そのまた翌日、僕たちは、11人失踪事件の手がかりを求めて、此花高校で聞き込みをしていた。
だけど、情報の集まりはまるきり芳しくなかった。みんな、11人もいなくなっているというのに、そのこと自体に
まるで興味を持ってないようだったんだ。いや、興味をもっていないというより、部外者とこの件については
話をしたくない、という風な印象を受けた。

そう、この件については、部外者には理解できないだろうとでも言うかのごとく。

「あーもう、なんであの11人の同級生からしてあからさまにあたしらを警戒するのよ」
「橘さん、そりゃよその高校の新聞部がいきなり失踪事件の調査をしてますなんて言ってきたら
　此花高校の生徒だって警戒するに決まってますって」
「だけど、何かそれだけじゃないような気がするのよね。なんていうか……」
「ふれられたくない傷に無神経にさわってるような、そんな感じです？」
「そう、それ」
「……」
「ワトソン君、現場100回ということがあるわよ。犯行現場を調べましょう」
「犯行現場っていったって、犯行現場がどこにあるかもわからないんですよ」
「いまさら忍さんの後を追って11人の家族の聞き込みをするのも癪にさわるわね」
「癪とか言ってる場合じゃないと思うんですけど……」
「搦め手でいく、って言った手前があるのよ。……そだ、青葉さんのところに行ってみましょ」
「如月さんのところです？　如月さんも何もしらないとおもうんですけど」
「それはそれ、これはこれよ」
「まあ、いいですけど」

僕たちは、再び、藍仙高校の新聞部を訪れることになった。

「たびたびおじゃまします」
「いらっしゃい、橘さん、桃井くん。あれから調査は進んだ？」
「全然、危険だって佐伯先生は言ってたけど、それ以前になんの手がかりもないわ。
　誰が犯人で、どんな組織が動いたかわからないけど、見事なものね。
　これだけ完璧に痕跡を消して、これだけ大人数の人の口を封じるなんて」
「まぁ、あのグループは藍仙高校でも札付きだったからね。いなくなってせいせいしたって思ってる人も少なくないでしょ」
「そうなの？」
「かつ上げされてた子も多かったらしいわよ。表沙汰にならなかっただけでね」
「なんで？」
「リーダーがいいところのぼんだったかららしいわよ」
「因果応報ってことかしらね。失踪事件に巻き込まれたら、こんどは巨大な力で真相を隠されるなんてね」
「そうかもしれないわね」
「かつ上げされてる子も多かったっていうことは、その中の誰かが思いきって復讐ってことはないんですかね」
「そんなことができて、なおかつ死体を隠して、しかも警察まで動かせる組織のバックがあったら
　そもそもかつ上げなんてされてないって思わない？　恵くん」
「そういえばそうですね。つまんないこと言いましたね」
「誰か、私たちの知らないオーギュメント使いがいて、その人が力を試すのに、たまたまあの11人を使ったってことはないかしらね」
「けど、アインハルト先生は、そんな人はいないはずだっていってましたよ」
「アインハルト先生が知ってる限りはってことでしょ、恵くん。知らないオーギュメント使いがいたらどうするの」
「それは……わからないですけどね」

……アインハルト先生も知らないオーギュメント使いか。
そんな人が野放しになっているのだとしたら、確かに危険だ。
佐伯先生や柊さんが警告するのもわかる。

だけど、だ。どうして、そんな野良オーギュメント使いの犯行について
警察や、藍仙高校の生徒達や、被害者の家族に対して圧力を加えて
この件について関わらないようにする必要がある？
オーギュメントについては、まだ僕たちの知らない何かがあることになる。

「アインハルト先生に会えませんかね」
「どうしたの恵くん、急に」
「アインハルト先生に相談する必要があるんですよ」
「アインハルト先生なら、第二科学部の部室にいると思うけど、またどうして急に相談することができたの？」
「ちょっと、気になることがあるんです、行きましょう、橘さん」
「わたしもついていっていい？　新聞だねになるかもしれないし」
「ええ、いいですよ、青葉さん」

というわけで、僕たちは青葉さんと一緒に第二科学部のアインハルト先生のところを訪問した。

「やあ、また君たちか。こんどはなんの用かね」
「単刀直入に聞きます。野良オーギュメント使いって、本当に誰もいないんですか？」
「どうしたんだい、藪から棒に。まずいないだろうとは思うね。ただ、絶対とはいえない。
　アインハルト事件以前からの私の論文は公開されているから、それを使ってイデア理論の研究を
　している研究所はあるだろう。そこでオーギュメントを開発している研究所があってもおかしくはない。
　それに、アインハルト事件以後失踪したままの研究者もいる。そのうちの誰かが、今もオーギュメントを
　持っているということもありえるかもしれないね。　そこまではわからない。
　ただ、空木君の話を聞く限りでは、アインハルト事件で流出したオーギュメントはすべて回収されてるはずだ。
　空木君の管理外で開発されたオーギュメントがあれば話は別だが」
「空木教授ってそんなすごい開発者だったんですか」
「私には過ぎた助手だったよ。……だが、またどうしてそんなことを聞いたのかね」
「いえ、僕たちは11人失踪事件を調べてるんです。それで、11人を痕跡なく消し去るなんてことができるとしたら
　もしかしたら、オーギュメントを使ったんじゃないかと思ってるんです」
「オーギュメントを使ってか。確かにオーギュメントを使えば不可能なことじゃないね。
　ただ、一介の高校生をオーギュメント使いが消し去る理由というのはあまり思いつかない。
　その高校生達が、無謀にもオーギュメント使いに突っかかっていったとすれば、話は別だが」
「……その可能性がありそうな人たちですよ、失踪した11人は」
「そうなのかね。じゃあ可能性はあるんだ、困ったことだね」
「僕たちがオーギュメント使いに遭遇したとして、生き残る可能性ってありますかね」
「相手が殺す気だったら、まず生き残れないだろうね、君たちが生き残るには、君たちもオーギュメント使いである必要がある。
　もちろん、現在のオーギュメントは試作品の域を超えない代物だから在来型兵器でも対抗できるが、第二世代オーギュメントが
　開発されれば、在来型兵器は一切オーギュメント使いに対して効果を持たなくなるよ。
　まあ、野良オーギュメント使いが持っているオーギュメントが、第二世代である可能性は限りなく低いだろうが」
「そうなんですか」
「私としては、もし調査するにしても、専門の誰かに頼んでみることをお勧めするね」
「専門の誰かといっても、柊さんや空木教授は調査の専門家じゃありませんよ」
「新宿外地会という組織がある。そこの壬生洋平という人に相談するといい。
　紹介状を書いてあげよう」
「壬生洋平さんですか」
「外地会の世話役をしている人だ」
「ありがとうございます。早速行ってみます」
「気をつけていきなさい」
「はい、ありがとうございました」

僕たちは、新宿外地会という、耳慣れないところへと向かうことになった。
そこで出会った、壬生洋平という人との会話は、また別の機会に。

 

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