「探偵ごっこもいい加減にしてほしいわね」
「探偵ごっこと、今度の事件とはなんの関係もないわよ」

ここは、警察の取調室。

僕らは、今、風間刑事から、さっきの発砲未遂事件の事情聴取を受けてる最中だ。
この部屋の中には、風間刑事と、P-7、橘さん、そして僕＝恵の4人がいる。

「それで、何が起きたか一から説明してちょうだい」
「一からっていわれても、急に霰さんが、危ないって叫んだんです、それで、霰さんの方を向いたら
　銃声がして、銃声がした方を見たら、血を流して運転席で倒れてる男の人がいたんで、警察に連絡を入れたんです」
「橘さんの見たものはそれなのね。桃井くんは何を見たの？」
「橘さんと大してかわらないものですよ。霰さんが危ない、って叫ぶから、何事かと思って霰さんの方を見たらベンツがいたんです。
　その、ベンツの運転席の窓からショットガンが現れて、逃げようと思ったのに逃げられなくって、銃声がしたら銃を構えてた
　男の人が倒れたんです。霰さんは逃げようって言ったんですけど、橘さんは警察を呼ぼうといって、それで警察の人に来てもらって
　その場で事情を聞かれて、その後警察署でもう一度詳しく事情を聞きたいっていわれたからついてきたら、風間刑事が
　待ってた、っていうわけです」
「……それで、霰さんは、何を見たのかしら」
「ノーコメントだよ☆っていいたいけど、一応説明責任はあるよね。後ろから、ゆっくり近づいてくるベンツがいたから、こりゃなにかあるな
　と思って、危ないって叫んだんだよ。そしたら案の定ショットガンを持ち出してきたから、ちょちょっとまあ……企業秘密なことがあって
　ショットガンが暴発してこっちをうとうとした人の方が倒れたんだよ。私は面倒だから逃げたかったんだけど、橘さんの方が警察を
　呼ぼうって言うから、仕方なくついて来ちゃった」
「何でまた逃げようと思ったの？」
「ノーコメントだけど、まあ、その……企業秘密があるからだよ」
「企業秘密ってなにかしら、教えてもらえない？」
「企業秘密は企業秘密だからノーコメントだよ」
「つまり、何かやったわけね」
「ノーコメントの意味はノーコメントだよ」
「……霰さん、あなたをこう留しなければならないかもしれないわね」
「だから逃げようっていったんだよ、橘さん」
「ノーコメントって、なにかやったの？」
「んー、相手に殺意があった場合は、正当防衛の一種かなあ……ショットガンを暴発させただけなんだけどね」
「そんなことができるの？」
「初歩的なことだよ。……私にとってはね。暴発する、っていうイデア情報をショットガンに打ち込んでやっただけだから」
「そんなことができるんだ」
「普通だったら、そんなつまらないことやらないんだけど、今回は橘さんや恵くんを巻き添えにしようとしてたから
　確実にみんなを守れる方法を選んだんだよ」
「そんなことができるなら、不発にすることもできたんじゃないかしら。過剰防衛になるわね」
「それは私たちが無事だからいえることだよ。……こっちが死んでからじゃ、遅いんだよ」
「それで、不発にすることはできるの？　できないの？」
「ノーコメントだよ」
「できるのね？」
「企業秘密だよ。それをこちらの不利に解釈してもらったら困るよ☆」
「……信じられないわね。なぜ、あなたにそんなことができるのかしら」
「それは、私が完成されたディゾナントで、戦闘機械のP-7だからだよ☆これも企業秘密だけど、刑事さんには特別に教えて上げる。
　だけどこれはここにいる4人の秘密だからね。ミンナニハナイショダヨ」
「4人だけの秘密、というわけにはいかないわ。ここでの会話はすべて調書にとって記録するのよ」
「そこはオフレコでお願いっ」
「そういうわけにはいかないわ」
「だめ？」
「だめ」
「んー、じゃ、まあ、いっか。この事件自体が迷宮入りで」
「それはあなたが決めることじゃないわ」
「そうだね。けど、迷宮入りもなにも、事件自体はそれで話が終わってると思うんだけどなあ」
「まだ始まってさえいないわ。だけど、あなたたちから聞くべきことは終わっているかもしれないわね」
「ところで、犯人はどんな人だったんです？　どうして、僕たちが狙われなければならなかったんです？」
「理由はわからないわ。だけど、11人失踪事件の被害者の家族の一人、ということだけ教えて上げます。
　それがわかったなら、もうこの事件には首を突っ込まないことね」
「それで、あの人は、無事なんですか」
「病院に搬送されたけど、死亡が確認されたわ」
「そうですか……」
「霰ちゃんがそういうミスを犯すことはないよ」
「殺意があったの？」
「相手と同程度にね」
「相手の殺意がわかるの？」
「ま、それがわかったから危ないって言ったわけだし。
　殺意むきだしでやってくるんだもの」
「やっぱり、あなたをこう留しなければならないみたいね」
「刑事さんの一存でこう留できるの？」
「裁判所の許可は必要よ、だけど、……」
「なら、やめておいた方がいいと思うよ」
「どういう意味？」
「言葉通りの意味だよ☆」
「……どうして僕たちがねらわれたんだろう」
「ねらわれたのは私一人だよ☆恵くんと橘さんは巻き添えで死んでもOKって感じかな。
　一種の無差別殺人だよね」
「どういうことかしら」
「……私には、わかってるんだよ。……誰かが、あの人に、私が11人失踪事件の犯人だって教えたこと。
　誰が教えたかも、、、知ってはいないけど、見当は、つくんだ。
　それで、あの人は、復讐のために、私を殺そうとしたんだね。巻き添えが出ることも気にせずに。
　それで自分が死ぬことになったんだ。自業自得だよ。巻き添えなしにやることを選んでたら
　こっちもそれなりの方法を選んで上げられたんだけど」
「誰かがって、恵くん、もしかして……」
「……一人しか、いないよ、そんな人って」
「誰のことかしら」
「ノーコメントでお願いします、僕らの友達を傷つけたくないんです」

忍だ、間違いない。
忍が首謀者の両親に報告したんだ。
それで、その父親がP-7さんに復讐しようとして、返り討ちにあった……。
……だけど、本当にP-7さんが犯人だとしたら、僕らが殺されることは
P-7さんにとって利益になったはずだ、どうして僕らを守ったんだろう。
自分だけ助かることはP-7さんにとって難しいことではなかったはずなのに。

「それでわかったわ、桜田さんね」
「ノーコメントです」
「日本の警察を甘く見ないでちょうだい。あの11人の家族の家族が何をしてるかについても
　調査はしていたのよ。桜田さんと、あの家族がつきあいがあったことも調べてはあったの。
　さすがに、いつどういう形で接触があったかまでは調べてはいなかったけど、あなたたちの
　友達と聞いて、ピンとこないほど鈍くはないのよ」
「そうですか」
「はあ……11人失踪事件がこんな重大事件を引き起こすとはね。
　霰さん、あなたについては、もっと調べなければならないことがありそうね」
「調べるべきことは特にないよ☆私については裏も表もないからね」
「11人失踪事件の犯人も、もしかして、本当にあなたが犯人じゃないのかしら」
「ノーコメントだよ☆証拠なしに犯人扱いしてほしくないな」
「証拠は今に見つけて見せるわ」
「……見つかるといいね」
「日本の警察を甘く見ないでね」
「今日の事件についてはかえっていい？　仮にも私たちは被害者なんだけど」
「風間刑事、話すべきことはもう話し終えたと思うんです」
「私たちは、11人失踪事件の真相を明らかにすることは、あきらめてませんからね」
「橘さん、いまここでそんなことを言わなくても……」
「そうね、あなたたちから、今ここでこれ以上話を聞くべきことはないわ」
「じゃ、帰ろ。今日はお手間を取らせました」
「霰さんには、後日また聞くべきことがあると思うわ、そのときには出頭してもらうことになるかもね」
「そうならないように気をつけます☆」
「では、風間刑事、お気をつけて」
「どういう意味かしら」
「……風間刑事は、P-8って方をご存じです？」
「P-8？　知らないわ」
「その人から聞いた話なんですけど、この世界には法の支配する世界と、その向こう側の力の支配する世界があるって。
　もしかしたら、11人失踪事件の犯人は、その向こう側の世界の住人かもしれない、そう思うんです。
　ちょうど、どっかの国の拉致被害者の犯人のように」
「……もし、犯人が日本に住んでいるのなら、日本の国の法律に従って裁けるはずよ。日本の警察の力で」
「そうですね。日本の警察の力が及ぶ相手なら」
「何が言いたいのかしら、桃井くんは」
「いえ、、、デバイスレイン達の戦いでは、警察も無力だったみたいですから」
「デバイスレイン達？」
「昔、そんな戦いがあったんです。僕らも、風間刑事もしらないところで戦われた、世界の運命をかけた戦いですよ」

そう、世界の運命をかけた、J.B.との戦いは、たしかに法の向こう側の、実力の世界の戦いだった。
そんな戦いの世界に対応すべく生み出された存在がP-7だとしたら、P-7もまた、そんな世界の住人なのだろうか。
だけど、彼女がこの世界、法の支配する世界に住むつもりなら、法を守る必要があるはずだ。
11人失踪事件の真相は明らかにしなければならない。P-7、彼女自身のためにも、きっと。

 

---