私の名前は雲野霧子、地球からミッドチルダに留学に来てる小学４年生なの。
今、私達はミッドチルダの格闘大会、U-15のウィンターカップに出場してるの。

「泪、どうだったの？」
「もちろん勝ち上がったよ、霧子は？」
「私も勝てたの」
「それは良かった」
「次の対戦相手は誰なの？」
「私は知らない人だけど、霧子の組は大変みたい」
「どういうこと？」
「次は、リオと、ランク１位の人との対戦の勝者だよ。
　どっちが来ても強敵だね」
「そうみたいなの。で、リオは分かるとして、ランク１位の人って誰なの？」
「リンネ・ベルリエッタ。ファッションブランドベルリエッタの創業者家族の一人娘みたい」
「そうなの？　でも、ファッションブランドと格闘の強さとは関係ないと思うの」
「そうだね。さて、そろそろ試合だよ、行こう」
「そうするの」

会場は熱気で包まれてるの。
チャンピオンが敗れる番狂わせがあったばかりだけど、次はU-15のランク１位と、
インターミッドベスト８進出者の対戦なの。
好カードを期待して、ボルテージが上がってるの。

「リオは大丈夫かな」
「ところで、リンネさんってどんなファイターなの？」
「リオと同じパワータイプみたいですね」
「コロナは調べたの？」
「はい、有力選手のデータはそれなりに」
「ランク１位になるぐらいだから強いんだろうけど、早さは？」
「遅くはないはずですけど……試合が始まるから、論より証拠ですね」
「だね」

試合開始のゴングが鳴るの。

「お互い様子見みたいなの」
「リンネさんが仕掛けますね」
「うん、そうなの」

リンネさんが前に出るの。
リオもそれに合わせて前に出て行くの。

「殴り合い？」
「みたい。お互い足を止めて殴り合ってる」

リオとリンネさんは、お互いかわすとかよけるとかは考えてなさそうなの。
ガードと攻撃の応酬なの。

「パワーは互角ですね」
「リオと互角って、それはすごいね」
「だけど、リオにはまだ切り札があるの」

そう、リオはまだ炎雷砲といった、変換資質を使った攻撃はやってないの。
ひたすらパワーで押していく戦法を使ってるの。
でも、リンネさんも、リオのインターミッドでの戦いは調べてるはずなの。
リオはパワーだけじゃないの。それに対してリンネさんはどんな手を使うつもりなの？

「パワー、反応速度、どちらも互角ですね。スタミナもリオは十分あります」
「だよね」

リンネさんが先に目先を変えるの。
殴り合いから素早く足払いを仕掛けるの。
でも、リオはこれを察知して……

「炎雷砲！」
「足払いを蹴りで迎撃した！」
「いずれ来ると読んでたんですね」
「みたいなの」

変換資質で生み出した、炎と雷の一撃はリンネさんをひるませるの。
それに乗じてリオはたたみかけるように間合いを詰めるの。
それに対して、リンネさんは投げ技をつかおうとするの。
リオはそのつかみに来る手を殴りつけるの。

「リンネさん、リオの雷で手がしびれてるみたいですね」
「これで決まりかな？」

リンネさんは、しびれてないもう一方の手でリオをあくまでつかみに掛かるの。
リオはそれにかまわず炎雷砲をリンネさんのボディに打ち込むの。
リンネさんの顔がゆがむの。
でも、それにはお構いなくリンネさんはリオを捕まえるの。

「リオは不味いかも……」
「どういうこと？　リンネさんはもうふらふらだよ」
「強引に片手で投げに掛かったの！」

リオを片手でつかんだリンネさんは、しびれてるはずの反対側の手でリオを抱き留めようとするの。
リオは危険を察知して離れようとするけど、リンネさんの力が勝るの。
リオはリンネさんの片腕で腰を保持されるの。
もちろん、その間合いならリオの拳は外れるはずもなく、顔面にヒットするの。
この拳もリンネさんに効いてるはずなの、証拠にリンネさんの顔が苦痛でゆがむの。
それでもリンネさんは反対側の腕できっちりリオをホールドするの。

「リンネさん、もう気力だけで戦ってる」
「でも、リオももう有効な手がないはず」
「リオの体が燃えてるの」

リオは、変換資質を使って、自らの体から炎を吹き出すの。
それでもリンネさんはリオを強引に投げるの。

「いくらなんでも、やけどすると思うの、あんなことをしたら……」

強引なスープレックス。前からホールドして頭からリオを落とそうとするの。
リオも両手が使えるから、打撃を殺すために手をつくの。
でも、リンネさんはかまわずそのまま投げきるの。

「リオがダウンしたの」
「リオ、大丈夫かな」

ここで、セコンドについてたハリーさんがタオルを投げ込むの。
リンネさんの勝利なの。

「なんでタオルを投げ込んだのかな」
「これ以上やったら、リオが再起不能の怪我をしてしまうの」
「今でも腕に深刻な打撃が入ってるもんね」

すさまじい威力の投げ技なの。
腕で威力を殺したはずなのに、その投げの威力を受けとめた腕を破壊してしまうなんて想像を絶するの。

「これで、霧子の相手はリンネさんに決まったね」
「うん、そうなの。……でも、あんなやり方は、スポーツとは言えないの」
「相手を壊す技だよね、あれ……」
「ともかく、リオのお見舞いに行こう」
「そうするの」
「それがいいね」

リオは歩いてリングを降りるの。どうやら、腕に受けた打撃以外はそれほどひどくはないみたいなの。
勝ったリンネさんも、無傷じゃないの。それでも勝者として、歩いてリングを降りていくの。

私達は、リオをお見舞いするために、医務室へ急ぐの。

「リオ、大丈夫？」
「腕がしびれてるけど、それ以外は大丈夫」
「ハリーさん、あれ以上やったら……」
「間違いなくリオは壊されてた。噂には聞いてたけど、噂以上だな、ありゃ」
「噂って？」
「リンネは、相手を壊すことをいとわず勝ちに行くって話さ。
　相手を怪我をさせようが、自分が大けが負うことになろうが、とにかく勝ちに行く。
　良く言えば勝つことに貪欲なんだが、悪く言えば勝つためには手段を選ばない」
「ルールの範囲内でやってるんですよね」
「確かにな。あたしだって負けるつもりじゃやらないし、勝つことには飢えてる。
　格闘やるやつはみんなそうだ。でも、あんなやり方でじゃねえ。
　リンネの戦い方には、なんていうか、リスペクトがないんだよ」
「リスペクト？」
「ああ、相手も自分も勝つためなら壊れてもいいと思ってる。
　霧子、次の相手はやっかいだぞ。普通の奴はまず自分が可愛い。
　だから、相手を壊すより自分が壊れないことを優先する程度の配慮はする。
　だが、リンネは違う。相手を壊すためなら自分が壊れることも平気でやる。
　それで最後にリングに立ってるのが自分なら、勝ちだと思ってる」
「そこまでして勝って、何を得るつもりなのかな」
「わからねえ。そこまで勝つことに飢えてるってのは尋常じゃねえよ」
「すみません、力不足で」
「そういう問題じゃねえ、リオの戦い方は荒かったが間違ってねえ。
　常識の通じる相手なら勝ててた。でも、リンネはそうじゃなかった。
　あれじゃリンネだって……」
「医務室に誰か来たよ」

噂をすれば影が差すというの。
ことわざ通り、姿を現したのは、治療を受けに来たリンネ・ベルリエッタその人だったの。

「こんにちは」
「こんにちは、勝利おめでとうなの」
「あなたが次の私の対戦相手ね」
「そうなの。雲野霧子なの」
「そう。あなたが何者でも、私は勝ち上がって優勝するわ」
「私もそのつもりなの」
「そう、でも、最後に勝つのは私ですから」
「治療を受けに来たんだと思うの。まずは治療を受けるといいと思うの」
「そうするわ」

お医者さんのところへリンネさんは向かうの。

「ふぅ……リオ、腕は大丈夫か？」
「ええ、止めていただいたおかげで、致命傷は負わずに済みました」
「それは不幸中の幸いだな。骨は大丈夫か」
「ええ、先生に検査してもらいましたが、ヒビも入ってないそうです」
「そうか。不幸中の幸いだな」
「はい」
「よし、気持ちを切り替えるぞ、ていうか、次はコロナ、おまえの出番だ」
「はい」

リンネ・ベルリエッタ。なんだか氷のように冷たい雰囲気の人なの。
だけど、なにかさみしそうにも思うの。
何がリンネさんをそうさせてるのかは分からないけど、それでも、次の試合は、私が勝つの。


 

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