ノーヴェが借りたジムでの練習二日目なの。
私達が練習してると、来客があったの。

「よう、なかなか設備の整ってるジムだな」
「なんだ、ザフィーラの旦那か。ん、ミウラも連れてきたんだな」
「ああ、前の試合でミウラはいいところなく負けたからな」
「すいません、師匠。ボクの力不足です」
「いや、実力の中には練習環境の差もある。
　実力者と常に練習していたヴィヴィオと、普通の道場に通う奴らと練習してた
　ミウラとでは、実力差が出るのも仕方ない。
　それで、ノーヴェに相談だ。
　うちのミウラを預かって欲しい」
「預かるのはいいけど、基本は八神流なんだろ。
　ていうか、旦那んとこも実力者はそろってるじゃないか」
「シグナム達はいつもミウラの相手をするというわけにはいかんし
　俺は俺で、道場生全員を見なければならんからな。ミウラにつきっきりにはなれん」
「それで、うちに？」
「ああ、ここでなら、ミウラも刺激を受ける練習相手と毎日当たれるだろう」
「それは保証するよ。で、いつから練習に入る？」
「今日から頼む、ミウラのインターミッドは終わったが、次はU-15が待っている」
「そうだな、うちのアインハルトもそれに合わせて調整中だよ」
「分かった。じゃ、ミウラはうちで面倒見させてもらうよ」
「頼む」
「お願いします」
「よし、そうと決まれば早速挨拶からだな、ミウラ、ついてきてくれ」
「はい」
「俺はこれで失礼する」
「ありゃ？　旦那も来るんじゃないのかい？」
「ミウラはもう俺が教えるんじゃないからな。
　いつまでも俺が保護者面するものでもないだろう」
「まあ、旦那の気が向かないなら無理強いはしないよ。
　でも、たまには顔を見せてやってくれよな」
「ああ、たまにはな」
「では、師匠、お疲れ様です」
「ああ、頑張れよ、ミウラ」
「はい、頑張ります」
「ユミナ、じゃ、あたしは下行ってくる。受付は頼むな」
「はい、お任せ下さい」

そういう事情をノーヴェは説明してくれたの。

「U-15を目指すなら、私と一緒ですね」
「そうですね、アインハルトさん」
「ミウラちゃんも一緒にここで練習するんだ。頑張ろうね」
「はい、ヴィヴィオさん。……前の試合の雪辱ができるように頑張りますよ」
「うん、前の試合、ミウラちゃんは全然実力が出せてなかったもんね」
「あれがボクの実力です。あがり症も含めて、ボクの力ですから」
「それだけ言えれば十分だ。さあ、練習に入るぞ。
　とはいえ、アインハルトにせよ、ミウラにせよ、格闘そのものが弱いわけじゃないんだよな。
　むしろ問題はメンタル面だろう」
「ボクは分かりますが、アインハルトさんも？」
「まあ、人には色々あるんだ。今は詮索しないでくれるか」
「はい」
「アインハルト、まずはミウラとスパーリングをしてくれ。
　リラックスした状態でのミウラが見たい」
「分かりました。ミウラさん、ではデバイスを」
「普通の防具じゃなくて？」
「試合ではデバイスを使いますから、使い慣れたデバイスを使った方がよろしいでしょう」
「分かりました。それで、アインハルトさんは……」
「私はデバイスがないので、普通の防具を使わせてもらいます」
「大丈夫なんですか？」
「ええ、ヴィヴィオさん達との練習も、それでやってきてますから」
「そうおっしゃるなら」
「アインハルトのデバイスについては、ユミナに頼んでつてを当たってもらってる。
　どうせならいいデバイスを用意したいからな。時間がかかるのは仕方ないさ」
「そういうものなんですか」
「そういう物だよ。クリスだって使わせてもらえるようになったのは今年からで
　今まではママのレイジングハートを使ってたし」
「ヴィヴィオさんはそうなんですか。ボクは最初からデバイスを師匠にもらったんでよく分からないです」
「それなら私と一緒だね。私も最初からデバイスになれてた方がいいって言われてソルフィーズをもらったから」
「よし、無駄話はそれぐらいでいいだろう。始めるぞ」
「はい」

ミウラさんはデバイスを起動するの。
アインハルトさんはリングに上がって柔軟体操。
ミウラさんを待つの。

「お待たせしました、では始めましょう」
「はい、お願いします」
「こちらこそ」

そう言うと、お互い構えてスパーリングが始まるの。

「近づいて……斬る！」

ミウラさんの持ち味はインファイトでの打撃力なの。
だけど、打撃ならアインハルトさんも負けてないの。

「え？」

でも、アインハルトさんはあえてアウトレンジ戦を仕掛けていったの。
フリッカーで間合いをとってリングを回りながら距離をつめさせないの。

「！」

ミウラさんが何か決意をもったような目をするの。
大きく踏み込んで一撃を入れようとした瞬間。
逆にアインハルトさんも踏み込んで……

「覇王断空拳！」

ミウラさんの一撃が入る前に、アインハルトさんの一撃が入るの。

「そこまで！」

ノーヴェがスパーリング終了を告げるの。

「どう思う、アインハルト」
「確かに目はいいですし、動きも鋭いですけど、作戦が1つしかないので
　そこを見切られるとカウンターの餌食ですね」
「厳しい評価痛み入ります」
「そこまで卑下することもない。ただ、試合前の研究はみんなされて当然だから
　作戦が一つしかないと辛いぞ」
「はい。でも、ボクが師匠達から教わったのは、近づいて斬る、だけですから」
「まあ、そうだろうな。だからこそ、ここに旦那は預けてくれたんだろう。
　あたしの評価を言えば、アインハルトが強すぎるんだ、ミウラが弱い訳じゃない。
　ヴィヴィオとの試合じゃ緊張のあまりヴィヴィオのいいのをいきなり食らってたが
　本来の実力から言えば、ミウラが逆にヴィヴィオにいいのを入れることも出来たろう。
　しかしながら、アインハルトの指摘は的確だ。
　作戦が一つしかないってのは、インターミッドじゃ致命傷になりうる。
　なにしろ単なる格闘じゃないからな。総合格闘技で魔法もありだから
　作戦一個で勝ち進めるほど甘くない。
　それでも、だ。
　ミウラは変身魔法を使ってもリーチがそれほど伸びるわけじゃない。
　飛び道具もない。アウトレンジ戦で勝てる要素がないんだ。
　そう考えると、ミウラは、むしろ一つしかない作戦を磨いた方がいい」
「一つしかない作戦を磨くって、どういう意味なんですか」
「簡単さ。いかにして近づき、いかにして強い一撃を入れるか。
　それを考える事さ。今のミウラには飛び込みしかない。
　だから簡単にカウンターが入る。
　だけど、アウトレンジ戦で落とされない、打撃を受けない戦い方が出来るようになれば
　否応なしに相手はおまえのレンジで戦わざるを得なくなる。
　試合じゃ逃げ回った方が負けだからな。実戦とは違うんだよ」
「それってどんな作戦なんです？」
「それを今すぐ言ってしまっても、身につかないだろう。
　ヴィヴィオ、これから毎日かならずミウラ相手にスパーリングパートナーを務めてくれ」
「いいよ。だけど、私でいいの？」
「おまえだからいいんだ。ヴィヴィオはアウトレンジ戦主体のカウンターヒッター。
　まあ、前回は調子の上がらないミウラを逆に接近して落としたが
　あれはヴィヴィオ本来の戦い方じゃない。
　まあ、あの試合はな……待ってミウラの心が落ち着いたらどう転ぶかわからなかったから
　一撃で決めるように言ったんだが」
「なんだか、全部見透かされてますね」
「対戦相手が決まったら、作戦研究ぐらいはするさ。
　ミウラもあのミカヤ相手に勝ったんだ。U-15でもマークされると思っていい」
「ボクなんかでもマークされるんですか？」
「トーナメントは一回負けたら終わりだからな。相手の優位に立つためなら、ルールの範囲内でなんでもやるさ」
「そうですね」
「早さで言えば、霧子は早いし、パワーで言えば泪は圧倒的な遠距離戦のパワーがある。
　近距離での力比べならリオに勝てる奴はまずいないし、ゴライアスを操るコロナだって、ゴライアスだけじゃない強さがある。
　そいつらとも練習すれば、自分に足りない物、自分が磨くべき物が見えてくるはずさ」
「見えてくるように頑張ります」
「まあ、U-15はまだ先、夏休み期間に入ってからだ。
　それまでに実力を伸ばすぞ、いろんな意味で」
「はい」
「アインハルトとミウラ以外は次のインターミッドが待ってる。
　ひとまずベスト8、本予選出場を決めるところまでは行こう。
　そして、そこから先は実力の限り進んで行けばいい」
「はい」
「あの、一つ聞いていいの？」
「なんだ、霧子」
「私達はU-15には出ないの？」
「U-15に出たいか？」
「出たいかじゃなくて、興味があるだけなの」
「インターミッドで負けたら出ればいいさ。掛け持ちは辛いぞ」
「分かったの」
「よし、じゃあ練習開始だ！」

練習開始なの。
インターミッド以外にもU-15っていう大会があるのは知ってたの。
アインハルトさんはそれに合わせて調整してるの。
ミウラさんも調整を始めたの。
私達はインターミッド。だけど、どこまで行けるかは謎なの。

 

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