召喚少女別伝
【第十章】
実践・決戦・ぶっつけ本番
「…で、あたしになんのようなんだい」
僕の名前は、コオル・リアロ。マグストラタム学園の３年生だ。
そして、僕には、特待生身分を保ったまま卒業するか、それとも家屋敷を手放して
退学届けを書くか、二つに一つの卒業試験がだんだんと目の前に近づいてきている。
それにくらべれば、戦局必ずしも好転せずな、覇権戦争すらどうでもいい。
「…いや、だから、おまえ、妙に真剣な顔してあたしんところに来たんだろ。
何か、のっぴきならない相談事がありそうだね。言ってごらん」
そう僕に言っているのが、僕の師匠で、お父さんの助手、そして１００年に１人の
天才魔法少女とまで謳われた、ビルギエッタ・ヴァロ。…今はさすがに少女と言ったら
少女が怒るような年齢だけど。
そして、僕は、師匠に、どうしても聞いてもらわなければならない、お願い事がある。
「師匠。僕に召喚魔法を教えて欲しいんだ」
「はあ？召喚魔法ならちゃんと講義で教えてるだろ。いまさら何を教わるってんだい？」
「…その召喚魔法じゃなくて、父さんの召喚魔法を教えて欲しいんだ。
僕が教わっていたとおりの、…学校とは違う、召喚魔法だよ」
「…誰からそんなこと聞いたのか知らないけど、あれは忘れな。
あたしだって、ここ１０年以上使っちゃいないよ。あれは、…使うと後悔するよ」
「…僕の使う召喚魔法自体が、父さんの流儀が身に付いた、召喚魔法なんだ。
残された時間で、僕が召喚魔法を使えるようになるには、これが一番早い」
「アデルの召喚術ねぇ…ありゃ特殊すぎるよ。わるいことは言わない。
黙って普通の召喚術の練習をしな。あと２ヶ月あるだろ。十分な晶石集めて
必要な魔法強度だせば、召喚自体は成功するさ。あとは使役が問題になるんだが
魔法陣の拘束力を高めれば、精霊に言うこと聞かせるぐらいは難しくないね」
「…それが出来ないから、師匠に相談しに来ているんだよ。
理由はわからないけど、…僕の召喚じゃ、精霊が言うことを聞いてくれないんだ」
「………古の盟約はきちんと使ってるかい？」
「古の盟約っていうと、召喚術の中核になる、拘束と命令の鍵だよね。
もちろん使ってるよ」
「じゃ、この場で召喚魔法を使ってみな」
「え？ここで？」
「精霊力向上のサポートはやってやる。やってみろ。今できないようじゃ
卒業なんて、あきらめる他ないね」
「わ、わかったよ…」
召喚呪文を唱える。精霊力の不足は師匠が魔法でサポートしてくれるから
気にしなくていい。………よし、水の精霊を呼び出したぞ、ここから…あ、あれ？
「…………なるほどね」
「…おかしいなぁ…召喚自体は成功しているのに、一度も制御しきれない」
「そりゃそうだろうね。おまえ、古の盟約の意味が全然わかってないだろ」
「古の盟約って、召喚魔法の中核になる呪文なんでしょ？」
「…確かに、おまえはアデルバートの息子だよ。
いいかい、今から、普通の召喚魔法について解説してやるから良く聞きな。
古の盟約っていうのは、たんなる枕詞や、呪文なんかじゃない。
本当に、古に、精霊…大精霊達と、具体的に盟約を結んだ奴がいるんだよ。
それが誰なのか、いつなのか、そんなことはわからないが
少なくとも、自然法則の一種なんてものじゃない。
…そう言い出したのが、アデルバートの奴さ。
仮にもあたしの指導教官だったんだから、変人扱いしちゃわるいのかもしれないけどね。
その考えから、アデルは新しい召喚魔法体系を、独力で編み出した。
それがアデル流の召喚術さ。
グエイン派の召喚術とは、発想からして根本から違う。
グエイン派の召喚術は、精霊や魔法生物を、盟約や盟約から生まれる
強制力で従わせる。盟約の起源なんて気にしない。いや、むしろ
盟約というのを、自然法則の一種だと理解している。
けど、アデルは違った。あいつは、本当に盟約を古のいずれかの時点で
結んだから、盟約に基づいて召喚できると考えた。
その理論からいうなら、新しい盟約を結ぶことで、新たな召喚魔法が作れるわけだ。
もちろん、普通にやっちゃ無理だったよ。あたしも、絶対に無理だと思ってたね。
けど、アデルの奴はあきらめずに、研究を重ね、…ついに、盟約抜きの
召喚に成功したのさ。それが、知的召喚獣の召喚って奴だ。
まあ…けど…後起きた事を考えると、召喚になんて成功しないほうが
ましだったかもしれないね。
アデルの奴が死神呼ばわりされる原因になったのも、元を正せば
この召喚だったといっていいだろう。
おまえも、こんなものに深入りすると、ろくな結果にならないよ。
いいかい…心を鬼にしな。精霊と心を通わせるなんて甘いことは忘れるんだ。
晶石の力と、古の盟約の強制力で、精霊をがっちりと支配するんだ。
普通の奴なら、精霊の状態を感じながら、強制力を受け入れるタイミングを
見計らう必要があるんだが、おまえは別だよ。力づくで言うことを聞かせるんだ。
おまえぐらいの魔法能力があれば出来るよ。卒業試験に通るぐらいの召喚ならね。
それで卒業できるよ。しっかり練習しな」
「…師匠、そんな召喚って、本当の召喚術なのかな？」
「…それは、質問じゃなくて抗議だね。
…いいだろう、アデルの流儀の召喚術についても説明するよ。
けど、その前に、覚悟が出来てるかどうか、聞いておく。
おまえ、最悪、アデルみたいに、この世界にいられなくなるよ。
それでもいいのなら、その先を話すけど、いいんだね」
「この世界にいられなくなる？それってどういうこと？
師匠はこっちにいるじゃないか」
「アデルは出て行かざるをえなくなったんだよ。…ちょっとした事情のせいでね。
そういう話も、おまえの覚悟が出来なきゃ話すべき事じゃない。
どうなんだい？覚悟するのかい？しないのかい？」
「…するよ。覚悟を決める。父さんの遺産の解読をするには、いずれにせよ
いつか、その覚悟をする必要があるんだから、今、その覚悟をする」
「おまえ、ずいぶんと成長したね、見違えたよ。
じゃあ、アデル式の召喚方法について話を続けようか…
…百聞は一見にしかず、水の精霊をアデルの流儀で召喚するよ、よっく見てな」
「う、うん…」
師匠は普通に魔法陣を描いて中に水の精霊を発生させる。
「…何が違うの？」
「ここまではいっしょさ。魔法陣の中に精霊を呼び出して固定するまではね。
おまえは魔法陣の封印があまいから、簡単に精霊に逃げられてるけど
本来の召喚魔法陣なら、一旦精霊がその中に入れば、そうそう逃げ出すものでもないさ。
ここからが、アデルの独創でね…」
そういうと、師匠は精霊相手に何かつぶやく。
精霊の方も何か語りかけてるように見える。
一体なにを？古の盟約ではなく話し合い？
「…さて、契約出来たよ。そこのろうそくに火をつけな、バカ弟子」
「火をつける…これでいい？」
「ああ、上出来だ…頼むよ。」
「え？なにを？」
この”頼むよ”は、僕に向かって語られた言葉じゃなかった。
水の精霊への言葉だったんだ。
水の精霊が魔法陣から飛び出すと、ろうそくの火を消し、そして、精霊界へと消えていった。
「今のは？」
「あれが、アデルバートの召喚さ。違いはすぐにわかったろう？」
「精霊がまるで暴走してるみたいに、何の制約もなしに活動して
ろうそくの火を消して、勝手に精霊界に消えていったように見えたけど
一体どんな召喚魔法なの？」
「…それだけ見えてりゃ上出来だよ。いくら言ってもわからない奴らばっかりだったからね。
アデルがこの手の召喚術を完成させたときは。
うちのオジジィぐらいか、アデルの天才ぶりを本当に理解出来たのは。
いいかい、今のが、アデルバートの召喚魔法さ。古の盟約じゃなくて、召還後
契約をかわすことで、使役するのさ。契約が完了すれば、いかなる束縛も必要ない。
精霊は契約通りに働き、そして精霊界に報酬を得て帰るってわけさ。
アデル自身は、下級精霊相手にこんな芸当は出来なかったけどね」
「えと…それじゃ、もしかして、今の技が出来るのは、師匠だけってこと？」
「そうなるかもね。…アデルが得意だったのは、知的召喚獣の召喚さ。
普通に会話して、約束が出来るからね…おまえが契約している
召喚獣と同じように」
「……ぁ……」
「おまえ、べつにあの娘達には、強制力で無理矢理従わせるとかしてないだろ？
あれがアデルバートの流儀さ」
「けど、あれはセールスマンさんが集めてきた召喚獣で、僕の力は関係ないよ」
「基本は同じさ。魔力という報酬を与えるかわりに、自分のしてほしい仕事をしてもらう。
古の盟約による強制力を使うか、魔力の提供による見返りという形で、精霊や
召喚獣の自主性に任せるか、それだけの違いだよ。
おまえが、本当の意味でアデルバート流の召喚術を身につけたなら
あの娘達だって、アイテムなしで召喚できるはずだよ。
少なくとも、アデルには出来たんだからね」
「…父さんに？」
「そうだよ。…まあ、それが原因で、アデルの奴がいられなくなったんだが
それはまた別の話さ。
おまえ、あたしがやったのはしっかり見たろ。精霊相手にアデルの流儀ってのは
難しいんだが、こつをつかめば、簡単にできるはずさ。
さっき言ったこととは正反対になるけど、よく精霊の気持ちを理解して
命令するんじゃなくて、お願いするんだ。
束縛するんじゃなくて、信じるんだ。
それが出来れば、あたしがやったように出来るよ」
「…ありがとう、師匠。…練習してみるよ」
「ああ、がんばんな。けど、誰か常にそばにいてもらうようにしな。
なれないうちは特にね。あたしもアデルが暴走させた精霊を送り返すのに
何回もつきあわされたものさ。
どっちが指導教官かわからないなんて言われてたもんだよ。
おまえも、似たところあるからね」
「はーい」
そんな訳で、僕はこういう場合に頼れる友達、アスレイに頼んで、召喚の練習をするために
出かけていった。
じゃまな精霊力の働かない場所、精霊が暴走しても簡単に制圧できるぐらいに
精霊力の弱い場所、つまり、死霊の森に。
「ここなら、たとえ精霊が暴走したとしても、精霊力を増していくことは無いはずですわ」
「そうだね。…戦場はここから遠ざかって行ってるって噂だし、僕達が心配することでもないよ。
…レッジなら、たぶん、無事に帰ってくるさ」
「そうですわね。けれど…」
「けど？」
「雲行きが怪しいですわ。今日は早めに帰るのがよろしいですわね」
「そうだね。まどか達にここまで送ってきてもらって正解だよ。
帰りにも、呼び出した方がいいかな？」
「おそらく、そのほうがよろしいですわ」
「…アスレイも、変わったね」
「なにがですの？」
「まどか達を敵視しなくなったみたい」
「…アデルバート流の召喚術の話を、あなたから聞いたからですわ。
私の知っている召喚術とは正反対。ですが、その効果は私の父が舌を巻くほど。
そのアデルバート流召喚術の実例と思えば、むしろ興味深い現象ですわ」
「…そうかも。だけど、下級精霊じゃ知的生命体とも言い難いよ。
結構難しいんじゃないかな」
「ふふ、今から弱気になりますの？」
「…いや、やるよ。僕は必ずやってみせる」
「では、それを証明されることですわね」
「もちろん………」
「……などと、言っている場合ではありませんわね」
「え？」
「空をごらんになるとよろしいですわ」
「空？」
最初から天気は不安定だったけど、ここに来て急激に天候が崩れて来ている。
これは、もしかしたら、死霊が現れるかもしれない。
一応死霊対策に、アスレイは呪符を、僕は父さんの死霊よけを持ってきているけど
それだけでなんとかならないかもしれない。
危ないことは止めておこう、明日があるんだから。
「…帰ろうか。また明日来ればいいよ、ここには」
「そうですわね。時間ならあなたの都合のいいように開けておきますわ」
「ありがとう、アスレイ…じゃ、ついでだから…この時間だと、予定開いてるのは
卯月かな？…もしもし、卯月？……だめだ、電波がつながらない」
「…仕方ないですわね、帰り………という状況ですら、なくなったようですわ」
「…うん、そうだねアスレイ。…もう現れた。どっちが行く？」
「呪符から使うべきですわ。あなたの死霊よけは、確実に聞くとは限りませんもの」
「僕もそう思う。…アスレイ、お願い。サポートはするから」
「ふふ、わかりましたわ。…さあ、死霊達よ、このアスレイ・グエインが相手して差し上げますわ。
迷わずいるべき世界へお帰りなさい」
アスレイが呪符を振りかざして死霊の群れを突破する。
僕はそれについて走っていく。死霊の森は、精霊力が極端に落ち込む特異な場所だ。
だからこそ……？なんで、この森で精霊力が極端に落ち込むんだろう。
大昔からそうだったのかな？それとも、最近？
昔はここもそんなに危険じゃなかったはずだ。だとすれば、この状況を生み出してるのは？
まあいいや、そんなことを考えてる暇があったら、補助魔法を使いまくって
このばを切り抜けることだ。
「…おかしいですわ。もう出口にたどり着いてもよいはずですのに」
「…精霊力がちっとも上がらない。アスレイも、召喚魔法さえ使えれば
呪符にだけ頼るひつようもないはずなのに」
「あなたが、召喚獣を呼ぶことも出来るはずですわ」
「いい勘ですよ、もうすぐ出口なんです」
「リンクスさん。無事だったんですか？」
「無事…とはいきませんでしたね。さすがは大精霊、いくら三魔将の一員といえども
まともに攻撃を受ければ一撃ですよ」
「え？でも…今、リンクスさん、生きてますよね。足があるし」
「一旦死んでしまったんですよ。今ここにいるのは、リンクスの死霊でしてね。
でもまあ、そんなことはどうでもいいじゃないですか。
振り返ってご覧なさい、後ろを」
「後ろ？」
「ええ、すばらしい軍勢でしょう？これがすべて、アデルバート１人に
やられた、我が同胞のなれの果てですよ。
その無念、その恨みを、今王国軍の主力がラナーク平原の奥までおびき出されている
今こそ、ホートウィッシュにぶつけるんです。ホートウィッシュさえ落ちれば
後は王都まで遮る物もない。…戦いは終わりです。我が魔族軍の勝利でね」
「…救いようのない愚か者ですわね。死霊を用いて勝利する？
死霊がどんなものかわかっておりますの？」
「良くしってますよ。なにしろ、私は、死霊使い、死霊の王なのですからね」
「死霊の召喚も召喚術のうち、怨念の力の使役にすぎませんわ。
悪しき力を求めるものは、今にその力に飲み込まれますわよ。
真っ当な召喚魔法から排除されるだけのことはありますわ」
「それがどうかしたのですか？これは戦争なのですよ。
悪しき力だろうが、正しき力だろうが、必要なのは、勝利をもたらす力です。
出来るだけ短い時間で、出来る限り効率的に殺戮する。死霊を用いるのはまさに合理的だ。
さあ、あなた方も我が軍勢に仲間入りしていただくとしましょうか。
この死霊の大軍相手に、あなたがたに一体何ができますかね」
「こういうことは出来るよ。…アスレイ！」
「ええ」
「太陽光の魔法ですか？それで一時的に活動を止めることが出来たとしても
私を避けて逃げ切れると思うんですか？無駄ですよ」
「…勘違いしているのは、あなたのほうだ、リンクスさん」
「どういうことです？」
「…僕の父さんは、決して死神なんかじゃない。全く新しい魔法…
…新しい召喚術の可能性をひらいたんだ。
ここに呼び出された死霊だって、みんながみんな、殺戮を望んでいるわけじゃない。
リンクスさんが、勝手な恨みで、無理矢理呼び出しただけだ」
「なにをいいだすやら」
「今から僕がそれを証明してみせる。リンクスさんの呪縛を…父さんの召喚術で解く！」
「死神アデルの召喚術？おかしなことを、アデルバートが使ったのは召喚術なんかではなく
破壊魔法ですよ」
「嘘だっ！………アスレイ、お願い、ちょっとだけ時間を稼いで」
「ええ、防御結界を張りますわ。死霊の大群といえども、これを破るには多少時間が必要ですわね」
「そんな結界に包まれてなにをするつもりやら。いいでしょう、何をするつもりか
ゆっくりと見学させていただきましょうかね」
「……聞け死したる者、この世の者ならざるものよ、我が名はコオル。コオル・リアロ。
召喚術師アデルバート・リアロが子なり。今、汝が望まざる軛を破る
力を我汝に与えんと欲す…」
「馬鹿なことを。話し合いなどで、私の死霊使役が破れるはずがないでしょう」
「………馬鹿なことを言っているのはあなたですよ、リンクスさん。
あなたは、恨みを晴らすと言った、次に使役を破れるかと言う、矛盾なんです。
もし、あなたが、望まざる召喚で死霊を支配しているのなら…僕は、それを破る事が出来る。
送還術は、召喚術の逆呪文…召喚魔法が使えるなら、送還魔法も使えるはずっ！」
「だから無駄です。特に、アデルバートの息子の言うことなど、誰が聞く物か…」
「やってみなければわからない…今こそ、力ある言葉にて、汝が束縛、解き放て！」
神聖魔法学科なら文句なしにトップクラス、と言われるだけの腕前は僕だって持っている。
ターンアンデッドの魔法に、解呪の力をのせて発動する。
後は、死霊として呼び出された人たち次第なんだけど………よし、雪崩現象が起きた！
やっぱり、思った通り、ここの精霊力の低さは、初めからこの森で大量の死霊を
呼び出そうとした、リンクスさんの仕掛けだったんだ。
死霊の維持に精霊力が消費されて、精霊力の極端な低下を起こしてたんだ。
死霊がいるべき世界に送還されていくごとに、ますます精霊力が高まり
死霊を束縛する力も失われていく。…リンクスさんの死霊の軍勢は、やがて消滅した。
「………見ての通りですよ、リンクスさん。
やっぱり、復讐なんてばかげたこと、本当は望んでなんか、いなかったんだ。
あなたの殺された同胞だって、復讐よりは安らかな眠りを…少なくとも
生まれ変わってまでの殺し合いなど、望んではいなかったんだ」
「………ですが、私が復讐を望んでいることにかわりはない。
今すぐあなた方を殺して、再び死霊を召喚いたしましょう。
多少時間は遅れますが、致命的ではない」
「きゃあ！」
「その程度の防御結界、この私に敗れないはずがないでしょう。
さあ、覚悟なさい」
「携帯電話…くそ、やっぱり誰にもつながらない」
「当然ですよ。一度阻止する方法を理解したんです。
一度阻止できたことは、何度でも阻止できるものですよ」
「…なら、僕は、携帯電話を使わずに召還してみせよう」
「なんですって？出来るはずが…」
「出来る。今の僕になら、絶対に出来る…」
「…一体どうやるつもり…」
「風の精霊シルフよ、天かける雷光を中和せよ」
「アスレイ？」
「よし、電波状態が安定した。みんな、直ぐに助けに来てっ！」
「いまのははったり？」
「…遅いぞ二人とも。それで、一体なんの用事？」
「リンクスさん。往生際がわるいわよ」
「お医者さんが命をもてあそぶなんて、お姉さん、本気で怒っちゃうぞ」
「…是非に及ばず」
「あ、あの…黙って、立ち去ってくれませんか…」
「なにを馬鹿な…私も、まだ本気は出してないというのに。
いいでしょう。そこまでいうのなら、私も本気で行きましょう。
おまえ達、召喚獣もろとも滅びるがいい！」
そういうと、リンクスさんは、回りの妖気を集めはじめた。
一体？…ああ、そうか、精霊が集まって大精霊になるように
死霊の気を集めて、完全な死霊の王になるつもりなんだ。
「…みんな、お願い。…リンクスさんを、…これ以上…」
「わかったわ。…これ以上、心を失う前に」
「絶対に止めてやる！」
…つ、強い、…強すぎるよ召喚少女…
こんなこともあろうかと、学園の講師から教わっていた
大奇跡を連続で使ったら、瞬く間にリンクスさんをも倒してしまった。
なんという強さ。もしかして、今まで倒してきたモンスターとかも
よわっちいんじゃなくて、実はみんなが強すぎるんじゃないだろうか…。
「…キミ、大丈夫だった？」
「つまらない。いくら中ボス戦でも、もう少し緊迫感が欲しい」
「お、おねえちゃん……べつに……ゲームってわけじゃ……ないんだから……」
「アスレイちゃんもぉ〜怪我はないかな〜」
「ま、なんにせよ、これで一件落着かな。とりあえず街まで送っていくよ」
「あ、ありがとう……あ、あれ？」
「魔力の使いすぎですわ。あれだけの死霊を送還すれば、魔力も消耗しますわ。
私みたいに倒れていないのが不思議なぐらいね」
「ま、まぁ…その…」
「大丈夫、ボクらが、交代でかついでいくから」
「ええ、そうね」
「え、そ、そんな、いいよ、歩けるし」
「遠慮はいらない。私たちが怪我したときにはおまえのせわになった。お互い様」
「え、ええ…恥ずかしいのも……お互い様……ですから……」
「う、うん…」
…その後、ラナーク平原での戦いで、王国軍が大敗したという話を、僕は
レッジから直接聞いた。乱戦の中でオズワルド将軍は戦死。深追いしてきた
アレクサンドラを、ヒルデガード参謀の沈着な指揮と、学園の緊急派遣隊の活躍で
討ち取ったのが、唯一の救いといえば、救いだった。
けど、その勝利は、魔族軍にとっても、高い代償のようだった。
…その戦いから、しばらくして、魔族と、王国とで、休戦協定が結ばれたのだから。