そういうわけで、私達は胴着に着替えて集合。そこにはリンデ師範が待ってたの。

「はい、では、まずは春光拳の入門から始めましょう。リオには基礎のやり直しで退屈かもしれませんが、復習ということで納得してくださいね」
「はい」
「では、まずは春光拳の基本の基本になる、体幹の安定を図る運動から」

そう言うと、リンデ師範は、踊るようにゆっくりと体を動かしていくの。

「体の軸がぶれないように手足を動かす練習です。ちょっとでも軸がぶれると、足をついてしまいますよ。
　でも、無理はしないように、こけると大事ですからね」
「はい」
「リオはまずお手本を」
「はい」

そういうわけで、私達はリンデ師範の通りに体を動かそうとするの。

「思ったより難しい……」
「すぐ簡単にできるような物なら練習にもなりませんよ」
「それはそうなの。だけど、体の軸を維持しながら体を動かすって思ってたより難しいの」
「アインハルトさんは比較的楽にやってる気がする」
「リオさんの準備運動を見て覚えました」
「予習してたの？」
「そうなりますね」
「ふふっ、意外とゆっくり動くというのが難しいでしょう？」
「ええ、その通りですね」
「激しい動きをするときも、ゆっくりと動くときも、体の軸を維持するのが春光拳の基本です。
　まあ、どんな格闘技でも、体幹がぶれていいことは一つもないでしょうけどね」
「その、体幹を鍛えるのに、春光拳ではこういう運動をするんですね」
「なんか、地球の太極拳に似てる気がする」
「大師範も、様々な格闘技の良いところを取り入れて春光拳を開かれました。
　人間の体の構造が変わらないのなら、基本的な事は変わらないのかもしれませんね」
「確かに、どこの世界に行っても、人間は変わってない気がするの」
「霧子はどんな異世界人を想定してたの？」
「やっぱり、どこかには足が8本あって、薄い空気に適応してる異世界人がいてもいいと思うの」
「それ、昔の火星人……」

そんな感じで、一通り春光拳の基本の動きが出来るようになるまで練習するの。

「みなさん、飲み込みが早いですね。これをするのに一週間かかる人もいるんですよ」
「まだ完璧には出来てない気がするの」
「完璧に出来たら、大師範になれますよ。私も大師範から見ればまだまだです。
　さて、次はみなさんの実力を見てみましょうか」
「模擬戦をやるの？」
「いえ、まずはみなさんにサンドバッグを叩いてもらいます」
「サンドバッグ叩きならなんどもやってるよ」
「そうでしょうが、直接みてみたいもので」
「わかりました」

そういうわけで、私達はサンドバッグが吊してある木のそばに移動するの。

「これを、打で叩いてください」
「打ってことは、瞬間の威力を発揮すればいいんだよね」
「ええ、その通りですよ、詳しいですね」
「ありがとう。前、リオに聞いた気がする」
「そうですか、ではまず、リオが手本を見せますからね」
「はい、あたしも成長してるからね」

そう言うと、リオは力一杯サンドバッグを殴るの。

「こんなものかな」
「ちゃんと腰が入ってましたね。いいですよ」
「じゃ、次は私がやる〜」
「はい、ヴィヴィオさんでしたね、やってみてください」
「じゃ、普通に叩くよ」

そう言うと、ヴィヴィオはリオと同じようにサンドバッグを叩くの。

「威力の方は悪くないですけど、ちょっとリオと比べると大ぶりでしたかね」
「あは、私は力の方はあんまりないから」
「じゃ、次は私がやるの」

私の番が来たの、だけど、威力だけじゃなくて、普通の格闘技で放つ攻撃を意識しないといけないみたいなの。

「どうでしょうか？」
「ヴィヴィオさんの受けた注意を聞いて修正しましたね、いいですよ」
「じゃ、つぎは私がやる」

次は泪がやるの。

「あなたも筋がいいですね」

「では、私もやってみます」

アインハルトさんの順番になるの。

「覇王・断空拳！」

今までで一番いい音がするの。

「素晴らしいですね。でも、それを放つには、普通の打より時間が掛かるのではありませんか」
「ええ、その通りです。ですから、相手の動きを見切るか、相手の動きを鈍らせてからでないと使えません」
「そうでしょうね。、決めの一撃としては十分だと思いますよ」
「ありがとうございます」
「では、私が行きますね」

次はコロナが打つの。

「はいっ！」
「基本通りに良く出来ましたね。威力より隙のなさを選んだ感じでしょうか」
「ええ、そうです」
「戦い方に合わせてますね」
「最後はボクですかね」
「ええ、最後はミウラさんですね」
「全力で行ってかまいませんか？」
「ええ、このサンドバッグは、ちょっとやそっとで壊れませんから」
「はい、じゃあ遠慮無く魔力をこめてやります」
「どうぞ」
「抜剣！」

そう言うと、ミウラさんは全身の力を拳にこめてサンドバッグを殴るの。

「ああっ、ごめんなさいごめんなさい、今片付けます」
「……すごい威力ですね。魔力をこめたとは言え、あのサンドバッグの皮を破るなんて……。
　大丈夫ですか？　手を怪我してはいませんか？」
「手は大丈夫です。でもサンドバッグが……」
「サンドバッグはまた修理しておきます。……みなさん、インターミッドで活躍されたというのがわかります。
　かなりの実力がおありのようですね」
「かなりの実力っていっても、デバイス頼みなの」
「私達はそうかな、霧子」
「そうは言っても、格闘も鍛えたのでしょう？」
「それはもちろん」
「努力の成果は出てますよ。では、それを踏まえた上で課題を出しましょうか」
「課題？」
「ええ、この近くに修練の洞窟というのがあります」
「修練の洞窟？　何をするところなの？」
「何をするって、霧子、そりゃ修行の何かするに決まってるでしょ」
「ええ、その通りですよ、泪さん。みなさんには、力の洞窟、知恵の洞窟、勇気の洞窟のどれかに入ってもらいます。
　そこにある課題をこなして、戻ってきてください」
「わかりました」
「ヴィヴィオさんとコロナさんは、力の洞窟へ。
　アインハルトさんとミウラさんは、知恵の洞窟へ
　霧子さんと泪さんは、勇気の洞窟へ。
　リオは、すでに行ったことがあるでしょうから、好きな洞窟へ行ってかまいませんよ」
「じゃ、勇気の洞窟にする」
「そうですね。では、リオは勇気の洞窟ということでいいですね、みなさん」
「はい」
「では、地図を渡しますから、それぞれ自分の割り当ての洞窟へ行ってきてください。
　固くならなくて大丈夫ですよ、命の危険はないですから」
「それ以外の危険はあるんだ」
「そうでなければ修行にはなりませんからね。くれぐれも怪我のないように」
「はい」
「では、行ってらっしゃい。今から出かけても、夕ご飯までにはかえってこれますよ」
「はい、じゃ行ってきます」
「行ってらっしゃい」

そういうわけで、私達は修練の洞窟と呼ばれる場所に行くことになったの。
そこは、洞窟ということ以外わからないの。
リオは行ったことあるみたいだけど……

「修練の洞窟って言っても、ちゃんと明かりもついてるし、怖いことはないよ。
　大体、中級者が腕試しに行く程度の洞窟だから」
「中級者って認めてもらえたんだ」
「そうだね。私も8歳の時行ったきりだからよく覚えてないけど」

リオは8歳で中級ということになるの。

「師範クラスになると、また別な修練場があるのでしょうね」
「多分ね、おじいちゃんなら知ってると思うけど……」
「リオは教えてもらってないんだ」
「うん、まだ私は師範代にもなってないから」

そんな調子で、私達は洞窟へ歩いて向かうの。
小一時間歩くと、そこには洞窟が並んで待ってるの。

「ちゃんと額が掛かってる」
「そうだね、じゃ、ここからは分かれて」
「うん、じゃ、頑張ってきてね」
「頑張ってくるの」

こうして、私達は別れて洞窟へ入っていくの。
さて、鬼が出るかそれとも……

 

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