翌日の放課後、私と泪は野良ディゾナント探しに出かけたの。
パパとママの了解も取れたの。だけど、門限は厳守だって。

「そうは言っても、野良ディゾナント探しって、どうすればいいのかな？」
「その点については大丈夫なの。秘密兵器をパパが貸してくれたの」
「秘密兵器って？」
「パパにしか使えないオーギュメントだけど、自立してるから大丈夫なの」
「それって、P-3？」
「正解なの」

P-3、現代社会を支える動力源、K-unitのオリジナル。
K-uintと違って、自分の意志も持っているの。
そして、私にとっては乳母みたいなものなの。
パパもママも忙しいお仕事だから、その間守りをしてくれたのが、P-3なの。

「私が捜索を掛けるの、だけど、二人とも、危険ならすぐ逃げるの」
「分かってるの、P-3、それは、パパやママにも釘を刺されてるの」
「だけど、私達が行けるところに都合良く野良ディゾナントがいるかなあ」
「分からないの、だけど、霰おばちゃんの話だと、品川を中心に落ちたってことなの」
「いくつあるのかな？」
「それも、分からないの。時空管理局も教えてくれなかったって言ってたの」
「そんなもんか、いろいろと向こうも秘密を抱えてるんだね」
「みたいなの」
「二人とも、存在波を見つけたの」
「どこ？　P−3」
「近いの、こっち」

P-3の指示に従って私達は向かうの。
そこは何の変哲も無い街角、だけど、私達が接近するとSC空間に変わるの。

「間違いなくいるね」
「うん、そう思うの」

イヌの化け物みたいなディゾナントが現れたの。

「よし、さっさとかたづけちゃお」
「うん、そうするの」

泪も私もオーギュメントを構えるの。

「そんなに強い相手じゃないけど、油断は禁物なの」

P-3が、あのディゾナントの戦闘力を測ってくれたの。
そんなに強くはないっていうけど、それでも全力で行くの。

「泪、援護を頼むの」
「了解、霧子、突っ込んで大丈夫だよ」
「ありがとうなの」

私は全速力でディゾナントに突っ込んでいくの。
あのディゾナントも、SC空間で時間量子の蓄積無しに動けるみたいなの。
私達のオーギュメントは2．5世代だから、通常空間でもカレイドフェノムが放てるの。
だけど、通常空間だと、カレイドフェノムを放てば当然のように周りに迷惑がかかるの。
ここはSC空間だから、遠慮無くカレイドフェノムが放てるの。

イヌの化け物はうなり声を上げてこっちに接近してくるの。
大丈夫、正面から突っ込むと見せかけて横っ飛びに飛べば泪の射線が開けるの。
泪のカレイドフェノムがイヌの化け物に直撃するの。

それでディゾナントはダウン。
後に残るのは、オーパスなの。

「思ったよりあっけなかったね」
「泪、ナイスなの」
「二人とも、まだ探すの？」
「P-3、時間は？」
「大丈夫なの、門限には十分な時間があるの」
「じゃあ、まだまだ探すの。数も分からないのなら、探して損はないの」
「分かったの」

黙って立ってるのも疲れるので、ゆっくり歩きながらP-3に捜索してもらうの。

「見つけた、こっちなの」
「ありがとう、P-3」

P−3の告げる位置はちょっとここから離れてます。
でも、電車で一駅です。

「あれ？　もうSC空間が展開されてる？」
「人を襲ってないといいと思うの」
「気をつけて欲しいの。ディゾナント以外にも誰かいるみたいなの」
「P-3、それって？」
「私には分からないの」
「とにかく入ってみるの」

私達は、展開されてるSC空間に同調して中に入るの。
その中にいたのは、前、泪の家の前にいた女の子と、お姉さんなの。

「また、会ったね」
「うん、そうだね」
「ここに居たはずのディゾナントはどうしたの？」
「倒した」
「そう、それは良かったの」
「良かった？」
「誰か被害を受けた人は居ないの？」
「いないはず」
「それならよかったの」
「……変な子、被害を受けた人が居ないで喜ぶなら
　どうして私の邪魔をするの？」
「邪魔って、どういうことなの？」
「なんでジュエルシード集めの邪魔をするのかってことだよ。
　あたしらにはそれが必要なんだよ。
　あんたたちが何もしなくても、ジュエルシードは私達が集めて持って帰る。
　あんたらに迷惑は掛けない。それでいいじゃないか。
　なんで、あんたらまでジュエルシードを集めるんだよ」
「野良ディゾナントをほっとくと危険なの」
「だから、それはあたしらが退治してやるって」
「それで、どうしてジュエルシードを集めてるのかな」
「なんでだっていいだろ、それは元々この世界の物じゃないんだ。
　あたしらの世界の物なんだよ。だから回収して持って帰るんだよ」
「でも、あなたたちは時空管理局の人じゃないと思うの。
　時空管理局もそれを集めようとしてるの。
　時空管理局に渡さないのと同じで、あなたたちも、どういう事情があるのか
　教えてくれなければ、渡せないの」
「時空管理局……あいつらもう見つけたのか」
「それは仕方ない。次元航行船が事故を起こした時点で管理局にしれる」
「だからってさ……まあ、時空管理局が介入してこないっていうんなら、
　そのすきに集めるだけだ」
「つまり、あなたたちは時空管理局とは関係ないんだ」
「……」
「つまらないことを言っちゃったかな」
「そんなことないの。
　時空管理局がまたこの世界の代表と接触するまでに情報を集めることはできるの」
「情報集めてどうするんだよ」
「アルフ、もうやめる。
　次のジュエルシードを探さないと……」
「ジュエルシードって、これの事なんでしょ」

泪が、さっきひろったオーパスを、アルフって呼ばれたお姉さんと、黒マントの女の子に示したの。
二人の顔色が変わったの。

「あなたたちは、それを集めてどうするつもり」
「集めてどうするもないよ。どんな物か分からないから調べるだけ」
「アルフ、あれも持って帰った方がいいかな」
「フェイト、そりゃ、持って帰れればそれに越したことはないけど……」
「決まり」

そう言うと、フェイトって呼ばれた女の子は泪に向かって突っ込んでくるの。

「泪！」
「計算通り！」

泪はカレイドフェノムで女の子を迎撃するの。
だけど、女の子はそれが分かってたかの様にかわすの。

「このフェノムは誘導弾だからね」
「私には追いつかない」
「そう、フェイトにはね」
「？」

こんなことをしてる場合じゃないの。
私も参戦するの。

「P-3、第三者の介入に備えて欲しいの」
「分かったの」

これで、私達はあの二人に専念できるの。
でも、フェイトには当たらないって、どういう意味なの？

その答えはすぐに分かったの。
フェイトを追いかけていた誘導弾は、アルフって呼ばれたお姉さんのそばに来た瞬間、
アルフの方へ向きを変えたの。

「私はあっちの女の子を押さえるの」
「お願い、私はこのままアルフを押さえ込む」
「つまらないことするじゃないか！」

お姉さんが突っ込んでくるの。
それを泪は中腰に構えて迎え撃つの。
私もフェイトって子を押さえ込まないと。

だけど、この子、速いの。
多分、私より、ずっと。
私も泪よりは速いんだけどな。

「だけど、速いだけじゃダメなの」
「何ができる？」
「だからね……こういうこと！」

遅延型のカレイドフェノムを仕掛けて、
そこへフェイトを追い込むの。
傷つけるのが目的じゃないの。
あくまで、私達の目的は、二人から話を聞くことなの。

「！」
「直撃だね」
「まだかすり傷」
「時間量子を削るフェノムだったんだけど、効果が上がってないみたいなの。
　ディスコネクトが通用するとは思えないから、もっと頑張るの」
「頑張っても無駄……」
「それはやってみないと分からないの」

傷つけない、が難しいみたいだけど、怪我をさせたらお話できないかもしれないの。
怪我をさせる可能性のあるフェノムはあえて避けるの。

「フェイト、どうしてあのオーパスを集めてるか教えてくれないの？
　事情次第じゃ、要おばちゃん達だって、上げないとは言わないかもしれないの」
「かあさんが集めてる」
「だから、そのかあさんはどうして集めてるの？
　その理由次第だよ」
「……聞いたけど、教えてくれなかった」
「それじゃ渡せないの。人に言えない理由で集められたら困るの」
「やっぱり、力尽くで集めるしかないんだね」
「辞めた方がいいと思うの。
　今は私達だけが相手だけど、いずれDICEのエージェント達もやってくるの。
　そしたら、私達相手に勝てないようじゃ、勝負にならないの。
　だから、その前に教えて欲しいの」
「何を？」
「かあさんって、誰？　なんのために集めてるの？　集めて何に使うの？
　それ以前に、フェイトはそれを疑問に思ったことないの？」
「私はかあさんに喜んで欲しい。ただそれだけ」
「あたしらの世界の物になんでそんなに口出しするんだよ、あんた達は」
「ここは私達の世界なんだよ。勝手に乗り込んできたのはそっちじゃない」
「だから元に戻そうっていうんじゃないか」
「最初からあなたたちの持ち物だったの？」
「そりゃあたしらの世界のものなんだよ」
「質問に答えてない！」
「アルフ、ウソをついてもしかたない。多分、あの二人はウソを見破る」
「フェイト、それは、あの二人が魔法使いだって事かい？」
「そう思う」
「だけど、それをあたしらが必要としてるってのは本当の事なんだよ。
　それを持って帰らないとフェイトは……」
「アルフ、私は大丈夫」
「大丈夫じゃ済まないじゃないか、大体、集めて帰ったときだってあの人は……」
「それは全部を持って帰らなかったから。全部持って帰ればきっとかあさんも喜んでくれる」
「明日中に全部なんて無理だよ、まだ見つかってないものもあるじゃないか」
「それでも4つは持って帰った。あの子達が持ってる分と、わたしが持ってる分を集めれば
　あと15個」
「つまり、このオーパスは全部で21個なんだ」
「そう」
「あれ？　隠さないんだ」
「話せることは話してもいい。
　それで気が済んで、ジュエルシードを渡してくれる気になるのなら」
「あなたたちは誰なの、どこに住んでて、どこから来たの」
「第1管理世界、ミッドチルダから」
「それって、どこなの？」
「説明してもあなたたちには分からない。こことは違う異世界だということしか」
「それで十分だよ。それで、あなたたちの名前は、フェイトとアルフで良かった？
　私は……」
「柊泪に雲野霧子、それぐらいは調べた。
　私はフェイト・テスタロッサ、この子はアルフ」
「フェイト・テスタロッサ……じゃあ、あなたのママは？」
「プレシア、プレシア・テスタロッサ。だけど、それを聞いてどうするの？」
「このオーパスを集めてる理由さえ教えてくれて、それが妥当だって
　DICEの人たちが言ってくれれば、渡してもいいし、集めてるのを手伝ってもいいよ。
　だけど、なんに使うか分からない、誰の物かはっきりしないじゃ渡せないよ。
　カエサルの物はカエサルに返さないとね」
「カエサル？」
「とにかく、これは本来の持ち主に返すのが本当だと思うの。
　あなたのママが本来の持ち主じゃないなら、本来の持ち主と話をして譲ってもらうようにしてほしいの」
「本来の持ち主なんていない」
「どういうことなの？」
「分からない。かあさんがそう言ってた」
「それについては、こちらでも調査するの。
　とにかく、フェイトのママが集めてる理由を教えて欲しいの。
　そうすれば、事態を変える事はできるの」
「……それで、このジュエルシードはくれないの？」
「今はね。相談すれば話は別だよ」
「……分かった、今日は引き上げる」
「フェイト！」
「力ずくで奪わなくても、話し合いでもらえるならそれでもいい」
「だけど、あの人は絶対に理由を話さないじゃないか」
「あの子達は悪い子じゃない。ウソは言ってない、だから、傷つけたくないんだ」
「それでフェイトが傷ついてもかい！」
「私なら大丈夫だから」
「大丈夫って問題じゃないだろ」
「どういうことなの、アルフ」
「あんたらには関係ないっ！」
「あまり時間を掛けてると、邪魔がはいるかもしれない。
　その前に帰るべき」
「霧子、転移を確認したの。すぐこの空間に……」
「逃げるよ、アルフ」
「分かったよ、フェイト」

二人は逃げ出したの。
私達は追う元気はないの。
跳躍で逃げられたら、私達には追う手段もないの。

「P-3、だれが来るか分かるの？」
「そこまでは分かないの」

二人が逃げ出した後でのことは、また別な話にするの。

 

 

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