あれから２週間経ったの。家から通って学校でU-15に向けた練習。家に帰ったら夏休みの宿題。
そんな一週間を過ごした後、フェイトやユーノと別れて、私達は再びサンクト＝ヒルデの寮に戻ったの。

「なんか家に帰っても帰った気がしなかったね」
「やってることがこちらと同じだったからなの」
「うん、それはあるよね」
「夏休みといっても、そんなに遊べてない気がするの」
「それは仕方ないよ。練習と宿題で忙しいから」
「うん、でも、夏休みらしいこともしたいの」
「あはは、それはあるかも」

そんな話をしながら、それでも宿題をやるの。
そんな会話を交わしてた時から一週間後、いつものようにジムに行くと、ノーヴェが新しい合宿の話を持ってきてたの。

「春光拳の大師匠から、合宿に来ないかという誘いがあった。U-15は格闘メインだから、道場で学ぶ事もあるだろう。
　行ってみる気はないか？　強制はしないが、他のメンバーはすでに行くことになってる」
「それって、事実上拒否権がないの」
「霧子も私も行くけど、春光拳の大師匠って、どんな人なんです？」
「一代で春光拳を築いた天才さ。ヴィヴィオとは違って、自分の道を究めることで、その世界で最強にして不敗の伝説を作ってる」
「春光拳の開祖ってことは、リオの大師匠ってことなの？」
「そうだよ。で、あたしのおじいちゃんでもあるんだ」

それはびっくりなの。リオって実はそれなりのお嬢さんなのかも」

「練習の時は厳しいけど、それ以外じゃ優しいおじいちゃんだよ」
「それは普通なの。普段から厳しかったらただの頑固者なの」
「霧子、それは言い過ぎじゃない？」
「そうかも、ごめん、リオ」
「それは気にしない。おじいちゃんだって直接言われてもそう気にしないと思うし」
「それはそれで心が広すぎない？」
「おじいちゃんは基本怒らないよ。嘘さえつかなけば大丈夫」
「意外とそれって難しいことだと思うの」
「そうかな」
「そんなものなの。ごまかしたいことは人間あるものなの」
「そうなんだ」
「意外そうに言うね」
「うーん、嘘つくなってずっとおじいちゃんから言われてて、それが習慣になってるからかな」
「そうなんだ」
「さて、合宿には明日早速出かけるぞ。今日は早めに練習を切り上げる」
「はい、ノーヴェ」
「よし、時間が短い分、集中してやれよ。向こうの練習相手に無様な姿は見せられないだろうしな」
「はい」

ノーヴェの話も唐突なの。でも、リオのおじいちゃんには興味があるの。

「アインハルト、どうした？」
「いえ、ただ、独自の拳法を開くほどの方とは、どれほどの方なのかと」
「覇王インクヴァルドだって、覇王流を開いたんだろ。アインハルトからみれば、それほど特殊な人じゃないだろう」
「いえ、私は……あ」
「どうした、アインハルト」
「いえ、なんでもありません。ただ、私はクラウスの記憶を引き継いではいても、クラウス本人ではないと気づいただけです」
「それに気づくだけでも進歩さ。さあ、練習に取りかかるぞ」
「はい」

U-15は総合魔法格闘のインターミッドと違って、地球で言う格闘技に近いの。魔法弾なんかは禁止なの。
ついでに、武器も禁止なの。私達にはちょっと不利な条件かもしれないの。

「それを言い出せば、ゴライアスのつかえないコロナもそうだな。だからこそ、対応する練習をする必要がある」
「私もそう思うの、ノーヴェ」

練習時間はあっという間に過ぎ去り、私達は再び合宿の準備を整えるの。

「服はサイズを伝えておけば道着を用意してくれるそうだから、着替えは下着だけでいいそうなの」
「荷物は少なく、だね」
「宿題も今回は持って行かなくていいらしいし、少しは遊ぶ時間があるかもしれないの」
「そうかもね、でも、学ぶ事たくさんだと思うよ」
「うん、それは私もそう思うの」

眠って起きれば、今日が昨日になり、明日が今日になってるの。

「じゃ、集合場所はノーヴェのジムだったね」
「そうなの。そこから次元港へ行って、リオの世界へ行くの」
「じゃ、出発〜」

私達はまずノーヴェのジムに行って、それから全員そろって次元港へ向かうの。

「リオさん、春光拳はどんな拳法なんですか？　リオさんから多少は聞きましたけど」
「基本は総合格闘技だよ。素手での戦いあり、棒術あり。無いのは銃器や魔法弾ぐらいかな」
「魔法弾なしで、無敵を誇ったんですか？」
「うん、おじいちゃんはね。銃弾も魔法弾も当たらなかったそうだよ」
「それはそれですごいですね」
「あたしもそう思う。ま、会えばわかるよ、ミウラさん」
「そうだね」
「なんだか緊張しますね」
「そんな緊張することないよ。おじいちゃんの方は緊張してないと思うし」
「それはそうでしょう。いろんな方と会ってる方でしょうから」
「ま、それはその通り。道場破りも昔は来てたらしいよ」
「今はどうなんですか？」
「今は道場が大きくなりすぎて、破りに来る暇人もいなくなったみたい。おじいちゃん以外にも何人も師範がいるんだから
　その師範全員と戦ってるだけで日が暮れちゃう」
「かなり大きな道場なんですね」
「うん、ノーヴェのジムよりは大きいよ」
「比較対象が悪すぎるだろ、うちは普通のジムで、そもそもがフロンティアジムグループの一店舗を借りてるだけだからな」
「それでも、インターミッド本戦出場者を抱えてるんだからすごいものですよ。他のジムはどこも出せてないじゃないですか」
「そりゃヴィヴィオが特別なのさ」
「別にヴィヴィオそんな特別なことしてないけどなあ」
「才能に努力が加わればだれも追いつけないさ。ヴィヴィオ、おまえには才能がある。努力を怠らなければこれくらいは出来る」
「才能かあ……」
「泪、どうしたの？」
「私達が努力しても、同じだけヴィヴィオも努力してるだなあって」
「そりゃそうさ。だけど、諦めたらそこで終わりだからな」
「それはわかってる」
「ならよし。昨日の自分に負けるな。明日の自分は今日の自分を超えろ。それを繰り返していけば成長は続く」
「私はヴィヴィオをいつか超えたいの」
「あはは、それはなかなか大変だと思うぞ。でも、ヴィヴィオが成長してるんだから、自分が成長できなければ絶対に追いつけない」
「それはわかってるの」
「なら、他人のことであれこれ思い悩むな。大師範だって、己を超えて今があるんだから」

”ルーフェン行時空航行船の〜”

「お、そろそろ時間だ、船に乗るぞ」
「はーい」

そういうわけで、私達はルーフェンへの船に乗るの。
ルーフェンにリオのおじいちゃん、春光拳の大師匠にして開祖が住んでるの。

「つきましたね」
「時空港からは少し歩くようだけど大丈夫かな」
「じょぶじょぶ、荷物は少なめにしてるから」
「宿題も持ってきてないの」
「あは、私と一緒だね。この合宿は宿題のこととか忘れてやろうよ」
「そうしたいの」

私達は、小一時間歩くの。そうすると、目的の道場の門の前に出るの。

「うわあ……大きな建物。学校より下手すると大きいかも」
「さすがにそれはないと思うけど、門下生が泊まりで修行してるから、同じぐらいの大きさかな」
「そうなの。それだけで十分すごいと思うの」

門下生を泊まりがけで修行させる所があるから、私達も泊まりがけで修行出来るというのはあるの。

「みなさん！」

アインハルトさんが、急に身構えるの。

「脅威はかんじないんだけどなあ」

泪がそう話すの。
私もそうなの、脅威のイデアは感じないの。

「わっ」

いきなり、茂みから巨大な虎が現れるの。
アインハルトさんは完全に戦闘態勢に入ってるの。

「アインハルトさん、そんな身構えなくてもいいってば」
「しかし、リオさん。あれは……」
「あれは野生の虎じゃなくて、うちの道場で飼ってるんだよ。
　でも、しばらく見ない間にまた大きくなったかな」
「そうなんですか？」
「そうだよ、シャオ、お客さんに挨拶して」

巨大な虎はふせの態勢に入るの。

「確かに、リオさんの知り合いですね。私がむしろ驚かせたみたいですね。ごめんなさい」
「いや、シャオも悪いよ、ちゃんと道から出てこなきゃ」
「それについては私が謝ろう」
「リンデ師範、すまない、驚かせたみたいで」
「ノーヴェの知り合いなの？」
「知り合いと言えば知り合いだな」
「知り合いじゃないと言えば知り合いじゃないのかな？」
「いや、まあ知り合いなんだが、直接会うのは久しぶりなんだ」
「ふふ、リオが世話になるときに、一度お会いしたきりではありますね」
「そうなの？」
「春光拳の開祖の孫を預けるんですから、ある程度の確認は必要ですから」
「それもそうか」
「なんか大げさな話になってるけど、別にあたしはおじいちゃんと血がつながってるだけだよ。
　道場の跡取りだっておじいちゃんは春光拳の伝承にふさわしい人物を選ぶといってるし」
「リオがそれにふさわしくなればよいのです」
「まだまだ修行が足りてないよ」
「それは当然。これから成長すればいいのです」
「それはおじいちゃんにも言われた。春光拳が好きなら、その神髄に触れるところまで修行してみろって」
「そういうことです」
「無駄話が過ぎましたね、そろそろ行きましょうか」
「はい」
「……巨大な虎を飼ってるんですか。シュトラと同じような風習があるんですね、ここは」
「シュトラでも巨大な虎を飼ってたんですか？」
「ええ、シュトラで飼ってたのは雪虎ですけど」
「そうなんだ」
「虎の気配を感じたので、つい身構えてしまいました」
「でも、飼ってたのなら、シャオに身構えなくても良かったんじゃない？」
「ええ、脅威では今のところありませんでしたから。でも、人間もそうかもしれませんが
　動物も気まぐれですから、よほど飼い慣らしていないと、突然野生に目覚めることがありますよ」
「シャオは危害を加えたりはしないけどなあ」
「雪虎の世話係は危険な仕事でした。慣れてても、機嫌が悪ければ怒ることはあります」
「それはそうかも」

私達は、門をくぐって道場に入るの。

「うわぁ、やっぱ大きい……」
「庭で修練してるのが見える。あれが全員門下生なの？」
「門下生の一部かな。道場で練習してる人もいると思うよ」
「やっぱり学校ぐらいの大きさがあるよ」
「じゃ、本館に行こうか、おじいちゃんは普段そこにいるし」
「そうするの」

私達は、本館へ歩いて行くの。
あと一息で、春光拳の開祖、大師範、大師匠に会うことになるの。

「おかえり、リオ、この人達がリオの友達かな？　ノーヴェ師範、リオを預かってくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ大師範にお目にかかれて光栄です」
「おじいちゃんただいま、こちらが私の友達にして切磋琢磨してる仲間だよ。紹介は……」
「いや、長旅で疲れてるだろう。まずはリンデに荷物を置く場所と泊まる場所を案内させよう。
　紹介はそれからでいいとも」
「すいません、大師範」
「ほっほっほ、リオの前で大師範と言われるとなんだか大げさに聞こえるの」
「そうはおっしゃいますが、私のことを師範などと呼ばれては、大師範とお呼びしなければ」
「そういうものかの、ではノーヴェ、そうかしこまらずに。
　リンデ、すまんが、客人のご案内を。リオは本来なら自分の部屋がよいのかもしれんが
　ここは客人達と合宿してくれ。何分、片付けてないのでほこりだらけでな」
「いいよ、おじいちゃん。自分だけ自分の部屋にいてもさみしいし」
「そうかの。では、リンデ、頼んだよ」
「はい、では、みなさん、合宿所はこちらです」

リンデ師範の案内で、私達はリオのおじいちゃんのところを退出して、合宿所へ向かうの」

「……おじいちゃん、どう思った？」
「仙人みたいな人なの」
「私もそう思った」
「ですが、今でもちゃんと鍛えておられるようです。筋肉の付き方が鍛えてない人のそれではありませんでした」
「春光拳の型とか、練習とかきちんと見せることはしてるからね。
　いつも本を読んでばかりはいれられないんだよ」
「いまでも現役なんですね」
「格闘の試合にはさすがにでないけどね。負けるわけに勝つわけにもいかないからっておじいちゃんは言ってたけど」
「勝つ訳にいかないってどういうことなんでしょう？」
「わかんない。おじいちゃんに聞いたことはあるけど、ただ笑ってた。師範になることがあればわかってくるって」
「わからないの」
「そりゃ、おまえらがまだ現役の選手だからさ。あたしには、なんかわかる気がするな」
「ノーヴェはそうなんだ」
「はい、ここが合宿所です。長期滞在ではないということですし、女性ばかりなので一部屋大部屋を用意いたしました。
「ありがとう。布団はあそこかな」
「はい、シーツだけは毎日洗いますから、朝たたんで表に出しておいてください。
　寝具の準備もやってもらうようになりますが、やり方とかの説明は必要ですか？」
「それについては、あたしから説明するよ。リンデはおじいちゃん所へ行ってて。
　私達は荷物の整理をしてから行くから」
「はい、大師範にはそうお伝えします」

私達は、大部屋の一角に荷物を集めて置くの。
それから、練習のために、ノーヴェの指示で、準備されてる道着に着替えて、それからまた本館へ行くの。
春光拳かあ、どんな練習をするの？

 

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