「アインハルトさん勝利おめでとうございます」
「ありがとう」

　キャリーさんとの戦いに難なくアインハルトさんは勝利したの。
次の対戦相手は、前に私と当たってるリンネさんなの。

「来週はリンネさんとの戦いですね」
「普段通りにやるだけですよ」
「なんか、アインハルトさん強くなった気がするの」
「皆さんのおかげです」

　アインハルトさんは、夏休み、DICEの遊園地に行った時から何かが吹っ切れてるように見えるの。
今まで、悩んでたことが消えて、純粋に格闘に打ち込んでるの。

「アインハルト、良い試合だったぞ」
「ノーヴェさんの指導のたまものです」
「いや、それがないとは言わないが、精神的に安定したようにも見えるな。
　第９７管理外世界での経験が生きたか？」
「ええ、それもあります。クラウスの拳が決して破壊のためのものでなかったこと。
　そして、私なりの覇王流で、私なりの覇王を目指せばいいことが実感できました」
「それは良かった、が、次の相手はランク１位だ、強敵だぞ」
「やるべき事をやるだけです」
「確かにそうだな。とはいえ、リンネの奴も、アインハルトに勝てばチャンピオンに挑戦するだけの実績にはなる。
　その意味では、キャリー選手相手とは、相手の気持ちの入り方も違うぞ」
「そうですね」
「ノーヴェ、リンネさんは、アインハルトさん対応で何か練習してるんでしょうか」
「してるだろうな。リンネんとこのジルコーチは厳しい練習を課すが、リンネはそれに耐えられるだけの実力がある。
　ジルの練習で音を上げる奴も多いが、リンネはここまでジルに着いてきてる。
　それだけでもたいしたもんさ」
「そんなにジルコーチの練習はきついんですか？」
「ああ、選手時代にもハードな練習を積んで、あと一歩でチャンピオンの座を射止めるところまで行った。
　その経験から、きつい練習で体を鍛えれば、強くなれるというのが信条だ。
　確かにその練習に体が耐えられるのなら、そして、強くなりたい気持ちがその練習に耐えられる精神を生み出せるなら、ジルは正しいだろな」
「あと一歩ということは、チャンピオンには負けたんですよね」
「いや、チャンピオンとはやってないんだ。その前に練習のやりすぎで体を壊したんだよ、ジルは。
　それだけに、チャンピオンの座に対するジルの気持ちは強いと思うな」
「体を壊すほどの練習をするのはやりすぎだと思うの」
「それはその通りさ。だけど、リンネは違う。あいつはジルの要求に応えてる。
　アインハルト、次の相手は今まで対戦した中で一番の強敵になるぞ」
「チャンピオン以上なんでしょうか」
「ある意味ではな。前の試合じゃチャンピオンはおまえのことをインターミッドの脱落者と思ってた。その分、油断があったと言える。
　だがリンネはそうじゃない。チャンピオンから挑戦者として指名されるだけの実力の持ち主と考えて、油断もない。
　その上霧子に負けたせいで、ウィンターカップに優勝すれば確実と見られてた、チャンピオンへの挑戦権が逃げていった。
　そりゃ気合いの入り方は人一倍だろう」
「そうかもしれませんね」
「アインハルトさん、何か人ごとみたいですね」
「目の前の一戦一戦を大事に戦う以外、私に考えられることはありませんから」
「相手は眼中にないってことなの？」
「いえ、相手の事は考えてますよ。ただ、考えても始まらないこともあると思ってます。
　相手も私と同様、勝ちたい気持ちはあるでしょう。でも、気持ちで勝てるほど、格闘は甘くないとも思ってます」
「そりゃまそうさ、勝ちたいのはみんな同じだ。
　だが、リンネは勝つためなら相手を壊すことも、自分を壊すこともいとわない。
　今までの相手とは勝手が違うぞ」
「そうですね、霧子さんとの試合を見て私もそれは感じました。
　霧子さんとの対話は平行線でしたし、なぜリンネさんがあれほど勝つ事にこだわるのかは見えませんでしたが」
「そうだな。それについてはあたしも正直分からない。
　対戦することで見えるかもしれんが、それじゃ手遅れだ」
「そうですね」
「強くなりたいのは私もなの。だけど、リンネさんは回りに畏怖されたいって言ってたの」
「そうだったね、霧子」
「畏怖されたいって？」
「あ、ヴィヴィオはその場にいなかったの。
　リンネさんは強くなって、誰からも挑戦されることすらない強さを身につけたいって言ってたの」
「それって、怖がられたいってことなのかな」
「分からないの」
「あはは、私にはわかんないや」
「……私には、分かる気がします」
「コロナ？」
「私は、あんまり友達を作るのが上手じゃなくて、ヴィヴィオやリオと会うまで友達がいなかったんです。
　それで、ひとりぼっちだと、やっぱりいじめとか遭うんです。
　私は先生が押さえててくれたんですけど、もし先生が当てにならなかったしたら、いじめられないために自分が強くなるしかない、と思っただろうって」
「リンネさんもいじめに遭ってたのかな？」
「それは分からないな。だが、いじめに対応するっていうだけじゃ、あれだけの無茶は理解できない気がする」
「そうかもしれません。でも、リンネさん、ひどく孤独に見えるんです」
「それは私も思ったの」
「霧子さんもそうですよね」
「うん」
「でも、怖がられたんじゃやっぱり友達は出来ないよね」
「泪さんのいうことは分かるんです。だけど、いじめられないことが先になったら、あるいはって」
「……考えても始まりません。目の前の一戦に備えるだけです」
「そうだね。リンネさんに勝てば、次はチャンピオンとの対戦が待ってるもんね」
「リンネさんの事も失敗だけど、心配しても私達にできることはないかもしれないの」
「まあな。ジルの奴もリンネのメンタルは考えてるだろう。
　ただ、リンネとは年齢差あるからな、友達ってわけにはいかないだろうな」
「そうですね」
「よし、アインハルト、そしてみんな、そろそろ帰るぞ。
　アインハルトは帰ったらリンネの試合のビデオを見て研究だな。
　他の奴は練習だ、一日休むと取り戻すのには一日じゃ済まないぞ」
「はい」

　私達は試合会場から、ノーヴェのジムへと向かうの。

「留学が終わる前に、ヴィヴィオと最後の一戦はやらないとね」
「泪、それは私も同じ気持ちなの」
「あはは、私はそんなに強くないよ」
「でも、私達が勝てない程度には強いよ」
「そりゃ、やっぱり負けたら悔しいから、負けないようには頑張ってるよ」
「そうだよね。勝てばうれしいし、負ければ悔しいのはみんなだよね」
「そうなの」
「だから、いつでも私は勝つ積もりでやるよ。留学終了の対戦でもね」
「それはもちろん。手抜きされて勝っても意味ないし」
「ライバル同士なんですね」
「私達が一方的にライバル視してるだけなの」
「でも、私も意識はしてるかな。なのはママは追いかける目標だけど、切磋琢磨はまた別だよね」
「そうですね。私も、皆さんと一緒に練習できて、何かを追いかけるだけじゃない鍛錬ができた気がします」
「アインハルトさんもそうなんだ」

　来週、アインハルトさんとリンネさんの試合があるの。
そのとき、何が起きるのかな？


 

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