これは、霰が藍仙高校の一年生だった頃のお話。
ちょうどWar to END WARSの一件が終わった直後に
霰は藍仙高校に編入されたのである。
だから霰が住んでいるのはまだ体育館の下。

 

「き〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

 

今日も元気にアラレちゃん走りで霰が登校していく。
学校に住んでいる、と他人にいうわけにも行かないので
いったん学校の外に出てから登校。
近いだけにいつもいつも突っ走ってぎりぎり滑り込みの時間に
教室に着くのはお約束の部類であろう。

「おっはよ〜ございま〜っす！」
「おはよ・・」

 

校門前で待ち受ける生活指導にも突っ走りながら挨拶する。
生活指導はある意味おいてけぼりだ。
霰は、といえば、素早く玄関で履き替えてさらに廊下を突っ走る。

 

「き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん、到着っ」

 

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

 

今日もまた８時２０分ちょうどに教室へと到着。
ホームルームは２５分からなので、決して駆け込み登校というほど
せっぱ詰まった登校ではない。が、
一応校則では２０分に教室に入っているようにと定められているのである。

「さてと、今日の一時間目はなんだったかな？」

 

時間割を確認して授業の準備、これもいつものこと。

 

「えと、・・一時間目は国語っと」

 

殊勝に国語の予習をするのか、といえばさにあらず。
ホームルームの時間に国語の宿題を済ませてしまおう、というわけである。
内職は本来禁止なのだが、霰の場合はある種のお目こぼし。
え、なぜって？

う〜ん、そうだ、ここからは霰本人に語ってもらおう。
ちょうどホームルームも終わったことだし。

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん。

 

「はい、では今朝のホームルームはこれまで」
「起立、礼」

 

あ〜なんとか国語の授業までに宿題が終わったぁ。
まったく、なんであの先生こんなに宿題だすのよぉ
私が最大戦速でやってホームルームがまるまるつぶれちゃうなんて、
普通の人がやったら２時間はかるくかかるってことじゃない。
もっと考えて出してほしいな。
そりゃ他の先生の出した宿題が少ないときしか宿題出さないんだから
あんまり文句いっちゃ悪いだろうけど。

 

そう言ってると、れれちゃんが・・あ、れれちゃんって国語の先生ね。
れれちゃんがはいってくる。そしていつも通りに授業前の挨拶。
それから宿題集め。そしていつもの通り抜き打ちテスト・・あれ？
なんで抜き打ちなんてやるの。れれちゃんのいけずぅ

 

もっとも、抜き打ちって言っても範囲は宿題の中だから
宿題をまじめにやってればちゃんとできるはず。
どうやらうつしたか自力でやったか試してやろうって魂胆みたい。
ずっこいなあ。抜き打ちテストもちゃんと予告してよ。

 

ふつうにやって３分で問題を終わらせてから一分掛けてふつうに再確認。
こういうところで力使ったらＰ−６に夕飯抜かれちゃう。
今日の晩ご飯はなにかなあ？

 

なんて考えてたら試験時間の１０分が経過、隣同士で解答用紙を交換して答え合わせ。
ありゃりゃ、こいつまじめに宿題やったの？ひっどい点。

 

「はい、終わったら自分の点を確認してください。
　見終わったら一番後ろの席の人は解答用紙を回収して持ってきなさい」
「はい」

 

うちの学校、それなりに荒れてはいるけど、授業を妨害するような生徒は
そもそも授業に出てこないから、授業風景が荒れたりすることはないんだよ。
授業は出たい人が出て、出たくなければ出たくなるまで出なくていいようになってるの

 

「 うわ、霰い〜な〜、また１００点なの？」
「うん、だって全部宿題に出てたじゃない」
「覚えてるだけでもたいしたものよ」
「えへへ〜だって私天才だもん」
「ほらそこ、無駄話してないで早く持ってきなさい」
「は〜い・・・あ、じゃまた休憩時間に」
「うん」

 

というわけで、残りの時間はふつうに国語の授業。
次の時間の数学は宿題がなかったから内職もしなくていいか。

 

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

 

「起立、礼」

 

というわけで休憩時間。
さっきの事もあるし青葉んとこいこっと。
あっ、青葉ってさっき回答集めてた子ね。

 

「やっほ、青葉、さっきのテストどうだった？」
「聞かないでよ・・霰、宿題やってたなら写させてくれれば良かったのに」
「ホームルームの時間に写すなんて無理だよぉ。
　ホームルーム前にはまだ完成してなかったもん」
「ホームルームの時間にやったの？」
「やったんじゃなくて、完成させたの」
「あ〜なるほどね〜。いいなあ霰は優等生で。
　試験はほとんど百点だし、体育やらせても一流だし、
　家庭科だって満点近いじゃない。一体どんな勉強してるの？」
「べつに家じゃ勉強してないよ。授業をまじめに聞いて覚えておけば
　学校の試験なんて簡単簡単」
「その覚えられるのがうらやましいわ」
「えへへ〜だって、私は人間じゃないもん」
「あはは、そういえばそうだったね〜
　それで、あと残り何万ドル」
「何百万ドル、って聞いてよぉ〜」
「そっか、しっかり稼いでね」
「仕事が無いから利息が付いて増えちゃってるの」
「人間超えるのも大変だね〜」
「人知れぬ苦労をしてるんだよ☆」
「スナイパーなんてやっちゃだめだよ」
「うん、そっち方向は手を出さないからね」

 

き〜んこ〜んか〜んこ〜ん

 

「あ、授業がはじまっちゃう」

こうして二時間目が始まった。

あ、もちろん、人間じゃないってせりふも青葉は冗談のつもりで言ってるよ。
私も他の人に言うときには冗談として言ってるよ。
本気に取られても困っちゃう。

 

そんなこんなで授業や掃除が終わってしまえば待ちに待った放課後。
さあ、今日はロケテスト破りに精出しちゃお。

 

そういうわけで、お小遣いの１００円を握りしめて
ロケテストをやってそうなゲームセンターの当たりをつけに行く。
あ、みっけ。これは対戦格闘パンツァーファウスト５だ。
へえ〜もうあれシリーズ５作目にはいったんだね。

 

私もまじめに一番後ろに並んで順番待ち。
対戦格闘だから二列に並んで待ってる。
つまり、強い人がやってる方にならんじゃったら
反対側がどんどん流れていくってこと。

 

私の並んだ方は、流れが悪かった。
前にいるのは強いやつだったみたい。
こんな事なら向こう側に並べばよかったかな？
そんなこと思っていたら、うちの学校の制服を着た子がちょうど隣に着た。
・・あ、隣の席の秀紀くんだ。名は体を表さずに成績悪くて
おまけにちょっと線が細くて引っ込み思案。
本当はうちみたいな荒っぽい学校じゃなくてもっと落ち着いた学校に行きたかったろうけど、
成績の方が今ひとつでうちに来ちゃったみたいなんだよ。
でも、無視しちゃ悪いよね

 

「秀紀くんもゲームやるんだ」
「う、うん・・アインハルトさん、こんにちは」
「一緒に対戦できるといいね☆」
「え、ええ・・・」

 

というか、向こうの列が早く動いてるから一緒になるとは思わなかった。
だけど途中からこっちの列の方が早く動き始めちゃった。
どうも、今度は向こうに強いやつが来たみたい。

 

結局、ゲーム台にたどり着いたのは私の方が先だった。

 

「えと・・今回はブルムつかお、いっけ〜っ！」

 

もちろん本気の本気は出さないけど、それでも毎日やってる私の腕前は
そんなに悪くない。
ロケテストだから５人抜きで終わりだけど、精霊使いや火の鳥なんかを撃破、
あと一人勝ち抜けば終わりってところで・・あ、秀紀くんだ。
ん〜秀紀くんだったら、オリジナルそのままの実力でやってあげないと
かわいそうかな？
テストじゃいじめたみたいになっちゃったし、勝たせてあげてもいいかも。

 

・・・YOU WIN

 

あれ？勝っちゃった。
オリジナルに負けるって・・・もしかして、対戦格闘すらものすごく弱いんじゃ・・・。

 

「残念だったね」
「、あ、はい・・・そうですね」
「もしかして、格闘ゲームって初めて？」
「あ、はい・・・ええ、初めてなんです」
「初めてでいきなりロケテストのゲームは辛いよ。
　こういうのをやるのはみんなゲームになれてる人ばかりなんだよ。
　もっと昔のゲームをやった方がいいよ」
「昔のゲーム・・ですか？」
「そ、たとえばウィッキッドディザイアとか」
「すいません・・僕、それもやったことないんです」
「え〜、あのウィキッド・ディザイアやったこと無いの！
　せっかくだからやったらいいよ。おもしろいから」
「あ、はい・・」
「私はお金が無いから基本を教えてあげる。
　二、三百円ぐらいなら持ってるんでしょ？」
「え、ええ・・」
「はい、決まりね（にこ）」

 

まっさか、ウィキッド・ディザイアも知らないのに
ゲームセンターに来るなんて思わなかったわ。

 

「秀紀くん、初心者はバランスのとれたリサ当たりを使うといいよ」
「あ、はい・」
「それでね・・これは超必が・・」
「チョウヒツ？」
「あ、超必殺技、 必殺技より強力な技なんだよ。
　これが出やすいので有名だからね。
　はい、構えて」
「こ、こうですか・・」
「そうそう、そのまま体の力抜いて、
　私がその状態で上から操作してあげるから体で覚えてね」

 

ウィキッド・ディザイア、操作ボタンが３つにジョイスティックっていう
ごくふつうの対戦格闘のボタン配置になってる。
だから秀紀くんが構えた上へ私が後ろから手を添えて教える事もできるって訳。
最初の敵はアレフか・・楽勝楽勝。

 

「あ、力抜いてて」
「は、はい・・・」

 

まったく、緊張してたら１００円無駄遣いじゃない。
わたしの一日のお小遣い〜っ！
じゃなくて、手をつかんで肩口から顔を出した状態でプレイするんだから
いくら私でも少し本気を出さないと難しい。
でも、しょせんは最初のキャラ、そんなに強くない、
リサの超必殺技風神の舞を二回ともきれいにヒットさせて一ラウンド目クリア。

 

「ほら、リサって超必も出しやすいでしょ」
「え、ええ・・そうですね」
「じゃ、次は自分の力でやってみて」
「は、はい・・」

 

？

秀紀くんに向けられた、あまりたちの良くない視線を感じた。
私が感じたっていうことは気のせいなんかじゃないってこと。
ひいふうみぃ・・・１０人以上？なんで秀紀くんに？

 

You Lose

 

私の考えは秀紀くんがあっさりまりあに負けたことで中断された

 

「あやや、まりあは特殊だから見てればよかったね」
「い、いえ・・」
「せっかくだからコンティーニュ、まりあの対処法も教えてあげる」
「あ、はい・・」

 

というわけで、またオーバーライド大作戦。
まりあって動きが唐突で予測しづらい上に、まぐれの魔法炸裂があって
すっごく戦いづらい相手。
アレフの時みたいに、間合いを取って投げナイフっていうリサの基本戦法が使えない。
こういう相手には素早く懐に飛び込んで息継ぐ間もない連続攻撃が基本。
でっかい魔法を使われると何が起きるかわからないから、魔法を使えないようにして
一気にしとめるしかない。
あ、もちろん、ほっとくと自爆魔法で果てるってこともあるから、
自分で使うには使いづらいキャラなんだけど。

 

「はい勝った、リサって接近戦も遠距離もこなせる万能キャラだから慣れるといいよ」
「 え、あ、はい・・・そうします」
「うん、じゃ私はそろそろ帰るね。また明日、秀紀くん」
「は、はい・・・あの、・・」
「なに？」
「い、いえ・・・」
「あ、そだ、途中までおくってあげよっか」
「い、いえそんな・・」
「遠慮しない遠慮しない、結局私だけプレイしちゃったみたいだし、
　そのお礼だって」
「え、ええ・・」
「いえどっちだったっけ？」
「あ、こっちです・・・」

 

？

秀紀くんへのおもしろくない視線は敵意を含んでるみたい。
一体どういうことかな？でも他人の考えを読んだりしたら
Ｐ−６におやつを取り上げられるからやめておいた。

 

「そういえば、秀紀くんどうしてここへ来る気になったの？」
「え、えと・・その・・な、なんでもないんです」
「何でもないのに家と反対方向にはこないんじゃない。
　ほんとなんかあったんでしょ〜」
「い、いえ・・ほんとうに何でもないんです。
　ただ・・い、いえ、なんでもないです・・・」
「・・・秀紀くん、あのね、一つ教えてあげる」
「え？」
「 自分はだめなんだ、なんて最初から決めてかかったら何にもできないよ。
　まず無謀でもいいから勇気を出して本当に自分が言いたいことを言わないとだめだよ。
　そうすれば、かならず、何かが変わるんだよ」
「なにかが、変わる・・」
「そうそう、それで本当に変わった人知ってるんだから間違いないって」
「あ、はい・・・じゃ、その・・・明日も・・・」
「？」
「・・・明日も、一緒に遊びにいきませんか？・・・」
「うん、いいよ」
「あ、はい・・・それから・・・」
「それから？」
「いえ、それは僕がやりますから・・・また、明日」
「うん、また明日ね、秀紀くん」

 

秀紀くんは、何かいいたそうだった。
気になったけど、思考を読むのはやめておいた。
そんなことしちゃいけないってずっと言われてたから。

私は、つまらないことでずいぶんとそれを破ってきたけど、
このときに限ってそれを守っちゃったことを、ずっと後悔することになるなんて思ってなかった。
本当に、ずっと、後悔するなんて・・・

 

あ、それは後の話だね。
気は進まないけど、次の日にうつらないといけない。

 

次の日、いつものように学校に行くと、私の隣の席に一輪挿しが飾ってあった

 

「あれ？一輪挿しが飾ってある。い〜なー、私もかざろっと」
「霰、なんで一輪挿しが飾ってあるかしってる？」
「え？飾りたいから飾ってるでしょ？い〜な〜」
「飾りたいからじゃないよ、霰知らないの？」
「うん、だって一輪挿し飾ってある机なんて先生の教壇ぐらいだし」
「・・・そっか、霰は外国が長いんだったね」
「うん、そうだけど・・・一体どうしたの？教えてよ青葉、そういえば教室の雰囲気が暗いよ」
「あのね、机に一輪挿しを飾るのって、その人が・・・亡くなったときにするものよ」
「え、うそっ！だって昨日はあんなに元気だったのに、・・・約束したのに」
「約束？」
「うん・・・今日もあおうねって・・・遊びに行こうねって・・・まさか」

 

校内放送が、秀紀くんの事で全校集会を開くって言い出した。
みんな校庭に集まることになった。
全校集会で秀紀くんの死因がわかった、暴行なんだって。
・・・あ、あのとき・・あのときの視線の主の考えを読んでおけばっ！

 

ぱたっ

 

「せんせ〜、アインハルトさんが倒れました」
「・・仕方ないな、おい、誰か保健室に連れて行ってやれ」

 

ごめんね、みんな、迫真の演技でしょ。
・・・あは、死んだって言っても、完全に逝ってなければ、
霰ちゃんの力でなんとかなるかも。
生きてるってイデア情報を無理矢理肉体に打ち込んでやれば
生き返る可能性だって無い訳じゃないよ。

 

私は気分悪い振りを続けた。
青葉につれられて保健室へと到着、青葉、ごめん、演技の一環で体重掛けちゃって。

「霰、どうした？」
「ん〜、ちょっと、秀紀くんのことでやらないといけないことがあるの。
　佐伯センセ、今日は早退させて」
「早退？・・・わかった、気をつけてな」
「やだ、先生、そっちはもうやらないから」
「・・・そうか」
「じゃ、青葉、しばらく保健室で寝てから帰るから。
　センセにもそういっといて」
「うん、いいよ、霰だって人間なんだね」
「あは、さるも木から落ちることもあるよ」
「お大事に」
「うん」

 

さて、青葉に見せるわけにはいかないけど、佐伯先生なら大丈夫。
私は自分の意識を大きく広げると秀紀くんの体がある場所を探した。
だいたいどこを捜せばいいか頭にはいっているし、秘匿されてるって
訳でもないから見つけ出すのはそんなに難しくない。

ほら、見つかった。たぶんこれは自宅だね。

・・・ん〜と、さすがに距離がありすぎて向こうに行かないとはっきりわかんないや。

 

「せんせ、じゃいってきます」
「ああ」

 

瞬間跳躍っ、これぞ私とＰ−８にしかできない大技。
Ｐ−６だっていすぐらいの質量のものなら跳躍させることができるけど、
何十キロもの質量のものを跳躍させるとなると、これはもう私ぐらいでないとね。

 

私が跳躍して現れた場所は、ちょうどお葬式の準備がされてるマンションの集会所の前だった。
それなりにばたばたしていて、私が急に現れたことも気づかれた風はなかった。

 

「あの、クラスメートの霰っていいますけど、・・あ、手ぶらで来ちゃった」
「ああ、クラスメートの方ですか、そこに名前を書いてから線香をあげてください」：
「線香？私持ってきてないよ」
「・・・線香ぐらいちゃんと用意してありますよ」
「あ、あは、すいません。外国暮らしが長かったんです・・」
「外人さんね」
「ええ、まあ・・・混血ですけど」

 

霰＝（Ｐ−７）＝アインハルト、と。
まあ、お葬式も私が来たからには中止だよ。
棺桶からひょこっと現れたら回りの人はどんな顔をするかな。
ちょっと不謹慎かもしれないけど、いいでしょ、それくらいの楽しみがあっても。

 

私は記帳してからそっと集会所の奥に安置してある棺桶のそばにいって、
線香をあげることにした。
祭壇には遺影と花輪。あ、あれ？線香の上げ方ってどうだったっけ？
まあいいや、家族の人には黙って頭を下げておけばなんとか形になるから
線香あげる前にとっととおわらせちゃおっと。

 

・・・・あれ？えと・・・

 

・・・・・？？・・・えっと・・・・
あ、あは、あはは、死んでるよ、完全に死んでる。
だめだ、これは私にも無理、完全に向こう側に逝っちゃってる。
魂が抜けたまま動かすことはできても元にはもどんない。

 

「あの・・大丈夫ですか？」

「え、ええ・・わ、私は大丈夫です。ええ、大丈夫」

 

あ、あれ？えっと・・・要するに、一人死んだってだけでしょ。
この霰ちゃんが・・・戦闘機械のＰ−７が人一人死んだぐらいでなんで？
もしかして、私、取り乱してる？
まっさか、ＤＩＣＥ本部を殲滅したこのＰ−７が一人ぐらいのことで？
なんで？何千人も殺った私が一人の死に動揺するの？

 

あ、そっか、そうだったんだ。
人が死ぬって、つまり、こういう事だったんだね。
オリジナルが、どうして殺すなって言うか、理由がわかった気がする。
一度死んだら、もう二度と笑わない、泣かない、怒らない、悲しまない。
一度失ったものは永遠も返してはくれないんだ。

 

・・・神様、確かに私は悪いことをしました。でも、こんな罰はあんまりです。・・・
神様・・・神様がそんなことをするんだったら、私にも考えがありますよ。
あのね、もう一つだけ、秀紀くんのために、やってあげられることがあるんですから。

 

私は意識をすっと広げると、暴行を加えた主を捜した。
手がかりはある、あのとき感じた視線の主に決まってる。
それに、秀紀くんの遺体がそのまま加害者をつないでもくれる。
知ってる？一度結びつけられたイデア情報は距離が離れても結ばれたままになるんだよ。
存在波と物体とはどちらが実在ってことはなくて、相補的な存在なんだって
先生は言ってた。だから遺体と凶器とが離ればなれになっていても、
その両者を結びつける存在波は両者を結びつけたままになってる。
さもなければ、遺体が遺体であることもないってわけ。
もちろん局所性の法則は満たされているからこれは相対論を破ることもない。

 

遺体と凶器、凶器と使用者を結ぶ存在波、それをたぐり寄せていくと、
私は一つの人気のない公園にたどり着いた。
あそこが、秀紀くんの呼び出された場所なんだ。
・・Ｏ．Ｋ．Rise the curtain！Now the show time！
あのときその場にいた連中は全員集合！

 

私は一人一人に集合命令を掛けた。
連中は”理由はわからないけど”そこへ集まらなければならない気持ちになったはず。
今私は本気の本気なんだからね。
ただ片づけるだけじゃ済まさないよ。
絶望ってものがどんなものか。圧倒的な力に立ち向かうっていうのがどういう事か。
特別に私が教えてあげるよ。

 

私は立ち上がると挨拶もそこそこにそこを立ち去った。
完全に放心してるみたいだったから周りの人がずいぶん心配していたらしい。
迷惑かけちゃったかな？ごめんね。

 

全員が集まるまですこし時間がかかるだろうから直接跳躍するのはやめておいた。
あの場所なら全員が集まるまで走っていっても十分に間に合う。

 

間に合いすぎたぐらいだった、連中は理由もわからずに集まったことを
今頃になって不信がっていた。
私より後にリーダー格が登場、まったく時間厳守もできないなんて
情けないリーダーったらありゃしない。
集まったのは全部で１１人か、ひ弱な男一人を１１人がかり、
くずはどこまでもくずなんだね。

 

「・・・なんで、俺らここにいるんだろ？」
「さあ？何かが頭の中に”ここへ来い”って言った気がしたから」
「そうそう、どうしてもこないといけない気がしたのよ。
　でもなんで、あのもやしやった場所にあつまんの？」
「馬鹿だな、あのくらいで死ぬかよ。」
「あ、それもそうか」

「人間あのくらいで死ぬんだよ」
「あんた、誰？」
「私？私はＰ−７って言うんだよ」
「Ｐ−７？あ〜あのもやしと一緒にいた女か。
　おまえ・・・？？・・ちっ、あのぼけ急に金払わないなんて言い出したから
　締めてやったよ。おまえが代わりに払ってくれるのか？・・？？・・
　ったく、金蔓は金蔓らしく金払っていれば・・？？・・な、なんだ？」
「 つまり、それが本音なんだね」
「・・？・・頭ン中の声の主はおまえか！」
「そういうこと、飲み込みが早いね。
　そういう事だから、敵を討たせてもらうよ」
「どういう事？」
「あのもやしがくたばったから敵討ちなんだとよ。
　でももうおまえの手にはひっかからねえぞ。」
「おいおい、こんなねーちゃんにそんなことできるわけ無いだろ。
　おい、あんまり粋がってると痛い目にあうぞ」

 

飲み込みの一番悪いやつがつかみかかってきた。
頭が空っぽみたいだから、体に教えてあげる。
軽く手を握って、それから軽くねじってね。それから・・・

 

「？・・ぎゃああああああ」
「腕がとれたぐらいでそう大声あげてわめくなんてみっともないよ」
「な、な、な、なんで？」
「さあ、次は誰？」

 

最初に突っかかってきた馬鹿男は肩を押さえて転げ回ってる。
悪いけど動脈をぶっつりやったから血は止まらないよ。
ほっとけば出血多量でおだぶつさん。まずは一つ。

 

「わっ」

 

な、なんてなさけない。
他の連中は助ける気もなく蜘蛛の子を散らしたみたいに逃げ出した。
こうなると転げ回ってる馬鹿でもかわいそうになる。

 

「武士の情けっ！」

 

転げ回ってる馬鹿の頭を踏みつぶして一瞬で昇天させてやる。
次には手近な道路の方へ走り出した連中を片づけるために
木の根をせり出させる。
ねらい通りに、道路へ走った３人が並んで転げる。

 

「ひとーつ、ひとよりはげがあるっ！吸血鬼退治っ！」

 

こけた３人に木の枝を変形させた杭を、右胸に突き立てた。
心臓とは反対側。一撃で死ぬってわけじゃないけど、
重傷には間違いなし、ほっとけば死ぬね。

 

次は固まって奥に逃げ込んだ５人。
あいつらは瞬間跳躍で先回りしてやればいいか。

 

「仲間見捨ててどこへ逃げるつもり？」
「・・・ちっ、やりゃいいんだろ。もやしと同じところへ送ってやる！」

 

一人が手に持った金属バットで殴りかかってきた。
度胸はほめたげる、じゃ私も正々堂々と。

 

ぶんっ、

 

紙一重でバットが私の左横をかすめる。
次の瞬間、私の拳は向こうの眉間を貫いてた。
これぞ牛殺し、 向こうの体勢が崩れたところで回し蹴りを首にたたき込む。
敵さんは、そのまま頭から地面に向かって崩れ落ちた
とどめはまだ刺さずにいてあげるね。残りの連中を片づけるまでは。

 

「な、なにやってるのよ、いっぺんにかかりれば」

 

その声で残りの３人がぐるっと私を取り囲んだ。
囲めば勝てるとでも思ってるみたいに。
なるほど、確かに囲めば誰かには必ず背中を見せることになる。
でも、それを生かせる動きができればの話。

 

「ふた〜つ、ふらちなはげがあるっ！」

 

ぱっとみて構えのでたらめな一人を見つけると、
正面から心臓へ向けて掌底を打ち込む。
はい、心停止、一巻の終わり。

 

そのままいったん抜けると追いかけてきたもう一人へ
振り向きざまにもう一度掌底を加える。
結果、掌底一撃であごをずたずたに破壊されて転がっていく。
これぞ殺法の一つ風魔殺、あごを破壊したとき、その衝撃は脳まで達してる。
手加減抜きだから２，３分で絶命間違いなし。

 

私の動きについてこれなかった一人は呆然と立ちつくしてる。
現実じゃない、って思いこんでしまえば、助かるかのように。
残念でした。これは掛け値なしの現実なんだよ。
めんどくさいから瞬間跳躍で間合いを詰めてギロチンチョップ。
そのまま首と胴とが泣き別れ。
「た〜がや〜」
あれ？これじゃ落語だね。

 

「あ、あ、あ、あんたなんか、あんたなんか、あんたなんかぁ〜」

 

ただ一人残った女が私に手当たり次第ものを投げつけてきた。
あ〜あ、完全に正気を失ってるわ。
えへへ、ありがと、うれしいよ、そんなに気に入ってもらえて。
でも、あと２人残ってるから時間もかけてらんないね。
じゃ、お返しっ、マッハ２．５で石つぶてを受けたらどうなるか体験してごらん。

 

つぶてを食らった女は、スイカ割りのスイカみたいに頭がはじけてた。
ちょっと石が大きすぎたかな？

 

えと、後二人はどこへ行ったかな？
リーダー格と腰巾着はちょうど車に乗り込もうとしてるところだった。
あ〜生意気、なんでＢＭＷなんかのるのよぉ
よりによってドイツ車にのるなあ！

 

私は瞬間跳躍で車の前に飛び出した。
急に私が現れたもんで向こうは完全に驚いたらしい。
急速にバックさせるて助走距離を取ると、
最大加速で前進、タイヤをきしませて私をはねとばそうとする。
よし、こっちも大技でかたづけちゃおっかな。

 

「 ３８０mmカノン砲！」

 

拳にビスマルクの主砲弾のイデア情報を乗せてＢＭＷを殴り飛ばす。
いくらＢＭＷといえども、３８０mm砲弾を受けて無事なわけがない。
４万２千トンの戦艦すら爆沈させる威力で自動車を撃ったんだよ。
車も、中身も、破片すら残らず、粉々に吹き飛んだ。
これで全部終わり、やっちゃったら意外にあっけなかった。

 

「・・・・後かたづけ、しておかないと」

 

そう、後かたづけしないと・・・ＳＣ空間展開して、死体を片づけて、
原状回復しておいて・・・

 

「霰。なにやってるんです？」
！
気が付くと、そこにＰ−６がいた。
あれ？なんで気づかれたんだろう？

 

「あれだけ派手に暴れれば気が付きますよ。
　一体どうしたの？何か理由があるんでしょ？
　ただストリートファイトしたかった訳じゃないでしょ？」
「え、えと・・・だって、・・・・だって・・・・」

 

後は言葉にならなかった。
わかってる、こんな事したって何にもならないんだって。
でも、でも、こうでもしないと自分が押さえられないよぉ！

 

？

 

Ｐ−６は私をそっと抱きしめた。

 

「おばかさん、思考が全部筒抜けよ。
　他にどうしようもなかったのね。
　ほんとにかわいそうな子・・・」

 

あ、あれ、な、涙が止まらない。
自分の感情が全く制御できない。
こんな事は今までに無かった。
今までなら、どんなときでも、自分を制御する
もう一人の自分がいたのに。

 

「心配しなくていいわ、誰も来ないから。
　気が済むまで泣いていていいわ」
「・・・・・えっく・・・えっく・・・」

 

私は、時間の感覚も、なにもかも無くしてただ泣いてた。

 

「・・・Ｐ−６・・・」
「大丈夫？家に帰れる？」
「うん・・・もう、大丈夫。
　後かたづけ・・」
「それは私がやっておくわ。
　今日はゆっくり休みなさい。」
「うん・・」
「それと、Ｐ−７」
「なに？Ｐ−６」
「今日は夕飯抜き」
「・・・え〜ん、Ｐ−６のいけずぅ」
「わがままいうんじゃありません」
「・・は〜い」

 

翌日、空き腹抱えた私は、学校で１１人ばかりがなぞの集団失踪事件を遂げた、
という話を聞いた。

 

「なんだか不気味よね。一体これからどうなるのかしら？」
「青葉は心配性にすぎるよぉ。大丈夫なんにも起きないって」
「でも、昨日の今日でしょ、やっぱり不安にならない？」
「じょぶじょぶ、アメリカと違っていきなり銃で撃たれたりしないよぉ」
「うん、きっとそうだよね」
「そ〜そ〜、それより青葉お金貸してくれない。
　昨日仮病で休んだのがばれちゃって夕飯抜きだったの」
「あっ、あれって仮病だったんだ」
「あ、あは、あはは〜っ、ごめん」
「・・・だましたからかしてやんない」
「え〜ん。そこを何とかお願い〜っ」

 

というわけで、私の話はここまで。
落ちはナレーターに任せるね。

 

先生が量産型オーギュメントの開発に着手したのと、
第二科学部の創設は、この一件がきっかけだった。
第二科学部創設後の物語は、またべつに語られる事になるだろう。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

 

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