ここは、お台場にあるファミリーレストランだ。
僕たちはここで、デバイスレイン達が、命がけで戦ったという話を聞くことになった。

「で、なんで霰までここにいるんだ」
「気にしない気にしない。一応だれが誰だか紹介する人はいるでしょ。
　さっきつっこみ入れたバンダナ巻いてるのがせーしろーくん、柊誠志郎くんだよ。
　大食いだけど雑学博士なんだ。で、その隣に座ってるのが名城瞳、せーしろーくんの悪友だよ」
「悪友っていういいかたするんだ、P-7は」
「そういう言い方がぴったりくるんじゃないかな、せーしろーくんとは。
　で、こっちの無口で金髪立ててるのがトーヤ君、雲野十夜」
「よろしくな」
「で、こっちのロングヘアーの金髪で
　青い瞳なのが、オリジナル、こと、カスミ＝アインハルトだよ」
「カスミ＝アインハルトです。初めまして、橘さん、桃井さん」
「で、こっちの赤い瞳の方がP-3、こと霞＝アインハルト、名前で呼ぶとごっちゃになるからP-3って呼んであげてね」
「P-3なの。よろしくおねがいしますね」
「こちらこそ、お忙しいところよろしくお願いします」
「それで、何の話を聞きたいっていうんだったかな」
「私たちは、今、藍仙高校での、11人失踪事件について調べてるんです。
　でも、それについて調べようとすると、いろんな人たちから、危険だっていう警告を受けるんです。
　それで、実際に危険の中で戦ってこられた皆さんの体験談をお聞きしたいと思いまして
　こうして集まっていただいたわけなんです」
「けど、話ったってたいしたこともできないぜ。俺たちの場合、調べようとかいうんじゃなくて、
　いきなり巻き込まれちまったんだからな、だろ、十夜」
「そうだったな。確か、始まりはカスミの家に忍のやつが襲いかかってきたところからだったっけな」
「確かそうだったよね。空木さんからオーギュメントについての話を聞いてた時に、忍くんが襲いかかってきたんだんだよね」
「霧生って、誰なんですか？」
「DICEのエージェントさ。まあ、この件について説明しようとすると、少し長くなるけど、いいか？」
「ええ、かまいませんよ、その話を聞くために、伺わせていただいたんですから」
「……カスミ、頼む、俺たちじゃ整理して説明できそうにない」
「え、あ、私が……わかったわ。
　お父さんからある程度は聞いてると思うけど、そもそもの発端は、イデア理論の研究を軍事利用しようとDICEが考えたことなの。
　それに反発した研究陣は、イデア理論の研究データを破棄して、DICEから脱出したの。これがアインハルト事件よ。
　だけど、それでDICEはイデア理論の軍事研究をあきらめた訳じゃなくて、それを推し進めようとしたの。
　そのために、逃げ出した研究者が持ち出したデータやオーギュメントを回収するとともに、能力者を手に入れようとした。
　そして、そのときわかっていた能力者はただ一人……それが私だったの」
「能力者？」
「それは私が説明するの」
「えと、……P-3さん、でしたよね」
「ええ、私の方がP-3なの。……能力者というのは、生まれつき存在波を感知する能力を持っている人のことなの。
　能力者は、一般には普通の人と見分けがつかないけど、イデア理論上は重要な存在なの。
　それで、DICEは、能力者のカスミを手に入れることで、一気にイデア理論の研究を推し進めようとしていたの。
　そして、その極北として、カスミ自身を使った兵器を作ろうとしていたの」
「カスミさん自身を使った兵器？」
「E.N.Dのことね。カスミを使ったディゾナント……ディゾナントってわかる？」
「ええ、説明はアインハルト先生から聞きました」
「カスミをコアに使ったディゾナントを作って世界を破壊しようとしたのよ」
「DICEがですか？」
「DICEが、じゃなくて、DICEの力を利用しようとした、J.B.ってやつがね」
「J.Bって、誰なんです？」
「誰かはわからない。J.B.はJ.B.だ……そいつは、E.N.Dを破壊した後も生き残っていて、DICEを利用して半年ぐらい後に、また
　カスミをねらって攻撃を仕掛けてきた。そのときも、俺たちはカスミを守ることができなかった……」
「でも、カスミさんは、今、無事にいますよね」
「P-8のおかげでな」
「P-8？」
「アインハルト先生の秘密兵器さ。今はDICEのところにある。……P-3、その説明でいいんだろ？」
「えと、今は簡単な説明だからそれでいいと思うの。詳しい説明をするには時間が足りないし、いっぺんに説明しても
　おなかいっぱいになってしまうと思うの」
「ええと、整理すると、DICEも一枚岩で兵器開発をしていたっていうわけじゃないんですよね」
「そういうことになるな。J.B.、園宗寺さん、御子柴、少なくとも3グループは存在した」
「3グループあったんですか……」
「恵くん、どうしたの？」
「いや、今でもDICEのグループ内で仲間割れがあるんだとすると、アインハルト先生達は大丈夫なのかなって思ったんです」
「それは大丈夫だろ、今は園宗寺さん達がDICEのイデア理論研究は一手専売でやってるはずだ」
「よくこの状況から一手専売になりましたね」
「問題ないんだ、J.B.も御子柴も死んだからな」
「そうなんですか……」
「私たちの方も、犠牲なしとはいかなかったけど、……けど、もう、すべては過ぎたことなの」
「犠牲なしでは済まなかったって？　友達を誰かなくされたんですか？」
「P-5のことだよ」
「霰さん？　P-5って」
「私のお姉さんだよ」
「……悪いこと、言いました？」
「ううん、いいよ。本人も納得した上でのことだし、それも運命だったんだよ」
「……あはは、まあ、それはいいっこなし。ドジ踏んだのは私なんだし」
「名城……」
「……いずれにせよ、命がけの戦いだったことに、代わりはないんですね」
「そういうことになるな、SC空間での戦いでなら、誰か一人でも生き残っていれば
　最後の勝者がディスコネクトされた全員を復帰させることができる。
　だが、相手が常にSC空間での戦いを挑んでくるとは限らない。
　普通に狙撃してくる相手だっている。そうなったときには、オーギュメントは
　一切なんの役にも立たないんだ。
　在来兵器を完全に無効化する夢の新兵器オーギュメントっていったところで、実態はそんなもんさ」
「柊さん、でも、それでは、僕たちが11人失踪事件を追うことが危険だっていうことの理由にはならない気がします。
　いったい、僕たちは、どんな危険に突っ込んで行ってるんでしょう」
「俺にもわからん。ただ、みんなが警告するっていうことは、その裏で何かが動いてるってことは確かだろうな」
「何か情報があったら、私たちに教えてもらえませんか」
「ああ、何か聞いたら教えてあげるよ」
「私も何か聞いたら教えてあげるね」
「霰さん、お願いしますね」
「まっかせて」
「今日は長い時間ありがとうございました」
「いや、こちらこそ」

僕たちは、デバイスレインの戦いについて話を聞いた。
それが、犠牲なしでは済まない何かであったことについても。
だけど、11人失踪事件の手がかりにはならなかった。
わかったのは、もし、僕たちが11人失踪事件の謎を解きたければ
そろそろ、失踪事件そのものと向き合わなければならない、ということだった。

 

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