成分を持たないということなの。
だから、ルシフェルは、霰の動きを見て、霰が今いる位置へとフェノムを撃つ。
だけど、霰はフェノムの発動を感知してごく近距離の別な位置へ移動するから
絶対に霰にはフェノムがあたらない」
「うん、オリジナルの言うとおりなの」
「…とっさに、それが出来るのか」
「格ゲーでさんざん霰にだまされた技だな。
コマンドを発動したような指裁きで、実はためてんだよ」
「せーしろーくんは、霰によくつきあってたもの」
「だが、いつまでもは持つまい。相手も気付く」
壬生パパの言うとおりだった。
ルシフェルがフェノムの発動をやめたのだ。
「あれ？もう終わり？」
「そう、お遊びは終わりね。
どれほど攻撃をかわしても、私に打撃を与えられないのなら、同じでしょう」
「それはどうかな。コアブレインって、繊細な出来なんだよ」
「試してみようかしら？」
「望むところだよ！」
霰が、ブルーリボンを巨大なハンマーに変形させる。
「まとめて叩きつぶーすっ！」
「これでも喰らいなさい」
直径３ｍはあろうかという巨大なビームが霰を包み込む一方
霰が変形させて作り出した巨大なハンマーはルシフェルを直撃した。
「P-7っ！」
「こんなもの、小指ひとつでとめられる。
残念だったな」
「残念だったのはそっちのほう！」
巨大ハンマーの中から、霰が現れる。
巨大ハンマーは姿を消し、小さな千枚通しを手にした霰が
ルシフェルの杖についたコアブレインを突き通そうとする。
かちん。
「あれ〜ダメかな」
「甘くみすぎている。その程度で壊れるようなコアではない」
「やっぱりか〜。壬生おじちゃんの銃弾をはじき返したとき
そうじゃないかっていう予感はしたんだ〜」
「ふん。おまえのコアブレインが、その程度で壊れる代物か？」
「あは、言われてみればその通りだね。
んじゃんじゃ…全力で行っちゃうよ！」
「全力か…来てみろ」
「じゃ、このままじゃパワー不足だから…」
霰は、ブルーリボンをアブソートした。
「必ず殺すと書いて必殺…」
「Huバリア」
霰の回りに、緑色のフィールドが生まれる。
「おまえが教えてくれたカレイドフェノムだ。
何も突破できないのではないのかな。
さて、…では、これでおまえの最後だ」
ルシフェルが杖を緑色の球体に向ける。
バリアの中の霰が、観念したように動きを止める。
「これで、おまえも終わりだ…」
「そう、これで終わりだよ、光になれっ！Castle Bravo！」
「Tsar Bomba」
キャッスル・ブラボー。アメリカが実験した中では最大の水爆。破壊力１５メガトン。
P-7は、ルシフェルの杖を物理的に粉砕するために、杖の至近距離で
この破壊力を通常空間中に、発生させたのだ。
この爆発は、島を丸ごとひとつ成層圏に吹き上げた。
だが、ルシフェルもまた、霰を通常空間で消し飛ばす為に、史上最大の
水爆の爆発を、通常空間に持ち込んだ。
ツァーリ ボンバ。ソ連が開発した史上最大の水爆、破壊力５０メガトン。
広島型原爆の3300倍の威力。
もう、その破壊力は普通の人間の想像力を超えている。
阪神大震災級の地震を起こすぐらいのエネルギーといえば、多少は想像出来るだろうか。
それとも、地上から成層圏まで達する、半径４０００ｍの火球を生み出す核爆発とでも言おうか。
そんなもののグラウンド０にいる、十夜達こそ不幸であった。
「SC空間全力展開！」
「瞳さん、手伝って」
「うん、わかった…霰ってば、何考えてるんだよ！」
「なんだなんだなんだ？一体何が起きた？」
「説明はあとでゆっくりするから！」
「…霰おねえちゃん。ルシフェルおねえちゃん…これはやり過ぎだよ…」
「由佳里…一体、何が起きたんだ？俺には何もわからない」
「園宗寺さん、今のは一体？」
「私に聞かれても困る」
「だからっ。二人とも核爆発を通常空間で発生させたんだっ！
起爆前になんとか今SC空間を展開して通常空間から切り離したから
即死は免れたけど、通常空間のエネルギーが高すぎるよ」
「ごめんごめん☆ちょっと調子に乗り過ぎちゃった」
「P-7?」
「話は後。やー。まさかルシフェルが核の直撃喰らって大丈夫だなんて思わなかったから」
「霰はどうして無事だったんだ？」
「ん？ブルーリボンをアブソートすると見せかけて、私のイデア情報を打ち込んで
私そっくりのディゾナントに仕立てたんだよ。
油断したところを吹っ飛ばしてやろうと思ったんだけど…やっぱだめだったか（あは）」
「笑い事じゃないよ。ディレイを掛けて耐えてるけど、このままじゃSC空間が持たない」
「わかった。私も支援する」
P-3も、瞳も、P-7でさえ、表情が真剣なものに変わっていた。