私の名前は雲野霧子、今日はいろんな事があったの。
謎のディゾナントに襲われたり、アインハルト先生のところに行ったら
謎のディゾナントのオーパスの正体が謎だったりしたの。

気が付けば日は西に、そろそろ帰宅の時間なの。

「泪、遅くなっちゃったね」
「そうだね、霧子。そろそろ帰ろうか」
「うん、でも、泪の家までは一緒に行くの」
「一人で帰るの大丈夫？」
「大丈夫だと思うの」
「私も大丈夫だと思うけど」
「けど、バラバラに帰りたくないの、今日のことお話しながら帰りたいの」
「それは私も」

今日遭ったディゾナントのこととか、オーパスの正体についての推理とかで盛り上がりながら帰るの。
そうは言っても泪の家は藍仙高校からそう遠くはないの。

「あれ？　玄関に誰か立ってる」
「私達と同じ小学生みたいなの。でも、何かのコスプレをしてるみたいなの」

黒いマントを羽織ってる金髪ツインテールの女の子。
何かのコスプレだとは思うの、だけど、なんのコスプレかは分からないの。

「泪の知り合いなの？」
「ううん、あんな子見たことないよ」

金髪の女の子がこっちを向くの。

「待ってた」
「待ってたって、宗教の勧誘ならお断りだよ」
「宗教の勧誘じゃない」
「宗教の勧誘じゃなかったら何なの？」
「ジュエルシードを渡して欲しい」
「なにそれ？」
「これだ」

女の子が杖から何かを取り出します。

「杖から何か飛び出してきた」
「何かっていうか、……もしかして、謎のディゾナントが落としたオーパスに似てない？　あれ」
「似てると思うの」
「それを集めてる。渡して欲しい」
「なんのために集めてるの？」
「知らない。だけど、かあさんが必要としてる」
「なんのために」
「それは知らない」
「っていうか、なんで渡さなきゃいけないの」
「……なんでって……」

女の子は言葉につまったの。
どうやら、なんのために集めてるのか知らないのは本当のことだと思うの。

「なんでって、理由はどうだっていいじゃないか。
　押し問答してもらちがあかないなら、力ずくでも奪うんだよ」

背後から、お姉さんが現れたの。
力ずくで奪うって、穏当な言葉じゃないの。
私達は背後のお姉さん相手に身構えるの。

「まって、理由が分かったら渡してくれる？」
「理由次第だよ」
「……」
「悩むことなんてないじゃないか。
　とにかく、必要だから集める。それで十分なんだよ」
「だけど……」

赤毛のお姉さんが突然SC空間を展開するの。
SC空間を展開したということは、本気でやる気なの。

「泪はあの女の子を見てて」
「霧子、一人で大丈夫？」
「大丈夫か大丈夫じゃないかじゃないの。やるしかないの」

ケンカは心が折れた方が負け、というのはパパの言葉なの。
相手がお姉さんだからって、SC空間戦じゃ年齢差は関係ないの。

「やる気かい？　そうこなくちゃね」
「やる気なのはそっちなの。売られたケンカを買っただけなの」

あのお姉さんも、SC空間を時間量子の蓄積無しに普通に動いてくるの。

「仕方ないのかな」

女の子がつぶやくの。
女の子が持ってる杖が変形して、鎌状の形態に変わるの。

「セイクリッド・デス？」
「違うと思うの」

能力者は、目で見えないところも感じることが出来るの。
通常空間だと視覚の影響がつよすぎてあまり感じられないけど
SC空間だと、存在波がダイレクトに感じられて、見えない部分も見えてくるの。

「行きます」

女の子が鎌を持って泪に襲いかかってくるの。
泪も能力者でオーギュメント使い。
ケンカも私と互角の実力なの。
そうそう負けるはずはないの。

「さすがにジュエルシードの魔物を倒しただけはあるね」
「ジュエルシードの魔物ってなに？　毛むくじゃらのディゾナントのこと？」
「この世界じゃディゾナントって呼ぶんだ」
「この世界？　あなたたちはこの世界の住人じゃないってこと？」
「世界がたくさんあるのは常識」
「この世界にそんな常識ないよ」

この世界にない常識を持ってると言うことは、つまり、この世界の外にいる住人、ということになるの。
これで、謎のオーパスが異世界から来た、という可能性は高くなったの。

「な、この子、早い」
「謎のディゾナントより早いの？」
「うん、そう」
「泪、バトンタッチなの。このお姉さんは、そこまで早くない」
「分かった」

速さが勝負の相手なら、私のロンギヌス・スピアの方が役に立つと思うの。
泪のホーリー・クロスは威力重視なの。
だけど、バトンタッチの瞬間が危ないのは分かってることなの。
だから、背中合わせになってから体を入れ替えるの。

「この世界にない常識を持ってるとしたら、どこの世界からきたの？」
「答える必要はないよ！」

お姉さんが女の子に声を掛けるの。
このお姉さんはあまり戦うことに悩んでないみたいなの。
女の子の方は、覚悟があっても、まだ戦いにすこし躊躇する気持ちがありそうなの。

「そもそも、ジュエルシードってなんなの？」
「分からない。かあさんが必要としてるとしか」
「かあさんって、何者なの？」
「かあさんはかあさん、それだけ」
「私のママは藍仙高校の先生なの。あなたの場合は？」
「知らない」
「知らないって……何かお仕事ぐらいしてるんでしょ？」
「分からない。何かの研究で忙しいことしか」
「研究の内容は知ってるの？」
「知らない」
「それ、家族の会話がなさ過ぎない？」
「家族の、会話……」

ここで、女の子は考え込むの。
こちらも戦いは小休止、女の子に考える時間を持ってもらうの。

「考えることはないよ！　とにかく、ジュエルシードを手に入れて帰らなきゃいけないんだよ」
「なんのために？」
「説明する義務はないよ！」

お姉さんはだんだん焦ってるようなの。
女の子が戦いの中で動揺してるのが問題みたいなの。
だけど、戦いは唐突に転機を迎えるの。

「呼ばれてないけど霰ちゃん登場！
　町中でSC空間展開なんて危ないなあ」
「仲間が来たよ、逃げるよ」
「あ、逃げるんだ」
「待って、霰おばちゃん、あの女の子は……」

ここで、お姉さんも女の子も姿を消したの。
後に残されたのは、霰おばちゃんと私達だけなの。

「跳躍して逃げたね」
「跳躍？　SC空間の外に出ただけじゃないの？」
「違うよ霧子、あれは完全に跳躍だった。
　っていうか、なんで止めようとしたの」
「霰おばちゃん、手加減知らないから……」
「ちゃんと情報源として手に入れるつもりだったのに〜」
「情報源としてなの？」
「霧子は他にどういうことを考えてたの」
「どうって言われても困るけど、あの子、家族の話をしたとき、何かさみしそうだったの」
「家族がない人はいっぱいいるよ」
「そうじゃないの。ママは居るって言ってたの。だけど、さみしそうだったの」
「さみしそうかあ……ネグレクトされてるのかな？」
「ネグレクトって？」
「かまってもらえてないってこと」
「そうかもしれないね。だけど、詳しい話は聞けなかったの」
「それは霧子の責任じゃないって、だけど、危ないことしたらだめだよ」
「逃げる選択肢がなかったの」
「あはは、それは言えてる。さすがはトーヤくんの娘だね」
「それより、霰おばちゃんはどうしてここに？」
「あ、そだ、その説明がいるね」
「立ち話もなんだし、家に入ろうよ」
「泪、入っていいの？」
「霧子も霰おばちゃんも歓迎だよ」
「ありがとう、泪ちゃん」
「泪、じゃあお邪魔するの」

霰おばちゃんが、何か説明をしてくれるそうなの。
それを聞いてたら夜遅くなりそうだから、霰おばちゃんに送ってもらおうと思うの。


 

 

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