「済まない、急遽集まってもらって」

「それで、なにがはじまんだ？俺達まで集める必要あんのかよ」

「柊、それは言い過ぎ」

「悪かったな」

「…あれが完成したのですね…」

「マナ、あれってなに？」

「…シルフィ、わかっているのでしょう？…」

「ん、まあ、なんとなく。あれが完成したんだね」

「完成と言っていいかどうかは微妙だと思います。シルフィさん」

「カスミ、何かまだ不具合があるのか?」

「ん、不具合があるかどうかまだ調べてないということ、十夜君」

「先輩から離れるのは不安ですけど、先輩は大事な仕事があるんですよね」

「お父さん、私、飛べるかな」

「自分を信じれば飛べるさ、由佳里」

「うーん、どうなんだろう？」

「そろそろいいか、みんな」

「ああ、いいぜ」

 

ここは、イギリス南東部にある、イギリス軍基地…を、DICEが引き取った場所。

今はP-8の活動拠点として機能している。

そこに集められたのは、デバイスレイン〜オーギュメント使い達。

能力者であるカスミに由佳里、完成されたディゾナントマナにシルフィ。

P-5と融合した名城瞳に古参のオーギュメント使い柊誠志郎。

そして、ただ1人の第三世代オーギュメント使い、雲野十夜。

 

「…P-3を忘れないでくれ」

「十夜君、誰に向かって話してるの」

「…そろそろ、本題に入っていいかな」

「ああ、すまない、話の腰を折ってしまった」

「…ここに集まってもらったのは他でもない。

　やっと、空を飛べるデバイスのプロトタイプが完成したのだ」

「やっと完成か。けど、P-8やP-7でも楽に勝てる相手じゃないんだろ。

　俺達が空を飛んで、何か役に立つのかな」

「役に立ってもらわなければ困る。

　いま、DICEも各国政府も、国内の能力者捜しに躍起になっている。

　彼らを戦力化するためにも、まず、わかっている能力者、あるいは

　デバイスレインであるおまえ達に、先駆者になってもらわなければならない」

「まあ、それはわかるんだけど、一体どんな方法で飛ぶっていうんだ？」

「それは、この試作機を見てもらえばわかるわ」

「理子ちゃんじゃないか。先生と一緒にお台場大学にいたんじゃないのか？」

「先生から、飛行ユニットのテストと調整をまかされてるの。

　先生はお台場大学で、さらなる改良型の開発をやっている最中よ」

「…それで、飛行ユニットはどこにあるんだ？」

「これよ」

 

そういって、空木理子〜彼女も古参のオーギュメント使いだ〜が

示した物は、太めのロングブーツとしか見えない物だった。

 

「これが飛行ユニットよ、足に履いてもらえば即座に起動するわ。

　動力源としてK-unitを搭載、オーギュメントと同様に登録された

　使用者の意志によって動作するわ」

「こんな物で空を飛べるのかよ…なんかしんじられねぇな」

「ちゃんと、私でも飛べることを確認したわ。

　オーギュメントが使えるなら、少なくとも浮くことは出来るわよ」

「浮くことは、っていうことは、飛行出来るかどうかはまた別なんだな」

「そうね、十夜君。これはまだ開発原型で、飛行に関するアシスト能力はあまりないの。

　私は、浮くのが精一杯で、空を飛び回ることは出来なかったわ」

「デバイスレインにのみ装備してもらう理由の一つはそれだ。

　万が一墜落した場合、自分のみが守れるのは、今、オーギュメントを使って

　自分のみが守れる、おまえ達だけだからな」

「ですけれど、これを使えば、先輩と同じ空が飛べるようになるんですよね」

「そうだな、立香。もし、これを使いこなすことが出来れば、だ」

「使いこなします。絶対に先輩と同じ空を飛びます」

「ねえ、マナ、面白そうじゃないこれ。すぐに使ってみようよ」

「…慎重になるべきです…ちゃんと使い方をおそわってからにしましょう…」

「とりあえず、浮くところまでは私がアシストするわ、装備してみて」

「誰が最初に装備する？」

「そりゃやっぱり…」

「雲野だよね」

「なんで俺なんだ？」

「俺達を巻き込んだ張本人、だろ」

「あーずるーい、私が最初〜」

「あわてなくても、飛行ユニットは全員分、よういしてあるわよ」

 

こうして、とりあえず全員が飛行ユニットを履いてみる。

 

「サイズはぴったりなんだな」

「みんなの靴のサイズにあわせてあるし、飛行中脱げないように

　一旦履いたら自動でロックするようになってるわ」

「そりゃまた親切な機能だ事で」

「それで、どうやったら飛べる？」

「イメージして、空中に浮いている自分を」

「イメージ？」

「そう、自分の体が軽くなって、宙に浮かんでいるところをイメージするの。

　そうすれば、飛行ユニットがそのイメージを拾い上げて、浮かび上がることが出来る」

「なんか反重力発生装置みたいだな」

「P-7やP-8が飛んでいるのと同じ原理よ。重力に打ち勝つだけのエネルギーを与えてやれば

　どんな物でも空中に浮かばせることが出来るわ」

「…やった、浮いたよマナ」

「…私も…これでよいようですね…」

「あれ？うかねえぞ。なんでだ」

「食べ過ぎじゃない柊は。わたしはちゃんと浮いてるわよ」

「…完成されたディゾナントだけかよ、浮けるのは」

「うーん、K-unitが装備されてるなら、能力者でないと浮けないって

　ことはないはずなんだよ、誠志郎君」

「へーへー、才能のある人はなんでもできるこって」

「…こうか？」

「十夜君も出来たんだ」

「も、ということは、カスミも浮いたんだな」

「ええ、そうだよ、十夜君」

「お父さん、なんか飛ぶのがイメージできない」

「…意外だな。由佳里はすぐに順応できると思ったが」

「うわぁ、立香お姉ちゃんだって浮いてるのに〜」

「由佳里は無理か?」

「おかしいわね、浮くだけなら誰でも出来るはずだけど…」

「重力にとらわれてるのかなぁ…みんな浮いてるのに…飛べ…飛べ…あっ！」

「由佳里っ！」

 

飛行ユニットを装着した由佳里ちゃんは、突然高速で空に飛び出した。

 

「うわあああああ、一体何が〜」

「由佳里、落ちついて」

「すぐに私が追いかける」

「お願い、P-8」

 

P-8が、ロケットのように急上昇していく由佳里ちゃんを、量子跳躍で先回りする。

 

「力を入れすぎだ。もっと力を抜いて」

「え、ええ、た、高いところ怖い…」

「力が強すぎる。私が抱きとめるから、力を抜け」

「力を抜くって…あ、ああ、…」

 

震える由佳里を抱きしめるP-8。すでに空気はずいぶんと薄くなっている。

 

「初めての飛行で成層圏近くまで急上昇か。…さすがというか…」

「うわぁ、何もかもが小さく見える。私、こんな所まで上がってきたの？」

「ああ、ここまで上がってきたんだ」

「…私、怖い」

「高いところがか？」

「ううん。自分の力。…P-7お姉ちゃんみたいに、自分の力がうまく制御できてない。

　そんな気がする。私の力って、本当にみんなの役にたつのかな」

「立つとも。…この世界を、一度は救った力だ」

「本当に?…あのとき、本当に大変だったのはP-3お姉ちゃんだよ」

「…そのとき、一緒だったのだろう？そのときには、暴走させることもなかったのだろう？

　それなら、自分の力を自分のものにすることも、出来るはずだ」

「できるかなぁ」

「かなあ、じゃない、必ず出来る…さて、そろそろ降りるぞ」

「う、うん」

 

ゆっくりとP-8は高度を下げていく。

だんだん空気が濃くなっているのが、一呼吸ごとにわかる。

 

「由佳里、無事だったか」

「う、うん、びっくりしたけど、P-8お姉ちゃんのおかげで、大丈夫」

「他のみなは？」

「他のみんなは、とりあえず浮けるようにはなったみたい。

　とりあえず動作はしてるみたいね」

「そうか…では、今日から、だんだんに飛行訓練をやってもらうことにする。

　まずは浮いた状態のまま基地内を一周だ。

　時間が限られているから、もたもたしてもらってはこまる。ついてこい」

「ついてこいったって、どうやってついて行けばいいかもわからないぜ」

「そこは気合いと根性で何とかしてもらうしかない。

　出来ないものは、あとで出来るものに教えてもらえ」

「えらいスパルタだな」

「おまえ達の後に来る者に、こんどはおまえ達が教えなければならない。

　時間は限られているのだ」

「へいへい」

「…最初はゆっくりやる。…なに、空を飛ぶのも自転車に乗るのも一緒だ。

　最初は難しいとおもうが、一度出来るようになれば、なぜ出来なかったのかが

　わからないぐらい、かんたんに飛べるようになる」

「最初から飛べる人に言われても説得力ないよ〜」

「…シルフィ、何をやってるのですか？」

「何って、宙返り、この靴を履いてればかんたんに出来るよ」

「…言われたとおりにした方がいいですよ…」

「うー、時間ないんでしょ、出来ることはなんでも練習した方が…」

「…シルフィ、これは遊びではないぞ」

「はぁい。言われたとおり浮いて基地を一周しまぁす」

「カスミ、大丈夫か？」

「私は大丈夫、十夜君のほうがよたよたしてるよ」

「…私がサポートします」

「お願い、P-3」

「よし、まずはよちよち歩きからだな」

「そうだね、柊」

「ファミコンウォーズがでーるーぞー」

「シルフィ、それは違うぜ」

「安心しろ、私は諸君にそういう厳しさを教えるつもりはない。

　デバイスレインとして、すでに、実戦をくぐってきてるのだから」

 

そう、奇妙な靴を履いて、たった１０ｃｍ程度浮いて、ぷかぷかと

基地を廻っているとはいえ、これも戦闘訓練の一つ。

いずれ、彼らは、ヨーロッパを飲み込んだSC空間から現れるディゾナントを相手に

戦わなければならないのだ。

 

そして、来るべき者達のために、道を開かなければ。

 

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