霰おばちゃんがアメリカに飛んだ翌日、私達はやっぱり学校でした。

「霧子、宿題写させて」
「いいよ泪、だけど、間違いまで写してたら絶対写してるのばれると思うの」
「それは問題ないよ、どうせ壬生先生にはばれるから」
「そうかもしれないの」

壬生由佳里先生に隠し事なんてほぼ無理なの。
先生は既知の能力者最強と言われていて、ヨーロッパ消失事件でも活躍した人なの。

「そういえば、霰おばちゃんの用事ってなんだったんだろう？」
「分からないの。メールも入ってこないし、機密事項かもしれないの」
「居れば余ってる気がするけど、いないとさみしいね、霰おばちゃん」
「早く写さないと先生が来ちゃうの」
「わ、もうこんな時間」

毎日宿題を写す暇があるなら、一緒に勉強すればいいって人もいると思うの。
でも、放課後は遊びたいの。一緒に居られる時間までお勉強したくないって思うの。
だから、一人でもできる宿題は放課後やらないの

そういうわけで、今日も放課後がやってくるの。
今日もやっぱり泪と遊びに行くの。

「今日はどうしよう」
「どうしよう、泪の家は？」
「あいてるよ。遊びに来る？」
「うん、今日は泪の家に行くことにするの」

泪の家を目指して歩いて行きます。
うちの小学校は集団下校じゃないので寄り道しても分からないの。
遠くに寄り道しちゃだめだって言われてますけど、泪の家に行くのは遠くじゃないの。

それは、唐突に訪れたの。

『SC空間展開を確認』

無機質なオーギュメントの声が響いたの。
周りの人は突如として消え、存在波として漂ったの。
私達は、オーギュメントを持ってるから、SC空間の中でも定位されてるの。

「何事、霧子」
「何事って、だれかオーギュメント使いでもいるの？」

その答えは、すぐに分かったの。

ぐるるるるる……

「霧子、ディゾナントだよ」
「人型じゃない化け物だね」
「やるしか、ないのかな」

その疑問もすぐに解けたの。
猛獣というか、化け物というか、丸っこい毛の塊というか、そういう化け物型のディゾナントが
こっちに襲いかかって来たの。

「おいたするとお仕置きなの」

私達の持ってるオーギュメントは、2.5世代の新型なの。
出力的には第2世代の量産型オーギュメントとそう変わらないけど
存在波を打ち消してステルスをかける性能や、ディスコネクト耐性の強化などが搭載されてるの。
そして、何より重要なのが、SC空間内でも普通に打撃を与える能力なの。
通常のオーギュメントは、行動に時間量子の蓄積が必要だけど
2.5世代なら、時間量子を常時消費して行動できるの。

「てか、向こうもSC空間で普通に動けるみたいだよ。
　これ、普通にやばくない？」
「逃げるともっと危ないの」

敵に後ろを見せて逃げるとかえって危ないこともある、というのはお約束なの。
それに、私達がSC空間から離脱すると、周りの人が危険にさらされるの。

「じゃ、やるか……聖十字、行くよ」
「ロンギヌス・スピア展開なの」

泪のオーギュメントは、聖十字、ナザレのイエスの処刑に使われた十字架のイデア情報から作られてるの。
私のオーギュメントは、ロンギヌス・スピア、その処刑に使われた槍だっていうの。
だけど、本当にそんなもの残ってるかどうかは疑問だと思ってるの。
もしかしたら、そういうイデア情報を合成して作ったのかもしれないの。

「考えても仕方ない、行くよ」

ナザレのイエスの処刑に使われた十字架のオーギュメント、といっても
大きさは本来の大きさじゃなくて、普通のロザリオ程度の大きさなの。
だけど、私の槍は普通に槍なの。大きさは小学生でも取り回せるようになってるの。

「なっ、こいつ、早い……カレイドフェノムの照準が合わないよ」
「これも時間量子の蓄積なしに動けるタイプみたいなの」

これ、呼ばわりされたディゾナントは、私達をはっきり敵と認識したみたいなの。
こうなると、もう逃げる選択肢は完全に消えたの。

「私が引きつけるの。泪はフェノムのために量子蓄積を頼むの」
「了解、気をつけて、霧子」

2.5世代といえど、強力なカレイドフェノムの発生には、やっぱり時間量子の蓄積が必要なの。
そのための時間を与えてくれないというのなら、私がその時間を稼ぐの。

「さあ、あなたの相手は私なの」

運動神経はパパ譲りなの。男の子相手のケンカでも負けたことはないの。
だけど、子供のケンカとは訳が違うの。
これは、本当の戦いなの。

ディゾナントの前に立って、相手の目を見るの。
ロンギヌス・スピアを構えて、動きに対応できるようにするの。
私も能力者の端くれ、直感力なら人一倍なの。
ほら、思った通りにはねたの！

「えいっ！」

着地点を予測して、先回り、ロンギヌス・スピアを化け物に突き立てるの。

「霧子が良いところを全部取っちゃったね」
「良いところっていうか、意外と弱かったの」

スピアの一撃でディゾナントが倒せたの。
早いだけで、固いわけじゃなかったみたいなの。

「これ、なんだろう？」
「オーパスには違いないと思うけど、見たことないの」
「霧子はオーパスに詳しいの？」
「パパやママに聞いた話しか知らないの」
「それじゃ、私と同じだね。どうするの？」
「オーパスのことなら、きっと、アインハルト先生が詳しいと思うの」
「アインハルト先生って、十夜おじさんや、カスミおばさんが勤めてる学校の先生だよね」
「うん、そうなの」
「じゃ、今から行こうか」

野良ディゾナントは無事に撃退できたの。
だけど、そのディゾナントが持ってたオーパスの正体も、私達の想像を超えてたの。

 

 

 

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