♪again and again〜♪

 

「むにゅ・・・あと五年・・・」
「P-７おねえちゃん。五年も寝てたらおばさんになっちゃうよ。起きて起きて」
「ふにゃ・・・由佳里ちゃんか・・・（ぱちっ）
　ごめんね由佳里ちゃん。今すぐそっちに迎えに行くから」
「うん、待ってる」
「いいこいいこ」

 

ここは、先生のおうち。正確には園宗寺邸なのだが
今は完全に『先生』とその家族が使っている。
P-3達はすでに学校に出かけていて、今起きだしているのはP-7ぐらいだ。
P-7は夜更かしがひどいので最近朝寝坊なのである。

 

「あー、べつに好きこのんで夜更かししてる訳じゃあるよ。
　ええと、すぐに着替えて朝ご飯はっと、焼いてない食パン一枚でいいや。
　あとは学校に行ってから学食でたべよっと。
　さ、準備完了」

 

寝間着で行くのか？

 

「時間がないから・・・えいっ！」

 

寝間着を変化させて制服に着替える。
大学だから決まった制服があるわけではないのだが
P-7は、改造した藍仙高校のセーラー服がお気に入りである。

 

「よし、準備完了。・・・瞬間跳躍っ！・・・おはよう由佳里ちゃん」
「おはようございます。P-7おねえちゃん。
　今日もまた寝坊してたの？」
「今日もって人聞きが悪いよ。黙ってれば読者にはわからないのに」
「おねえちゃん。それってものすごく昔からあるネタだよ」
「気にしないでいいよ。あ、おはようございます壬生おじちゃん」
「おはよう」

 

こちらは、由佳里ちゃんと洋平パパの家である。
壬生パパも、真端さんの家を間借りしている。

 

「由佳里、中学校の準備は出来てるか」
「うん、もう万全だよお父さん」
「そうか、では気をつけて行ってきなさい」
「はーい。おとうさんもお仕事に気をつけてね」
「ああ、気をつけるとも」
「じゃ、登校の安全はわたしにまかせて。
　変態とか変質者とか痴漢とかからちゃんと守るからね☆」
「そんなのばっかりなの？」
「電車は気をつけないと、ミラーマンとか携帯カメラで盗撮する人がいるよ」
「何がうれしいのかな？」
「さあ、わかんない」
「・・・何のために、毎日送り迎えを頼んでいるかわかっているのか？」
「もっちろん。わかってるよ。
　由佳里ちゃんは、特別だもんね」
「わたしは特別じゃないよ。カスミおねえちゃんみたいな能力があるだけだよ」
「それが特別だって☆…かなが誘拐されたみたいなことになったら、大変だもんね」
「うん。…マナおねえちゃんも心配してた」
「あまりのんびりしていると、遅刻するぞ。
　カスミは霰みたいに、空を飛ぶわけにいかないぞ」
「あ、そうだった。由佳里ちゃん、電車に遅れちゃう、行こう」
「うん、おねえちゃん。じゃあおとうさん。本当に行ってきます」
「ああ、いっておいで」

 

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ここは、藍仙高校。
いつものように生徒が登校し、いつものように授業が始まる。
新任教師のとーやくん…雲野十夜は体育を教えている。
保健室には佐伯先生が、けが人やさぼりを待ちかまえている。

 

そして、マナの通う教室では、P-3が普通に物理学の講義を行っていた。

 

「…ですから、このときの電子の軌道は定在波が生まれる・・・え？」
「先生、何かあったんですか？」
「…みんな、伏せて！」

 

P-3が突然叫ぶ。生徒は一体何が起きるのか全く理解できない。
…たった一人、マナをのぞいて。

 

それ、あるいは、彼女は、何の前触れもなく、P-3が講義している教室へと現れた。

 

「あなた、だれなの？こんな事が出来るなんて一体・・」
「あら、完成されたディゾナントのあなたが、これぐらいで驚くなんて」
「……一体、誰なの？」
「…自己紹介が遅くなったわね。わたしは、フレイア、マナとシルフィの妹よ」
「…フレイア…」
「ねえさん、遅くなって悪かったわね。さあ帰りましょう。
　みんな待ってるわ」
「……」
「一体なにを始めるつもりなの？」
「説明の必要はないわよ」
「だめなの」
「…あなた、もしかして、わたしとやるつもり？」
「わたしには、生徒を守る義務があるもの」

 

P-3はすぐさまSC空間を展開する。一瞬にして教室内がSC空間に変わる。
一般生徒はSC空間の中から姿を消し、教室内に残っているのは
マナと、フレイア、そしてもちろんP-3の３人だけとなった。

 

「無駄よ。あなたの力では、わたしには決して勝てないわ」
「…無駄かどうかは、やってみないとわからないの」
「やってみるまでもないわ」
「……フレイア…」
「ねえさん。小手調べよ、力を合わせて、やっつけちゃいましょ」
「・・・・・」
「どうしたのねえさん？ああ、ねえさんは戦いが好きじゃ無かったわよね。
　じゃ、わたし一人で片付けるわ。見てて」

 

P-3が身構える。瞬間跳躍能力を持っている、ということは
間違いなく出力はP-3より上ということだ。
普通に戦えば間違いなくP-3が負けるだろう。フレイアの言葉に嘘はない。

 

「・・・フレイア・・・わたしは……先生の…P-3の側に…つきます」
「ねえさん？急に何を言い出すのよ。あなたの存在目的を忘れたの？
　時が来たの。ねえさん、帰りましょう。帰って、わたしたちが生まれた目的を果たすのよ」
「…………」
「やーだよ。そんなこと、誰が決めたの」
「シルフィ！」
「シルフィねえさん。あなたまで何を言い出すの」
「やだよ。ここには楽しいことがいっぱいあるんだよ。
　なんで楽しいことを捨ててつまんないことをしなきゃならないの。
　フレイアもつまんないことやめようよ」
「…あなたたち…勝手なことばっかり…」
「勝手なのは、誘拐したあげくわたしらを作った連中でしょ。
　帰ってガイアに言ってよ。わたし達には関わらないでって。
　やりたきゃ、そっちで勝手にやればいいでしょ。巻き込まないで」
「そういうわけにはいかないわ。もう、あなたたちは組み込まれてるの。
　わかってるんでしょ」
「……どういう事情かはわからないけど…だけど……
　わたしの話を聞いて欲しいの」
「いったいなにをよ」
「あのね…わたしも…生まれたときは…たぶん…フレイアさんと、同じだったの。
　戦うために生まれてきた戦闘機械、P-3だったの。
　だけど…とーやくんや…P-6や…なにより…オリジナルのおかげで
　わたしは…わたし自身だって、生きてるんだって、生きる権利がある・・ううん。
　自分の人生を生きる義務があるんだって、そうわかったの。
　マナやシルフィだって同じなの。誰にもその義務から逃げられないの。
　誰もその権利を奪うことはできないの。
　……あなたにも、それに気付いて欲しいの。きっと…」
「戯言もいい加減にして欲しいわ。
　生きる権利？義務？そんなもの、何もありはしないわ。
　あるのはただひとつ、力よ」

 

SC空間内で突然一人の生徒が実体化すると、次の瞬間 には
火柱に包まれて焼け落ちた。
フレイアが自分が立っているそばにいた生徒をSC空間内に
強制定位させ、カレイドフェノムで焼き払ったのだ。

 

「な、なんてことを…」
「フレイア、なんで…」
「それがわたしには面白そうだったからよ。
　それと、あなたたちのあまっちょろい考えを焼き払いたかったのよ。
　今見たでしょ。人間なんて理由なく生まれて理由無く死ぬ。ただそれだけよ。
　さ、二人とも、帰るわよ。…P-3、邪魔だてするなら、あなたもこうよ。
　それでも、わたしとやるつもり？」
「………フレイアさん…あなた…なんで……なんで完全に消去なんて……」
「なんで？それはわたしが聞きたいわ。一体なにを気にするの？」

 

消去された生徒…単にSC空間で戦闘不能になったのではなく
カレイドフェノムの発動で完全に消去された…が誰かといわれても困る。
別段、何も設定など考えてはいない。名前も決まってない。
性別も別段何も考えてない。確実なのはマナのクラスメイトの一人であることだけだ。
映画で言えばエキストラキャスト、アニメでなら台詞もない登場人物、B級SFなら
まさに何の理由もなく、数字の一部として殺されてしまう何かだ。

 

「たとえ、お話の中でそうだとしても、わたしには大切な生徒の一人なの。
　ちゃんと生まれて、育って、出会って、今この瞬間まで存在していた…
　…大切な、一人なの。理由無くころされていい何か…なんかじゃないの！」
「口だけは立派ね。……まあいいわ、あなたも、名無しのだれかさんみたく
　焼き払ってあげるわ」
「やらせないのっ！」

 

SC空間で、フェノムとフェノムがぶつかり合う。

 

「マナ！シルフィ！」
「・・・・P-3先生は・・・わたしが…守ります…」
「えへへ、こっちの方が面白そうだもん。悪いけど、フレイアの方には味方できないよ」
「…あなたたち…何を考えてるのかしら……そっちがそのつもりなら、こうよ」

 

また一人、教室内で焼き払われる。

 

「……フレイアさん………」
「ふふっ。どう？頭に来た？怒ってる？それとも、憎しみかしらね」
「そのどれでもないの。ただ、…かわいそうに思うだけなの」
「何がかわいそうなの？消された二人？ずいぶん甘いのね」
「違うの。…フレイアさんが、かわいそうなの。わたしも…ううん。
　わたしだって、決して、手に血がついてないわけじゃないもの」
「だけど、わたしに手が出せる訳じゃないんでしょ。
　手が出せるようなら、とっくにわたしにむかって攻撃してるはずだものね。
　守るだけで手一杯なんでしょ。じゃ、じっくりと焼き払ってあげるわよ」
「甘いよっ！」
「P-7！」
「な、なんで…こんなに早く…」
「残念でした〜。とっくに警報がP-8から届いてたんだよ。
　来ることぐらいちゃーんとお見通しだよ☆
　ごめんねP-3、遅くなっちゃって。…さて、と。
　フレイアだったっけ？すこしは楽しませてくれるんでしょ」
「……っ…わたしはあなとやり合うほど、無謀なことをするつもりはないわ。
　４：１なら、バイキングだって逃げても不名誉じゃないっていうし」
「あ、逃げた」
「……ありがとうございます……」
「あはは、口ほどにもないね」
「礼にはおよばないよ」
「P-7……無理だとはおもうの。だけど・・・」
「何かあったの？」
「生徒が二人…消されたの。もしかしてP-7にだったら、…戻せるかもっておもったの」
「二人消された？…SC空間なのに？なんで？…わたしにも何も感じられないよ。
　本当にそんなことを？なんで？」
「……デモンストレーションのために…」
「え？」
「わたしたちを脅す為に消しちゃったんだよ、二人」
「…あーっ！そんなこと早く教えてよぉ。
　知ってたら会話なんてせずに、いきなり消滅させてたのにっ！」
「…ごめんなさいなの…」
「P-3の責任じゃないよ。全然。こんど見つけたらぜったいとっちめてやる」
「……次は…たぶん…P-7さんでも…無理だと…」
「なんで？そんなに実力がありそうに見えないけど」
「…次は…第三世代オーギュメントを持って…来ますから…」
「えーっ。本当に？」
「ええ…」
「がーん。やっぱりいきなり消しておけば良かった。
　あれ？なら、第３世代持って来るときに研究所をつぶせばいいんだ」
「・・・・」
「・・・・・」
「どしたの？顔色が悪いよ」
「…そういう…問題では……ないかと…」
「え？なんで？」
「………」
「P-7…いつまでも、SC空間を展開したままにしておけないの」
「あ、そか。じゃ、また放課後にね☆」

 

そういうと、P-7もまた、跳躍で消えてしまった。
たぶんお台場大学に帰ったのだろう。

 

SC空間が解除されたとき、他の生徒達は
ぽっかりと、二つの席から生徒が消えているのに気付いた。
今までSC空間が展開されること自体には慣れっこになっていた
藍仙高校の生徒でも、さすがに人がいなくなっていれば騒ぎ出す。

 

P-3が黒板を叩いた。

 

「みんなに、聞いて欲しいことがあるの。
　いなくなった二人のことなの。
　……とっても…言いづらいことだけど……
　…言いづらい…けど……
　某国からきた、戦闘用ディゾナントにやられたの」

 

教室内が、水を打ったように静まりかえる。
P-3の言葉が、静かで、重いものだったから。

 

そう、今までとは全く違う戦いが、今、始まったのだ。

 

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