僕らが藍仙高校を後にしようとしたとき、彼女が声を掛けてきた。

「やっほー、せっかく来たんなら新聞部にも寄っていけばよかったのに」
「霰さん？」
「えと、あの……霰さん、どうして？」

霰さんは、こちらへ全力疾走でやってくる。僕らはあっけにとられて立ち止まり、走ってくる
霰さんを待ち受けていた。

「えと……恵くん、どういうことだと思う？」
「どうって……僕にもわからないですよ」
「橘さん、恵くん、せっかく藍仙高校に来たんなら新聞部に寄っていけばいいのに、二人に
　あわせたい人も来てるんだよ」
「僕たちにあわせたい人が来てるって、どういうことなんだろう」
「誰のことなの、霰さん」
「それは会ってからのお楽しみ。どうする？　会ってみる？」
「そりゃもちろん、会ってみるわよね、恵くん」
「ええ、……橘さんがそういうなら」
「決まり。じゃ、新聞部に来てよ。……実のところを言うと、私が呼んだんだよ。
　……11人失踪事件のこととか、オーギュメントのこととか、聞きたいことがあるんでしょ。
　それについて、いろいろ知ってる人だよ」
「研究者か何かなんですか」
「ううん。……DICEのお偉いさんだよ」
「DICEって、ゆりかごからミサイルまでなんでも取り扱う多国籍企業のDICEのこと？」
「そうだよ。核兵器からオーギュメントまでなんでも取り扱ってるよ」
「オーギュメントも取り扱ってるんだ」
「まあ、オーギュメントは、今のところ先生任せになってるかもしれないけどね。
　お台場大学でもすこしはいじってるかな」
「お台場大学って、DICE資本だったっけ」
「DICEが出資してる私立大学だよ。進学予定だったら、P-8に頼んだら、推薦状を書いてくれるかも」
「ま、なんとか自力でがんばります」
「トーヤくん達は、園宗寺さんに推薦状を書いてもらったけどね」
「そうなんですか」
「そうそう、J.B.戦の時の縁だったけ……と、到着〜」

雑談をしてるうちに、僕たちは新聞部の部室へと到着していた。

こんこん。

「P-8,いる？　今はいって大丈夫」
「ああ、大丈夫だ」
「おじゃまします」
「失礼します」
「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。私たちの兄弟だから」
「お兄さんなんですか？」
「んー、どっちかっていうと妹かも。ま、細かいことは気にしない」
「まあ、とりあえず掛けてくれ」
「は、はあ……」

僕たちが出会ったP-8と言う人は、男の人というには少し小柄な
ロングヘアと長いコートが印象的な人物だった。
さすがにDICEのお偉いさんらしい威厳は感じる。

「君たちが、P-７のことを調べてるという高校生か」
「霰さんのことを調べている、というより、藍仙高校で11人の高校生が失踪した事件のことについて
　調べているんです。それで、手がかりを調べていたら、SC空間とオーギュメントのことが
　ひっかかったんです」
「そうか。……だが、その11人は、善人だったのかな」
「そうとはいえなかったみたいですけど……けど、殺されていい人なんていないはずです」
「そうか……たしかに、殺されていい人はいない。だが、現実に世界では毎日人が死んでいる」
「それはその通りですけど、だからって、その11人を見殺しにしていい理由にはならないじゃないですか」
「見殺しにしろ、とは言ってない。だが、彼らは、一線を超えてしまったのか、超えてはいなかったのか。
　それは大事な問題だ」
「どういうことなんです？」
「この世界は、二つの世界に分けられるのだ。……一つは、法の支配する世界、もう一つは、法の掟の外にある世界。
　普通の人は法の支配する世界に住んでいて、法によって守られている。だが、その法を守るためには、法の掟の外にある世界……
　実力の世界での力が必要とされる」
「どういうことなんです？」
「君たちが言っているのは、法の支配する世界の話だ。だが、彼らが法の支配する世界の掟に従っていたのなら
　それは法によって守られて当然だろう。だが、一歩法の支配する世界の外に出てしまったのなら、そこでは別のルールが支配する。
　そのルールに従って彼らがさばかれたのなら、それを責めるわけにもいかない」
「……フロンティアの正義が行われたんだとでもいうんんですか」
「法は法だ、あくまでも守られる必要がある。だが、法の外に出てしまえば、法によって守られる権利を自ら放棄したも同然なのだ」
「犯罪者だって法によって守られる権利はあるでしょう。殺人犯だってその場で処刑していいことにはならないですよ」
「それはその通りだ。だが……いや、遠回りな話はやめよう。君たちはP-7が、11人失踪事件の犯人だと思ってるんだね」
「……状況証拠から、ほかに犯人はいないと思ってます」
「能力だけを言えば、私にもそれはできることだが、私は犯人ではないと思うのかな」
「動機がありませんから」
「そうか……それで、P-7が犯人だとしたら、それから君たちはどうするつもりなのかね」
「どうって……あとは警察の仕事ですよ。僕らは探偵ですらない、高校生なんですから」
「だそうだが、P-７，どう思う？」
「どう思うって言われたって、私は知らないって答えるしかないよ。P-8もそれは知ってるでしょ」
「そうか……。たしかに、やっかいごとを増やすわけにはいかんな。……警察には、私から手を打っておこう」
「警察に圧力を加えるんですか？」
「丁重にお願いするだけだよ。捜査を止めてくれなどといえるわけはないからね。だが、いずれにせよ裁判を維持できる
　証拠はみつかるわけもない」
「なぜ、断言できるんです」
「そんなものが見つかるようなら、とっくに犯人は逮捕されているはずだ。日本の警察はそこまで無能ではないだろう」
「そうですか……」
「では、私はそろそろ帰らせてもらうよ」
「うん、忙しいところありがとね、P-8。園宗寺さんや、忍くんにもよろしく伝えてね」
「わかった、伝えておこう」
「ありがとうございました、P-8さん」
「どういたしまして、橘さん」
「きょうはいろいろとありがとうございました」
「いや、こちらこそ。桃井くん」

そういうと、P-8さんは、新聞部を後にした。

「さて、と、藍仙高校にはほかに用事がある？」
「ほかの用事は特にないけど、霰さんは何か用事があるの？」
「今日もゲーセンによってから帰るだけだよ」
「そうなんだ、ちょっと、私たちも一緒にいっていいかしら」
「いいけど、何かゲーセンにあるの？」
「普段、どんなゲームをやってるのか見てもいいかな、って」
「格ゲーをやってるだけだから、見ても大しておもしろくないかもね」
「ワンコインゲーマーだっていうのは聞きましたよ」
「あはは、お小遣いがそれだけしかないからワンコインしかプレイできないんだよね。
　先生ももっとお小遣いくれればいいのに、って、ぼやいても仕方ないか。
　じゃ、みんなと一緒にレッツゴー」

僕たちは、P-7と一緒にゲーセンへとでかけることになった。
その道すがら、僕らはとんでもない事件にまきこまれることになる。

ベンツがすっと僕らの横に近づいた。

「危ないっ！橘さん、恵くんっ！」

P-７が叫ぶ。

「え？」

橘さんが怪訝そうな顔でP-7の方を向く。
僕は、なんとなくベンツの方を見た。

その瞬間、ベンツのドア……左ハンドルだ……の運転席から
切り詰めたショットガンの銃身がのぞいた。
まるで映画のワンシーン、非現実的すぎる。

逃げなきゃやられる、と思うが、体はスローモーションのようにも動かない。

次の瞬間。銃声が響くと、銃を構えていた男の方が血まみれになって倒れていた。

「あはは、暴発だね。人を呪ったけど、穴は一つだったってわけだ、人を巻き添えにしようとしたから
　バチが当たったんだよ」
「P-7さん、いまのって……」
「ん？　今の、気にしない気にしない。警察が来る前に逃げよ」
「そうは行かないって、すぐに警察を呼ばなきゃ」

僕は、急いで携帯で警察を呼んだ。
どうやら、事件はとんでもない方向へと進み始めたようだ。

 

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