そういうわけで、リンネさんとアインハルトさんの試合の日が来るの。

「アインハルト、落ち着いてるな」
「はい、やるべき事はやりましたから」
「とはいえ、ジルんとこで鍛えられたリンネも、やるべき事はやりきってるだろう。
　油断はするなよ」
「分かってます」
「分かってれば良い、じゃあ行こうか」
「はい」

私達は観客席でアインハルトさんの応援なの。
ノーヴェはセコンドとしてアインハルトさんと一緒に選手控え室へ。

「アインハルトさん、大丈夫かな」
「さすがに瞬殺とは行かないと思うの」
「そりゃそうだろうけど、あんまりアインハルトさんが負ける所が想像できないな」
「第97管理外世界から帰ってからのアインハルトさんは、本当に強いですね」
「そうだね、私もそう思うよ。なんで前勝てたのかが不思議なぐらいに強く感じる」
「落ち着いてみえますよね」
「リンネさんより、精神的には上なのかも。リンネさんは勝つ事には飢えてても、精神的には不安定に見えるの」
「前、霧子とやったときからは、修正してるんじゃないかな」
「そうかもしれないの」

まず、アインハルトさんが入場してくるの。

「頑張れアインハルトさん〜」

私達だけじゃなくて、会場からもある程度応援は入るの。
さすがにチャンピオンに一度は勝ってるだけはあるの。
だけど、続いて入ってくるリンネさんの方が、受ける声援は、ひいき目を入れても大きかったの。

「さすがにランク一位だけはあるね」
「だけど、アインハルトさんは一度チャンピオンに勝ってるの」
「霧子の言うのもわかるけど、あれはアインハルトさんも無茶してるから」
「それはそうなの」

そんな会話を交わしてるうちに、試合開始のゴングが鳴るの。
リンネさんは普通に、アインハルトさんも覇王流で構えるの。

「お互い隙をうかがってるみたい」
「みたいなの」

先に動いたのはリンネさんの方なの。
ゆっくりと間合いを詰めていくの。
それを見たアインハルトさんは、一瞬で間合いを逆に詰めて一撃を放つの。

「まともに入った？」
「みたいだね」

リンネさんの表情が少し変わるの。
アインハルトさんは追い打ちを掛けることなく素早く間合いをひらき直すの。
追い打ちに対処しようとつかみにかかったリンネさんの手は空振りするの。

「アインハルトさん、判断もいいの」
「だけど、まともに入ったはずなのに、リンネさん、効いてるようには見えないよ」
「受け流したようにも見えないのに、どうしてだろう」
「防御を鍛えたというか、異様に打たれ強いのかも」

リンネさんは普通の構えを崩さないの。
だけど、リンネさんは、私とやったときとは明らかに違う表情なの。
相手を本当の強敵と認めた顔なの。私相手の時には、つまり、まだ油断があったって事なの。

リンネさんは誘うように隙を作ると、そのままゆっくり間合いを詰めていくの。
リンネさんの誘いにアインハルトさんは乗らず、間合いを維持してるの。

「どうしたんだろう、アインハルトさん」
「むしろリンネさんの方が意外かな、わざと隙を作るのは良いけど、まともにまた受けたら痛いよ」
「ヴィヴィオの言うのは分かるけど、乗ってくれればつかみ技を使う積もりじゃないかな」
「とはいえ、アインハルトさんは注文には乗らないね」

隙を作ってもアインハルトさんが乗らないと見たのか、リンネさんは隙の無い構えに戻すの。
そして、間合いを大きめに開くの。
アインハルトさんは自分の間合いになるよう間合いを調整して少し前に詰めるの。

「動きが少ないね」
「仕方ないよ、ガードの上から……」

リンネさんは、アインハルトさんのガードの上を思い切り叩くの。
アインハルトさんは当然ガードするけど、アインハルトさんの顔色も変わるの。

「ガードの上から強引に叩いてる」
「だけど、あのパンチは凄い威力がありそうなの」
「そうだね、アインハルトさんの顔色が変わってる」
「ガードの上から強引に叩いて防御一辺倒にする作戦？」
「そうかもしれないの」
「だけど、ガードの上からじゃ十分には効かないだろうに」
「それでも落とす自信があるんじゃないでしょうか。ボクの抜剣も、防御の薄い相手なら、ガードの上からでも効きますよ」
「だけど、アインハルトさんはそういう相手じゃないの」
「それはそうですけど」

アインハルトさんはリンネさんのラッシュに防御一辺倒になってるの。
だけど、ラッシュはいつか切れるはずなの。

「30秒経ちましたけど、まだリンネさんの手は休まないですね」
「普通、こんなラッシュを続けたら、防御してる側より、攻撃してる側のほうが体力を使うはずなんですが」
「体力はリンネさんが鍛えられてるのかな」

一分後、リンネさんはさすがに疲れたのか間合いをひらき直すの。
アインハルトさんはやっぱり追撃しないの。

「アインハルトさんは何を警戒してるんでしょう」
「霧子相手の時みたいに、壊しにかかってくることじゃないでしょうか。
　もし、負傷でもすれば、たとえ試合には勝っても、次のチャンピオン戦に差し障ります」
「それを計算に入れてリンネさんも戦ってるの」
「おそらく」

リンネさんは、息を入れたのか、またラッシュを始めるの。
今度はアインハルトさんは絶妙な間合いでラッシュをかわすの。

「リンネさんの攻撃を全部見切ってるみたいですね」
「みたいなの」
「なら、この勝負、アインハルトさんの勝ちでいいのかな」
「だといいけど、まだリンネさんも手札はあるはずだし」

アインハルトさんが再び一気に間合いを詰めるの。
リンネさんはそれを待ってたかのように、ラッシュをやめてつかみにかかるの。
対するアインハルトさんはそのまま発勁を発動するの。
リンネさんのつかみは発勁で吹き飛ばされて空振りになるの。

「発勁は霧子も使ったことあるよね」
「リオから教わったの。だけど、アインハルトさんが使うのは初めて見たの」
「練習してたんでしょうね」

でも、やっぱりアインハルトさんは間合いが開いたのを見て、間合いをひらき直すの。

「落ち着いてますね、アインハルトさん」
「だけど、積極性に欠けるようにも見えるの」
「リンネさんはまだ有効打をアインハルトさんに与えてませんよ。
　この調子が維持できれば、アインハルトさんは判定で勝てます」
「でも、アインハルトさんはそれを狙ってる気はしないの」
「積極性に欠けるって言ったのは霧子だよ」
「うん、だからアインハルトさんの作戦はよく分からないの」

リンネさんは吹き飛ばされたけど、体勢を維持して着地、私から発勁を受けた時みたいに転んだりはしないの。
そこからリンネさんは構え直すの。
アインハルトさんも、間合いを維持して、隙をうかがうの。

リンネさんが一気に間合いを詰めて体を落としてパンチを打つの。
アインハルトさんはその動きが見えてたのか、間合いを開いてそのパンチをかわすの。
リンネさんはどんどん間合いを詰めて行くの。

「この体勢じゃ発勁は使えないの」

発勁は全身の力を拳に乗せて放つ技なの。
だから間合いそのものはいらないんけど、放つまでの体勢作りが必要なの。
その体勢を作らせないのがリンネさんの手みたいなの。

「だけど、リンネさんの動きはアインハルトさんには見切れてるはず」
「私も出来てたと思ったよ。だけど良いのを受けたの」
「そういえば、そうだったね」

アインハルトさんには、その油断はないみたいなの。
無理な反撃は避けて、リンネさんの疲れを待ってるようなの。

ラウンド終了のゴングが鳴るの。

「このラウンドはアインハルトさんのペースだったの」
「だね、だけど、次のラウンドじゃ修正してくるんじゃないかな」
「油断がなければ、アインハルトさんが負けることは想像できないの」
「普通にこのペースを維持してればね。
　だけど、もしＫＯ勝ちにアインハルトさんがこだわったら、どこかに無理が出るかもしれないよ」
「ヴィヴィオの言うのは確かなの」

そう、このラウンドはアインハルトさんのペースだったの。
だけど、アインハルトさんにやられっぱなしになるような練習は、リンネさんもやってないはずなの。
何をやってるかはなぞだけど。


 

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