僕らは、今、僕の部屋、つまり新聞部の部室にいる。
今まで集めた情報の再整理をしている最中なんだ。

「いろんなことがあって頭が混乱してきたわね」
「ええ、でも、もう一度１から情報を整理してみましょう。何か新しい発見があるかもしれませんよ」
「一からね、ええと、とにかく、11人が失踪したのよ。それが第一」
「そうですね。藍仙高校で11人がなんの痕跡も残さず失踪した。その事件を○スポの記事で
　橘さんが見つけてきたのが始まりでしたよね」
「そうよ、それから藍仙高校に取材に行ったのよね」
「そこで、アインハルト先生に出会って、ＳＣ空間とオーギュメントについてお聞きしたんですよね」
「そうね。ＳＣ空間……うう、思い出しただけでも気分悪くなって来ちゃった」
「そのあと、お台場大学で、空木教授にお会いしましたね」
「そうね、そこで、オーギュメントを見せてもらったわ。それがどんなものか、説明聞いてもよくわかんなかったけど」
「そのあと帰ってきていったん情報整理」
「そこで忍さんから情報を聞いたんだっけ。なんでも、報道管制が敷かれてるとか」
「ええ、被害者の家族にも圧力がかかってるって話でしたよね」
「そうだったわね。……被害者が情報を集めることすら阻止できるほどの巨大組織が動かせる犯人。
　それほどの力のある存在となると、限られてくるわね」
「そうですね……そのあと、もう一度藍仙高校に行って、佐伯先生にお会いしましたね」
「そこでも、警告を受けたわね。これ以上首をつっこむなって」
「僕も、本当に危険なことに首をつっこんでるんじゃないかって気はしますよ」
「恵くん、怖じ気づいたの」
「そういうわけじゃないですけど……だけど、今までの事件とは違った何かを感じるんですよ。
　今までの事件って、連続殺人事件だったじゃないですか。今回は大それた事件を一度だけ起こして
　それから犯人は完全に鳴りを潜めてますよ。もしかして、犯人はもう日本にはいないって可能性もあるんじゃないですかね」
「それならそれでいいのよ。私たちは真相をはっきりさせればそれでいいの。犯人逮捕は警察の仕事よ」
「それならいいんですけど……」
「それから、昔あった、雲野さん達と、Ｊ．Ｂ．との、デバイスレイン同士の戦いについて話を聞いたわね」
「ええ、そうでしたね。その戦いで、Ｐ−７さんのお姉さんが亡くなったんでしたね」
「ええ……犠牲のない戦いはない……っていうことだったわね。……」
「どうしたんです、橘さん」
「デバイスレイン同士の戦いに、一般人が巻き込まれたら、どうなるのかなって、ふと、思ったのよ」
「それについては聞くのを忘れましたね。こんど、また藍仙高校に行くことがあったら、アインハルト先生に聞いてみましょう」
「そうね。それか、空木教授か、雲野さん達に聞いてみてもいいかも」
「雲野さん達だと、つらいことを思い出させるかもしれませんよ」
「そうかも、しれないわね……」
「そのあと、藍仙高校のアインハルト先生から、新宿外地会を紹介してもらったんですよね」
「そうね。外地会で、風間刑事にも会ったわね。警察も、11人失踪事件について調べてるってわかったわね、それで」
「ええ、警察も動いてるってわかったのは心強く感じましたよね」
「そうね。けど、警察も水面下で動かざるを得ないほど、恐ろしい犯人であることもわかったわね」
「そうですね。犯人を追い詰めると何をしでかすかわからないっていうんですから」
「さて、ワトソン君、ここからわかる犯人像はなにかな？」
「さて、って言われても困りますよ。動機もなにもわからないじゃないですか。けど……」
「けど？」
「もしかしたら、動いている組織の巨大さに目をとられていてるんじゃないかっておもうんですよ。
　動機はもっと些細なことかもしれない」
「どういうことなの、恵くん」
「仮説に過ぎないんですけど。もし、もしですよ。……アインハルト先生なり、今いるデバイスレインなりの
　復讐であの11人が消された……文字道理の意味でＳＣ空間で消滅させられたのだとしたら……どうでしょうね」
「動機は何？」
「彼らは不良グループで、恨んでる人は1人や2人じゃなかったはずですよ。デバイスレインの中に
　彼らの友人がいたとしたら？」
「おもしろい仮説ね。でも、それを証明する方法がないわ。それに、そんな動機でＳＣ空間で消去しなくたって
　もっと早く組織を動かせば、その人物を保護できるんじゃないの？」
「それもそうですよね。事件の重大さ、ことの用意周到さ、動いてる組織の巨大さ、だけどそれに釣り合う動機がみつからない」
「結局、情報が少なすぎるわね」
「だけど、不用意に情報を集めると、犯人を刺激して、僕らがやられちゃいますよ」
「逆に言うと、今まで私たちが無事なのは、私たちがとんちんかんなことをやってるからってこと？」
「……！」
「どうしたの、恵くん」
「なんで、犯人は僕らがとんちんかんな情報集めをしてるって、わかるんだろう」
「どうしてって、巨大な組織なんだから、情報収集の能力もそれなりにあるんじゃないの」
「誰が情報収集の先兵になってるのかってことですよ」
「誰って……誰なのかしらね、恵くんはわかるの？」
「その誰かが、同時に犯人だったとしたら？」
「まさか、情報集めをする末端工作員は手足じゃないの？」
「手足だといいんですけど」

こんこん。

「あいてるわよ」
「こんにちは」
「あら、忍さん、どうしたの？」
「そちらの状況はどうなってるか調べに来たのよ」
「こっちは順調よ。そっちは」
「こちらも順調に聞き込みが進んでるわ。犯人の目星はついたの？」
「犯人の目星はつかないけど、警察が事件について調べてるってことぐらいはつかんだし
　少なくとも、犯人がデバイスレインであることぐらいはわかってるわ」
「そう、じゃあ、犯人の動機については、全然わかってないのね」
「忍は犯人の動機がわかったっていうのか？」
「そうよ。11人失踪事件の前に、一人の生徒が殺されてるの」
「殺人事件があったっていうの？」
「そうよ、橘さん。そんなことも調べてなかったのね。殺されたのは藍仙高校の１年生。
　名前は郷秀紀、あの不良グループの金づるの一人だったみたいね」
「それが、何らかの理由で死亡した、と」
「そうよ。死亡原因は不明だけど。暴行死には間違いないわ。あの11人が関わってると見て間違いないわね」
「それが動機だっていうの、忍さん」
「それ以外に考えられないわ」
「だけど、それが動機だとして、なんで巨大組織が犯人をかばうんだろう」
「それは……まだ、わからないわ、桃井くん」
「……」
「恵くん。どうしたの？」
「動機がそれなら、犯人は一人しかありえない」
「恵くん」
「桃井くん？」

謎は解けた、そして、みんなが警告した意味も。
僕としては、もう手を引きたい。だけど、二人とも僕の推理を聞いたとしても、引き返そうとはしないだろう。
確かに、僕らは危険地帯へと足を踏み込んでいた、そして、たぶん、3人とも、引き返し不能地点を過ぎている。

 

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