私の名前は雲野霧子、サンクト・ヒルデの留学も大詰め、今日は学期末試験の実技がある日なの。
筆記試験はすでに合格したの。後は実技で合格すれば進級許可が出るの。
でも、進級しても、私と泪は品川の小学校に、フェイトとユーノと入れ替わりに戻るの。

「霧子、落ち着いてる？」
「ううん、ちょっと緊張してるの、泪は？」
「私も緊張してないっていえば嘘になるかな」
「大丈夫だよ、しっかりこの日に備えて練習してきたんだから」
「ありがとうコロナ。だけど、試験は一発勝負なの」
「あはは、一応追試はあるよ」
「追試を当てにするもんじゃないだろヴィヴィオ」
「後がないと思っちゃうから緊張するんだよ、セーフティネットがあれば気持ちにゆとりが出来るし、ゆとりがあればうまくいくんだよ、リオ」
「そうかもしれないけど、宛にするもんじゃないと思う」

名前を呼ばれた順に試験場へ行くの。
試験自体はすぐ終わるの。だけど、短い時間だけに立て直しが難しいの。

「終わった〜、霧子はどうだった？」
「一応失敗はなかったと思うの」
「それは良かった、泪は？」
「うーん、出来て積もりかな。積もりであって、結果は後で纏めて発表だけど」
「そうだね、発表は明日だよね」
「じゃ、全部終わったし、ノーヴェのジムに行こうか」
「そうだね」

というわけで、日課になってるノーヴェのジムへ向かうの。
私達はもう次はないけど、ヴィヴィオ達は来年度に向けての練習なの。

「もう次がないっていうのは残念だよね」
「仕方ないの。まだ地球は管理外世界扱いなの」
「魔法文化レベルと文明の進み具合は関係ないもんね」
「次元の海を越えられるかどうかが基準だったよね」
「そうだね」
「次元航行艦も教えてもらえれば作れるとは思うけど」
「教えてくれるかどうかは別だよね」

そういう他愛のない話をしてるうちにノーヴェのジムにつくの。

「よし、おまえらそろったな。
　ヴィヴィオ達はスプリングカップと次のインターミッドが待ってる。
　アインハルトはチャンピオンとしての練習があるぞ。
　霧子と泪は……残念だな、もう帰らなきゃいけないのか」
「そうなの。留学期間はそろそろ終わりなの」
「進級できても出来なくても、終わりだね」
「そうだな。おまえらもインターミッド、ミッドチルダ地区予選でベスト8に入る実力があるんだ。
　DSAAの連中も残念がってたぞ。才能ある選手が抜けるって」
「そこまでたいそうなものじゃないと思うの」
「ほめられるのは嫌いじゃないけど、私達はまだまだだから」
「才能は磨かなきゃただの原石だからな。まだまだってことは、伸びしろがあるってことだ。
　帰っても、練習を怠るんじゃないぞ。第97管理外世界〜現地じゃ地球っていうのか〜でも、次元犯罪はあるみたいだしな」
「そういばそうだったね。異世界からの侵略者なんて、お話だけだと思ってた」
「存在は次元世界に広く認知されたからな。おかしな奴がいつ現れてもおかしくない」
「それはそうなの。だけど、当分は霰おばちゃん達の仕事だと思うの」
「当分はな、でも、おまえ達が思ってるより早く時間は過ぎるぞ。すぐおまえ達が主役になる時代が来る。
　そうなったとき、準備が出来てないって訳にはいかないからな」
「そうかもしれないの」
「かもしれない、じゃなくて、そうなんだよ。少しは年長者の言うことを信用しろ」
「はい」
「よし、じゃあ今日の練習を始めるぞ。まずはウォームアップからだな」
「はい」

ウォームアップの後は体作りのためのトレーニングに、実戦形式のスパーリングが続くの。

「よし、今日は終わり、明日は試験結果の発表なんだろ。みんな進級できてるといいな」
「やるべき事はやったんだから、後は結果を待つだけだよ」
「だね」
「よし、じゃあ解散」
「はい」

そういうわけで、気持ちよく疲れた後は、気持ちよい睡眠が待ってるの。
そして、気が付いたら朝が来てるの。

「今日が結果発表だね」
「うん、そうなの」
「じょぶじょぶ、落ちても次があるって」
「ヴィヴィオは落ちてるわけないと思うの」
「一発試験はわからないよ」

クラスに入って、先生から試験結果を受け取るの。
合格してれば明日からは春休み、不合格なら追試のためのお勉強が待ってるの。

「どうだった、霧子」
「一応合格なの、泪は」
「霧子と同様」
「じゃ、私も合格してるし、全員合格だね」
「いや、ヴィヴィオは一番合格に近かったと思うし」
「リオは？」
「みんなと同様」
「一応ってみんな謙遜しすぎ、普通に余裕だったでしょ」
「コロナはみんなの先生だし」
「だから先生って柄じゃないし……」
「じょぶじょぶ、私だって陛下って柄じゃないし」
「そこでそれを持ち出す？」
「陛下は生まれだけど、先生は実力だから、柄じゃないってことはないと思うの」
「そうだよね」
「もう、みんなからかうんだから」
「ともかく、これでみんな進級だね」
「そうだね、……霧子と泪とは、そろそろお別れかぁ」
「そうなの。なにかさみしいけど、仕方ないの」
「また会えるよ、って気楽に言えるほど、次元の海は狭くないね」
「それでも、今生の別れじゃないよ」
「それは確かに」
「来世で会おうって言うほどは遠くないよね」
「あはは、深刻に考えすぎ。なのはママだって地球生まれだし、意外とミッドチルダと地球は近いよ」
「そうかも」

ここで、私はカレンダーを見るの。

「3日後にクロノ執務官が私達を迎えにくるはずなの」
「そっか、3日後か……って、3日あるの？」
「一応、追試があったときに備えて予備日がとってあったの」
「そっか、追試の結果が出た後なら、すぐ帰るようになる日程だね」
「そうなの」

そのまた翌日が来るの。
追試がある人はまだサンクト・ヒルデの教室に行くけど、私達は春休みなの。
そんな今日、予定外の訪問者が現れたの。

「無事進級の結果を得られたようだね」
「クロノ執務官、久しぶりなの」
「お久しぶりです。あれ？　帰る日はまだちょっとだけ先だと思ったけど」
「確かにその通りだが、ユーノとフェイトが一足先にミッドチルダに帰ることになったので、挨拶に来た」
「一応、半年ぶりになるのかな。夏休みにはあったよね」
「半年よりは少し過ぎてる。お久しぶり、霧子、泪」
「久しぶりなの、フェイト、ユーノ。あっちでの生活はどうだった？」
「それなりに友達も出来た。別れるのはさみしいけど、留学だから仕方ない」
「刺激をたくさん受けたよ。調査しても調査しても興味が尽きることはないね」
「そういえば、ユーノは考古学者だったよね」
「地球の考古学の手法とかについても、お台場大学の考古学科で学んだよ」
「大学にも通ってたんだ」
「ミッドチルダの大学にも行ったし、一応は」
「小学校は通わなかったの？」
「フェイトと一緒に通ったけど、フェイトも退屈してたみたい」
「算数とかは簡単すぎた」
「こっちはお勉強は大変だったよ。ユーノは学者さんだから当然だけど、フェイトも学者さんだったの？」
「リリスにみっちり数学なんかは講義を受けてたから」
「どのくらい？」
「1日に12時間ぐらいはなんだかんだで講義を受けてた」
「それは大変だったと思うの」
「でも、大切な思い出」
「やっほー、クロノ執務官こんにちは」
「こんにちは、ヴィヴィオ」
「なのはママもクロノ執務官に会いたいって言ってたよ、顔を出してあげて」
「僕も高町教導官には用事があるんだ、後で連絡しておく」
「クロノ執務官が現れたってことは、もう霧子と泪が帰る時なの？」
「いや、僕はそのために来たんじゃない、ユーノとフェイトの付き添いだ」
「そうなんだ」
「ねえねえ、なのはママの家でお別れ会する予定なんだけど、クロノ執務官達も来る？
　来るならなのはママに連絡しておくね」
「いや、僕はパーティは苦手だから……」
「小さなお別れ会だよ、それに、なのはママに用事があるんでしょ、そのとき一緒に済ませちゃえばいいよ」
「これは大事な話なんだ」
「お仕事の話？」
「いや、プライベートな話じゃあるんだが……」
「なら問題なし、なのはママに連絡しておくね、フェイトちゃんとユーノくんも来るんでしょ？」
「私は問題ない、別にミッドチルダで今しなければならない用事は無い」
「招待していただけるなら」
「決まりっ。じゃ、3人人数が増えるってことで」
「強引な所は、さすが高町教導官の娘だな」
「さすがってどういう意味かわからないけど、ともかく決まりだね」
「そうなるな」

そういうわけで、夜が来るの。
ヴィヴィオのママ、なのはさんの家の庭でお別れ会が始まるの。

「高町教導官、久しぶり」
「クロノくん、久しぶりだね。あと、高町教導官って堅苦しいよ。
　プライベートだし、なのはさんで良いよ。なのはでもかまわないけど」
「いや、さすがに年長者を呼び捨てにするのは抵抗がある」
「フェイト＝テスタロッサです」
「ユーノ＝スクライア、考古学者です」
「いらっしゃ、フェイトちゃん、ユーノくん。高町なのは、時空管理局で教導官をやってます」
「さて、早速本題なんだが……」
「クロノくん、堅苦しい話は後回し。まずはパーティを始めましょう」
「いや、しかし……」
「じょぶじょぶ、なのはママもお酒が飲める歳じゃないから、酔っ払う心配はないよ」
「ヴィヴィオのママで未成年って一体……」
「あ、言ってなかったっけ？　ヴィヴィオとなのはママは義理の親子なんだよ。
　だから年齢差は10ぐらいしかないよ」
「ぐらいって、普通に4年生と19歳なら10歳差だよね」
「ん〜ヴィヴィオは生年月日がよくわかんないから、一応今4年生ってことにしてるだけだし」
「ヴィヴィオも波瀾万丈な人生送ってたの？」
「ま、そこらは色々と」
「ヴィヴィオの話はこれぐらいにして、お別れ会なんだから、主役は霧子ちゃんと泪ちゃんだよね」
「主役っていうか、これで最後だから、みんなとたくさんお話したいの」
「そっか、この世界ともお別れなんだね」
「その件なんだが、留学計画は拡張して第97管理外世界と交流することが決まった。
　ミッドチルダと第97管理外世界との定期便も出来る」
「へー、定期便が出来るんだ。……って、定期便？　チャーター便じゃなくて」
「週1往復だが、定期便が出来る。魔法文化レベルは高いとは言えないが、文明は進んだ世界だ。
　交流した方がいいというのが管理局の決定になった」
「でも、乗れる人は限られるんでしょ」
「それはある程度絞られる。しかしながら、君たちは多分有資格者になると思う」
「有資格者って、どういう意味なの？」
「申請すれば渡航許可が出るだろう許可だ。
　ともかく、来年度は留学から技術交流へ格上げになる。
　こちらからはマリエル技術官がお台場大学へ、第97管理外世界からは空木教授が来ることになっている」
「へー、空木教授がこっちに来るんだ」
「アインハルトおじいちゃんじゃないんだね」
「彼にも声を掛けたが、辞退されたよ。もう自分の出る幕じゃないそうだ」
「存在波研究の最先端がお台場大学だもんね」
「空木教授はその中の中心人物なの」
「そうなんだ」
「さて、お別れ会だし、とりあえず霧子ちゃん、泪ちゃん、一言お願いね」
「わかったの。……一年間、色々教えてもらって感謝するの。
　なにが身についたかはわからないけど、きっとこの経験も糧になると思うの」
「一年間ありがとう。また会うことがあったらよろしくね」
「さて、これから……」
「クロノくん、そういうのは後回し。まずは乾杯しよ」
「そうだね、なのはママ」
「……そうするか」
「じゃ、一年間の留学に感謝と、これからの友好を願って」
「乾杯！」

お酒の飲める年齢じゃない集まりなので、当然、ジュースで乾杯なの。

「そういえば、インターミッドでベスト8に入ったんだって、すごいなあ」
「そんなにすごい事なの？　結局は予選落ちなの」
「ミッドチルダは激戦区だからね。予選とはいえベスト8なら破天荒だよ」
「ユーノも格闘技に興味があるの？」
「興味があるというか、一般常識としてね」
「インターミッドか……」
「フェイトも出る？　今からノーヴェのジムで鍛えればいいよ。
　やっぱり、格闘技はいいよ」
「格闘技か……みんな格闘技が好き？」
「好きだよ」
「リオは即答だね」
「ヴィヴィオもコロナも嫌いじゃないでしょ」
「辛いこともあるけど、やってて良かったって思うよ」
「目標達成には必要だし、やってること自体も楽しいからね」
「ヴィヴィオはほんとうに天才なの」
「別にそんな天才っていうほど強くないよ」
「そうじゃなくて、努力が楽しめるのが天才なの。
　普通は練習って辛いって思うけど、それが楽しめるって天才の特権なの」
「練習がそんな辛かったら、みんなやらないと思うんだけど」
「やっぱヴィヴィオは天才でいいや。練習が辛いって思ったことないの？」
「毎日やるのは面倒だと思ったことはあるけど、辛いとは思わないかな」
「ヴィヴィオちゃんにとっては面倒なだけなんだ……」
「あー、なんか宇宙人を見るような目で見てる〜」
「いや、そういう意味じゃないんだけど……」

やっぱり、ヴィヴィオにはかなわない気がするの。
楽しんで努力出来る人は、本物の天才なの。

「さて、場も和んだだろ。そろそろ僕の本題に入っていいかな」
「どうしたの、クロノくん、改まって」
「なのはさんに頼み事がある」
「なにかな？」
「フェイトとは向こうで話し合ったんだが、ミッドチルダでフェイトが暮らして行くには、やはり身元引受人が居た方がいいと思う」
「私の身元引受人はリンディさんだったね」
「リンディさんって？」
「クロノくんのお母さんで、管理局の提督をやってる人だよ」
「いや、まあそういうことなんだが……」
「リンディさんじゃ問題があるの？」
「そうすると、フェイトには本局で暮らしてもらうことになる。
　それよりは、クラナガンで暮らす方がいいのではないかという話になったんだ」
「そうなんだ」
「クラナガンの方がいろんな人がいる。友達も出来やすいだろう」
「そうだね」
「それで、なのはさん、あなたにフェイトの身元引受人になってほしい。
　無理強いはしないし、ヴィヴィオの意見も聞かなければならないとはおもうが……」
「私は別に子供が1人でも2人でもかまわないよ。ヴィヴィオはどう？」
「姉妹が出来るの？　私は歓迎！」
「じゃ、高町家の意見は決まりだけど、フェイトちゃんはそれでいいの？」
「うん、クロノ執務官とはずっと話し合った」
「それなら問題ないね。じゃ、これからよろしく、フェイトちゃん」
「よろしく、高町……」
「なのはさんでいいよ、別になのはでもなのはママでも問題ないけど」
「じゃあ、なのはさん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく、フェイトちゃん」
「じゃ、今日から姉妹だね。フェイトちゃんと私は……フェイトちゃんがお姉さんでいいや」
「なんで？」
「んー、なんとなく？　なんか雰囲気がヴィヴィオより年長さんなんだよ」
「別にそういう気はしないけど……」
「お姉さん扱いはいやなの？」
「嫌な訳じゃないけど、姉妹なんていたことなくて」
「あはは、今から姉妹になればいいんだよ。
　友達と一緒」
「いや、友達と姉妹じゃ別だろうし……」
「気にしない気にしない。じゃ、これからよろしくね、お姉ちゃん」
「……なんだか、照れる」
「クロノくん、大事なお話は終わりかな」
「一応はこれで終わりだ。あとは霧子と泪のお別れ会を楽しんでほしい」
「クロノくんも残るんでしょ。仕事はないってリンディさんから聞いてるよ」
「いつのまに……」
「っていうか、なのはママがリンディおばあちゃんに言って仕事をお休みにしてもらったんだよ」
「相変わらず手回しがいいな」
「先んずれば人を制すだよ。ま、たまには息抜きもいるよ」
「……そうかもしれないな」

こうして、夜は更けていくの。
楽しいパーティの後、身支度をして、日本に帰るの。
だけど、今日はその話はお休みなの。

今日の別れが永遠の別れにはならないってわかったからこそ
今日をしっかりと楽しむの。

この留学で私がなにを学んで、なにを身につけたかはわからないけど
きっと、大切な友達が出来たことに間違いは無いの。


 

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