「人を救うための拳？　冗談もほどほどにしたまえ。
　少なくとも、私を倒すことなど出来ないさ」
「試して、みますか？」
「試す必要もないね」

そう言うと、謎のおじさんは魔法弾をアインハルトさんに向かって放つの。
でも、アインハルトさんはそれを柔らかく受け止めると、謎のおじさんに向かってそれを投げ返すの。

「その程度ですか？」

謎のおじさんはびっくりした顔をして、魔法弾をかわすの。

「口だけではないということか。
　よろしい、相手しよう」
「望むところです」

謎のおじさんから、みょうな余裕が消えるの。
どうやら、アインハルトさんを本気で戦うべき相手と認識したみたいなの。

「いいだろう、死にたければ死ぬといい」

謎のおじさんは、接近して殴りにかかるの。
でも、殴り合いならアインハルトさんだって負けてないはずなの。
素早く繰り出されるおじさんの突きに、アインハルトさんは的確に反応して防御してるの。

「霧子、泪、ぼけっとせずに」
「あ、はい、パパ」

そうだったの。私達には私達でやるべきことがあるの。
それは、ユーリとイリスを止めること。

「コロナ、ゴライアスを」
「うん、創主コロナの名において、立ち上がれ、ゴライアス！」

コロナがゴライアスを作り出す間に、私達はより弱い鎖の輪……イリスを止めるべく対応するの。

「私達は全力でイリスを止めるの。コロナはユーリをゴライアスで」
「わかった」
「なんかなめられた気がする」
「なめてないよ、こっちの方が人数が上なんだから、数で押し切る」
「数が勝負なら、私も負けてないけどな」
「分身なら……」
「今度は分身じゃない！」

でも、イリスが作り出したものは、分身にしか見えないの。
仮面を付けた、イリスそっくりの女の子。
それなら作れば作るほど、弱点が生まれるっていうのは、シスターシャンテでわかってるの。

「片っ端から片付けてくよ、霧子」
「わかったの、泪」
「ヴィヴィオは本体をお願い」
「うん、雑魚は任せたよ」

私達は、わざと分身を作らせて、イリスに負荷を掛けようとするの。
もちろん、ヴィヴィオの邪魔はさせないようにヴィヴィオのための回廊は作るの。

「分身じゃないって言ったでしょ」
「分身じゃなければなんなの？」
「分身じゃなくて、私のコピーよ。
　私がリンカーコアを分けたのは事実だけど、自前の魔力で動けるから、私の力は消費しない！」
「なら片付けるまで！」

泪はホーリー・クロスから魔法弾を放って、イリスのコピーをなぎ払っていくの。
私の方は、ヴィヴィオの援護で邪魔に入ろうとするイリスのコビーをロンギヌス・スピアで牽制しているの。

「ディバイン・バスター！」

まずヴィヴィオは大技でイリスを牽制。
強力な魔法だけに、イリスも大きくかわさないとよけきれないの。

「インファイトで決めるよ。クリス、防御は任せたからね」

防御をヴィヴィオはデバイスに任せて、一気に間合いを詰めていくの。

「！」
「一対一の勝負だよ、イリスちゃん」
「一対一ならかてるつもり？」
「積もりじゃなくて勝つんだよ」

ヴィヴィイオは素早く間合を詰めた後、ワンツーパンチを繰り出すの。
イリスはガードが手一杯なの。ヴィヴィオが本気を出せば少々の相手だと、受け一辺倒になるのは仕方ないの。
それぐらい、ヴィヴィオのパンチは早くて手数が多いの。

「でも、その分疲れも早いとみたわよ」
「疲れる前に決着を付けるんだよ」
「でも、全部ちゃんと防げる程度のパンチじゃない。
　それでどうやって……」
「もう一度、ディバインバスターを……」
「よけるのは造作ないわ」
「そうだよね、よけるしかない！」
「！」

ヴィヴィオは回避動作を予測して先回りすると、ラッシュを掛けるの。

「今のはきれいに入ったよね」
「一発ぐらい……」
「一発ぐらいならね」

その入った一発ですこしイリスは態勢を崩すの。
それだけでヴィヴィオには十分。次々とラッシュがイリスを襲うの。
イリスはガードが間に合わなくなって、次々といいのをもらうようになるの。

「ユーリ！」

たまらずイリスはユーリに助けを求めるの。
もう分身というか、イリスのコピーを作る余裕もなくしてるみたいなの。

「ユーリを止めるの。ゴッドスレイヤー！」

ユーリ相手にどれだけ効果があるかは不明なの。
だけど、ちょっとでも時間が稼げればこの場合は意味があるの。

ユーリは防御行動でゴッドスレイヤーに耐えるの。
ダメージは行ってないみたい。
だけど、防御行動を取ったことで、イリスには致命傷になるの。
ヴィヴィオの大技を準備する時間が取れたから。

「イリスちゃん、魔法打撃だから死なないと思うけど、痛かったらごめん。
　砕け星の輝きと共に、スターライト・ブレイカー！」

もうイリスにこれを回避するゆとりはないの、まともに受けたイリスはそのまま倒れるの。

「次はユーリを止めないと」
「うん、そうだね、泪」

私達はユーリ相手にかまえるの。
だけど、ユーリは自分で何をすればいいかわかってないみたいなの。

「……」
「……」

「イリスがやられたか。
　まあいい、君達を殺してから、ゆっくりとやるさ」
「やらせません。まず私を殺してからの話です」
「そのつもりさ。まさか、自分が死なないとでも思ってるのかね」
「死にませんよ。あなたを倒すまでは」
「思い上がりもいい加減にするべきだね」

そう言うと、謎のおじさんは強烈な一撃をアインハルトさんに向かって打つの。
だけど、アインハルトさんはそれが見えてるようで、紙一重でかわすの。

「一撃一撃は確かに重いですね。でも、あなたは格闘を本格的に修練したわけではないようです」
「ま、確かにそうさ。私の本職は研究者なんでね。
　だが、……」

そう言うと、謎のおじさんは空中に浮くの。

「追ってこないのかね？」
「……」
「そうか、君は飛行魔法が使えないのか。
　これはお笑いだ。飛べもしない君が、私をどうやって倒すというのかね」
「……」
「だんまりか、お手上げのようだね。
　じゃあ、まず君から死んでもらおうか」

そう言うと、謎のおじさんは、強力な魔法弾を準備するの。
私達は介入したいけど、アインハルトさんとの約束があるの。

「君の無謀に敬意を表して、皆殺しの前に、まず君だけ殺してあげよう。
　これはさすがに君でも投げ返せないよ」
「やってみればわかることです」
「そうだな、やってみればわかる。君は理解する前に死んでるだろうが。
　お別れだ」
「あなたは、その魔法弾で死なないといいですね」

強烈な魔法弾……ジークさんの神髄をも超える威力を持つ魔法攻撃が
アインハルトさんを襲うの。
でも、アインハルトさんは微笑んで、その魔法弾を受け止めて投げ返すの。

「！」

謎のおじさんもこれにはびっくりして、思わずガードを固めるの。
おじさんに魔法弾がまともに命中するの。

「おのれ……もういい、君たち全員今すぐ皆殺しだ。
　おまえだけ先に殺そうという手加減をしたのが間違いだった。
　こんどこそ……」
「今度はありません。覇王　断空破！」

強烈な衝撃波がおじさんを襲うの。
魔法をためようとしたおじさんに、それはまともに命中するの。

「く……」

たまらずおじさんは空中から墜落するの。
でも、おじさんは立ち上がって、なおアインハルトさんに突進を掛けるの。
アインハルトさんの方は、落ち着いて、おじさんの突進を見て対応するの。

「覇王　断空拳！」

きれいに断空拳が突進して来たおじさんの頭部にヒットするの。
おじさんはそのまま、アインハルトさんの足下に崩れ落ちて、もう立ち上がってこないの。

「哀れな人です。力に酔って、力に支配されてます」
「ユーリは・」

ユーリは、相変わらず何をしていいかわからないと言った風情で、宙に浮いたままぼんやりとしてるの。
どうやら、イリスの指示がないと、何もできないみたいなの。

「ユーリ、あなたはどうするの？」
「わからない。私は……私は……」
「この星をを壊すの？　私達と戦いたいの？　それとも、おとなしくしとくの？」
「わからないの。でも、私は戦うのは嫌い。星を壊すなんてしたくない」
「そう、じゃあ、まずは何をするべきか、ゆっくり話したいの。
　でも、まずはこの二人をなんとかしてからだよね」
「……」

Ｐ−３がＳＣ空間を解除すると、そこには、管理局と警察、そしてＤＩＣＥの特殊部隊が待っていたの。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。管理世界の住人の犯罪者は、僕が責任を持って逮捕する。
　管理世界に所属しない相手は誰かな？」
「全員管理世界の住人のはずです。こちらのユーリさんだけは、どこからきたのか謎ですが」
「私もエリトリアにいたことがある……」
「決まりだ。全員彼らは管理局で対応する」
「あはは、中で暴れてるのは知ってたけど、ＳＣ空間がアミティアって人がはいってから、さらに強化されて入れなくなっちゃった。
　Ｐ−３、そこまでＳＣ空間を強化する必要があったの」
「あったの。ユーリの力だと、地球を滅ぼすことも出来たはず」
「あはは、私も歩く核弾頭なんて言われるけど、あなたはそれ以上なんだね」
「……私は……私は……」
「いいよ、自分がのぞまない力を持ってるなんて、よくあることだから。
　ひとまず、管理局に行ってゆっくりすればいいよ。
　あなたが、好き好んで人を傷つけようとしたわけじゃないのは、知ってるから」
「……ありがとう」
「御礼を言われるようなことは何もしてないよ」
「こほん。まあ、そういうわけだから、君たちからも事情聴取したい。
　一緒に来てくれるね」
「拒否権はないと思うの」
「まあ、そうなんだが」
「では、行きましょう」
「そうだな。ああそうだ、俺カツ丼がいい」
「自費になるな」
「おごりじゃないのかよ」
「地球の警察でも、カツ丼なら自費だと聞いている」

こうして、私達の夏休みの事件は、ひとまず終わりを告げたの。
エリトリアの事情なんかは、また次のお話になるの。

 

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