いち、にぃ、さん、しぃ、ごぉ・・・・・

 

「きっつー、なんでSC空間で戦うのに腕立て伏せなんか必要なんだよ」

「柊って元気あるね、まだ不平を鳴らす余裕があるなんて」

「そういうおまえは元気いっぱいだな」

「能力で筋力アップしてるし」

「名城、それずるくないか」

「ずるくない。いつでも全力使うのが当然でしょ」

「…おまえ達。飛行姿勢を維持するためだけにでも

　体を鍛えなければならない。長時間の飛行にせよ

　短時間の瞬発力を必要とする戦いでも、必要なのは

　まず体力だ」

「へいへい、って、すげーなおっさん」

「お父さん、そろそろ限界…」

「由佳里、あと一回だけと思ってやるんだ。限界だと思ってるうちは

　本当の限界には達していない。

　まだ出来るような気持ちでも腕が動かない、それが本当の限界だ」

「う、うん…私、がんばる」

 

ここは、十夜達が借りているイギリス軍の航空基地である。

ヨーロッパ大陸を覆ったSC空間の中から現れる巨大なディゾナント、

その大きさは通常空間で１００ｍを優に超える、超弩級の大きさの

ディゾナント、それを迎撃出来る唯一の存在として、現在では

イギリス政府が彼ら〜デバイスレイン達〜に、この飛行基地を貸し出してるのだ。

 

そこでの日常は、まるで新兵をしごくかのごとき訓練だ。

朝起きたら、今さっき見てもらったとおりの体力作りの訓練。

それが午前中丸々続く。食欲が湧かないまま、無理矢理胃に流し込む

昼食の後、飛行ユニットを装着しての飛行訓練、これが日が落ちるまで。

夏のイギリスなのでまた日が落ちるまでが長い長い。それが終わると

再び胃が受け付けない夕食。夜は、巨大ディゾナントとの戦い方や

空戦の基礎について、イギリス空軍で実戦をくぐった経験のある

パイロットや、P-8からの講義。それが終わると自由時間だが

綿のようにくたびれきって眠るしかない。

そんな日が２週間以上続いているのだ。

P-8自身は、時々迎撃でいなくなるが、そうなると

壬生パパこと、壬生洋平が訓練を引き継ぐ。

飛行訓練も、イギリス空軍のパイロットが軽飛行機を使って

しごく。デバイスレイン達が休めるわけではないのだ。

 

「…カスミ、まだいけるか？」

「うん、私は大丈夫だよ、十夜くん。十夜くんこそ、つかれてない？」

「…いや、俺は大丈夫だ…体育教師だからな」

「マナぁ〜模擬空戦をやるんだって、今日は教官機への共同攻撃の練習だって」

「…何人で攻撃かしら…」

「みんな普通には飛べるようになったから、模擬銃を使って空戦の練習だよ」

「模擬銃ね…で、相手は？」

「B-52だって」

「…成層圏の要塞かよ、生身の人間が攻撃できる相手じゃないだろ」

「最強のNEETじゃなかったのか」

「誰がニートだ、俺はちゃんとは働いてるぜ十夜」

「ところで、誰が空戦リーダーなんですか」

「んーと、やっぱ壬生パパ？」

「…いや、俺はリーダーって柄じゃない」

「先輩がいれば先輩にやって欲しいところなんですけど」

「…立香、いない人を上げても無理だよ」

「そうですね、シルフィさん」

「…じゃあ、最年長者の権限で俺が選んでいいか？」

「なんだ、結局リーダー風ふかせるんじゃねーか」

「だからそういう言い方するものじゃないってば柊」

「悪かったよ名城」

「…で、誰を指名するんだ」

「…おまえだ、雲野。たぶん、おまえがリーダーに一番向いてる」

「だってさ、リーダー、頼んだぜ」

「頼むって、俺もリーダーって柄じゃねぇ」

「けど、トーヤくんは先生なんでしょ。他の人よりは

　他人をまとめるのになれてるはずだよ」

「P-3、それを言うのか」

 

蛇足ながら、P-3は十夜が使っているオーギュメントの名前である。

かつての完成されたディゾナント、カスミのコピーだったが

過去の戦いで破損し、今は世界唯一の第三世代オーギュメントとなっている。

 

「…とりあえず、作戦を考えるか」

「作戦考える時間は５分だけだってさ」

「５分しかないのかよ…まあいい、今まで教わった基礎通りにやる。

　相手より高度をとって、直上からエンジンのある場所を狙うぞ」

「誰がどう組むの？」

「マナとシルフィ、壬生さんと由佳里ちゃん、瞳と誠志郎は鉄板だろうな。

　俺とカスミはいいとして、…立香はどうしよう…そうだな。

　カスミと立香で組んでくれ。俺は全体の把握に努めさせてもらう」

「また楽なところを選んだな。けど、時間ないしそれでいいぜ」

「よーし、決まったら初陣初陣☆」

「…シルフィ…これは…訓練です…」

「マナっ。訓練でも、やっと実力を発揮するチャンスが来たんだよ☆

　ごーごーれっつごー♪」

「お父さん、…練習なら、大丈夫かな」

「由佳里、訓練でも命を落とすことはある、油断するな」

「だってさ柊、調子乗ったら命がいくつあっても足りないわよ」

「それは俺の台詞だろ名城」

「よろしくお願いします。カスミ先輩」

「こちらこそよろしく、立香」

「おまえ達、準備はいいか？飛行ユニット装着、練習用レーザーライフルを持ったか？

　もうそろそろ練習用のB-52が来るぞ」

「準備は出来てる、これから飛ぶ」

 

ブリーフィングルームから、飛行ユニットを装着、ホバリングしながら

デバイスレイン達が滑走路へと出てくる。

 

「トーヤくん、目標は捕捉、西方より接近、到着まであと１５分」

「なんだ、気が早かったんだな…けど、迎撃高度まで上昇するには

　それぐらい時間が掛かるか。…よし、全員上昇開始っ！」

「了解」

 

デバイスレイン達は飛行ユニットを使って成層圏まで急速に高度を上げていく。

 

「トーヤくん、標的と同じ高度まで上昇したよ」

「もう１０００上がろう」

「トーヤくん、フィート？メートル？」

「１０００ｍ」

「それって上がりすぎかも」

「ん、高度を上げながら接近すればちょうど良くなるだろう」

「うん、トーヤくんがそういうなら」

 

十夜を戦闘にV型編隊を組んで高度を上げていく。

 

「P-3、標的は捕捉できてる？」

「うん、存在波をきっちり抑えてる。…けど、向こうもこっちを確認してるよ」

「それでも、一機が相手だろ、たいしたことない」

「…十夜くん、護衛戦闘機確認、F-１５が２機」

「げ、話と違うじゃないか」

「どうする？敵機急速接近中」

「…誠志郎、瞳、デカ物は任せた」

「了解。戦闘機はおまえ達でなんとかやりくりしろよな」

「O.K.訓練の成果、見せてくるよ」

 

名城瞳と柊誠志郎の二人だけを、予定の高度まで上げての誘導を開始する。

 

「それで、我々はどうするんだ？」

「壬生さんと由佳里ちゃんは予備として援護を頼む。

　俺とカスミと立香とで、ウィングリーダーを狙う。

　もう一機は、マナ、シルフィ、任せる」

「了解〜２人だけでかたをつけてくるよ」

「よし、俺達も行こう」

 

飛行ユニット、生身の人間が装着して飛行する道具だが

量産型オーギュメントの技術を応用し、装着者を保護するようになっている。

体の周りにバリアを発生させ、空気との摩擦熱を遮断すると同時に

高々度の薄い空気でも普通に呼吸できるよう適度に空気を取り入れる。

さらに、存在波を使っての相互通信、存在波確認型のレーダー、

さらには通常攻撃からの防御、空戦機動による加速度からの保護など、

人間が空を飛ぶために必要なすべての機能〜最新鋭戦闘機が備えてる以上の〜を

提供しているのだ。

 

これでも、ヨーロッパを飲み込んだSC空間から現れるディゾナント

〜ストライク・ディゾナントと名付けられた〜と戦うには

十分だとは思われていない。改良が必要だと先生は考えていた。

 

「ネガティブなことばかり考えても仕方ない。とりあえずF-15相手にGO!GO!」

「…シルフィ…相手は旧式とはいえ…優秀な戦闘機です…」

「旧式には変わりないって。それに、私たちだって、最終兵器として

　作られたの忘れてない?この程度の相手に手こずっちゃ

　最終兵器の名が泣きますって」

「…それもそうね…」

 

最終兵器ルシフェルの部品…というつっこみはしなかった。

つっこみを入れている場合ではなかった。

向こうも本気で攻撃を仕掛けてくるのがわかったから。

 

「けど、大きい分だけ機動は鈍いっ」

 

真っ正面から超音速で、マナとシルフィの二人は接近する。

これにはF-15のパイロットも驚いたようだ。

しかし、さすがはプロの軍人、すぐに気を取り直すと

ミサイル発射の信号を送るってくる。

 

「飛行ユニットにミサイル発射のデータ受信。けど、こんなもので

　飛行ユニットが迎撃出来ますかって。

　マナ、付いてきて」

「…いいわ…けど…撃ち落としてしまいましょう…」

 

そういうと、マナは空中に急停止すると、レーザーライフルで

データ上のミサイルを狙撃する。

 

「…一つ、二つ…撃破完了…すぐに追うわ…」

 

「その必要なしっ。…ファイア…ファイア…ファイア！」

「何だ今の光は？」

「練習用レーザーライフルの射撃だよ。コクピットに３発命中、これで

　完全に撃墜だよね☆」

「まさか、あの距離、あの相対速度でコクピットを狙い撃ったというのか？」

「存在波で結びあわされた物同士を光でポインティングしただけだよ。

　そんなに驚かれちゃこまるなぁ」

「…に、人間か?」

「人間じゃないも〜ん（あは）」

「リーダー、こちら撃墜認定。敵を討ってください」

「それは無理だな。…こっちも撃墜認定を喰らったよ。

　あいつら本当に人間か?」

「…人を化け物みたいにいうな。こちらも死にものぐるいの訓練を

　くぐり抜けてきたんだ。１対４，さらに予備が２人。これでまけたら

　今までの苦労がなんだということになる」

「…こっちは何年も苦労してるんだ。それを一ヶ月そこらで

　超えられてたまるか」

「相手が悪かったな。こいつらだって、戦いだけなら１０年前から

　命がけの実戦をくぐってる」

「けど、まだ成層圏の要塞が残ってるぜ」

「残ってた、だと思うぜ」

「…防御火網が全く通用しない？早すぎる、マッハ２を超えてぴったりくっついてくるだと？」

「俺達を誰だと思ってやがる、１０年前の世界最強高校生なんだぜ」

「柊、調子に乗りすぎ。飛行ユニットが強力なだけでしょ」

「まあ、そういうなって、左側のエンジン部分を直上直下の連続攻撃で破壊、

　これで撃墜認定だろ？正直、P-8相手に飛行練習してるほうが難しかったぜ」

「あっちはちっちゃいもんね。それにUFOみたいに物理的にあり得ないような

　動きをしてくるし」

「簡単すぎて練習にもならなかったな、こんどはもっと歯ごたえのある奴頼むぜ」

「柊、だから調子に乗りすぎ…相手は、そのP-8が全力で戦ってやっと

　倒せるぐらいに強大なんだからね」

「…わかってるって、この程度の相手に苦戦してちゃいけないよな」

「だから相手を侮るなっていうの」

 

そう、今日の訓練は、小手調べにすぎない。

本番である、ストライク・ディゾナント相手の戦いは、まだ

十夜達の誰も経験していないのだから。

 

そして、彼らは、F-15やB-52が束になってもまるで

歯が立たないだけの力を持っているのである。

 

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