New War to END WARS
World in Flames
【第二章】
〜North Wind Rain〜
ここは、某国の会館である。
日本と国交のない某国なので、この会館は
領事館的な役割も果たしている。
最近、課税されるようになって、献金額が引き上げられてしまった。
正直、こういう目に見える形でやられると、差別だと言いたくもなる。
ある意味、仕方がない。自分がやっていることを思えば
敵国扱いされるのも理解はできる。
ため息混じりに会館の門をくぐったのは、藍仙高校に通う某国籍保持者である。
名前は…気にしないでもらいたい。
「よくぞ来た我が精鋭達よ」
一体何年前のジョークですか、とつっこみを入れたくなる。
これが面白いとでも思っているのだろう。
昭和生まれはこれだから困る。
「さて、君に来てもらったのは他でもない、我が祖国のためだ」
また祖国ですか。と心の中でため息をつく。
もちろんこんなため息を気取られてはならない。
何かの因縁をつけられて、祖国の炭坑にでも送られればそれで終わりだ。
「君には、すでにオーギュメントを渡しているね」
ええ、受け取ってます。祖国製と聞いていましたけど
実際には我が祖国のさらに北にある友邦からもらった物でしたね。
「そのオーギュメントを使って、新たな作戦を実施してもらいたい。
いや、なに、高校生である君に特殊作戦を実施しろというのではないのだ」
特殊作戦ですか。以前、誘拐をやろうとして返り討ちにあったのはもう忘れたんですか。
「祖国から精鋭が投入される。君は彼らをオーギュメントで護衛すればいい」
泣きたくなる。こんなオーギュメントで連中と戦うのは
素手でライオンと戦えというのに等しい。
それも、腹を空かせたライオンの群れ相手に、一人きりでだ。
どうせ特殊部隊の人たちはSC空間で戦えるわけではないだろう。
「安心したまえ。今回の我々は十分な装備をしている」
馬鹿には見えない装備でしょう？
「わが友邦より実験を依頼された特殊兵器だ」
？
「詳細は知る必要など無い。君は、言われたとおりの所へ行き、仕事をすればいいのだ。
簡単なことだろう」
「はい、同志支部長」
「よろしい。では詳細は追って指示する。実行の合図をまて」
「はい、わかりました」
今までは幸運にも生き延びてこれたけど、こんどこそ命日かな。
我が祖国は失敗したら英雄的に働いてもゴミ扱いで
自殺的作戦に反対したら反逆罪。不名誉な死を受け入れざるをえないのかもしれない。
そう思いつつも、逆らえない自分が恨めしかった。
「…お待ちしていました」
「P-4。君が出迎えか」
「…はい…」
「園宗寺さん。空港にはDICEから出迎えがあるのではなかったのですか」
「わたしもそう聞いていた」
「…P-8から連絡がありました…」
「P-８から？私は何も聞いてないが」
「…道中説明しましょう…」
「わかった。忍、荷物を頼む」
「はい、わかりました園宗寺さん」
空港に着いた園宗寺達を待ち受けていたのは、P-4だったのだ。
DICEの関係者は特に出迎えに北様子はない。
霧生はロビーで荷物を待っている。…どうやら荷物が来たようだ。
霧生は荷物を手にしてこっちに歩いてくる。
「…安心しました…」
「何が安心なのだ？」
「…テロが起きませんでしたから…」
「それほど、物騒なのか？」
「…表にDICEの車を待たせてあります…」
「わかった、そこへ向かおう」
「…ですが…私が運転してきた車に乗ってください…」
「どういうことだ？」
「…道中…説明します…」
「そうか。待たせている車には？」
「…後で…支部から連絡をしてください…」
「わかった、そうしよう。行くぞ」
「はい、園宗寺さん」
「…出発します…」
「なんで園宗寺さんをこんな車に乗せるんだ」
「…園宗寺さんが乗りそうもない車ですから…」
「私がどこにいるかわかると、問題があるのか」
「…警備がそれだけ難しくなります…」
「警備なら日本支部と外地会が入念に行えば済むのでは」
「忍、今は話の腰を折るな。P-4、順番に、忍にもわかるような形で説明してくれ」
「…わかりました…
オリジナルや先生の所に行くまでに…かいつまんで説明しましょう…。
…研究所にいる…完成されたディゾナントが藍仙高校を襲撃しました…」
「うむ、それで」
「…こちらの犠牲は生徒二名…P-7の参戦により一時的に撤退させることには成功しましたが…
…遅かれ早かれ…態勢を整えた上で逆襲に来るかと…」
「それで、私の回りの警備も行うことになったのだな」
「…P-8がいれば安心出来るのですが…単独では…」
「俺では、たよりにならないということか」
「…在来型のオーギュメントでは…量産型を含めて…無駄であろうかと…」
「P-4、おまえなら安心出来るのか」
「…向こうが殺意を持ってくる場合には…おそらく…気休めにしかならないかと…」
「気休めか…第三世代オーギュメントとは、それほど恐るべきものなのか」
「…威力は…恐るべき物です…」
「…それで、カスミが使わせないんだな」
「…それは…まったく…無関係です…」
「？？？威力を恐れないとしたら一体なぜ？」
「…それは…本人から直接聞くのが…一番です…」
「本人から直接か。一応確認しておくが、私が今から支部へ電話を掛けていいか？」
「…やめておいてください…こちらでお二人の気配を出来るだけ殺しています…」
「やはりな。どこへ行くか気取られないようにしようというわけだ」
「…はい…」
「俺にわかるように説明するということだった、全くわからない。
一体、何が攻めてくるというんだ」
「…霧生くんには…説明しても理解できないでしょう…」
「なぜだ？」
「…園宗寺さんのために死ねる人には…わからないことです…」
「忍、つけばわかることだ」
「・・・わかりました、園宗寺さん」
「意外に渋滞していないな」
「…これなら予定より早くつくでしょう…」
幸い、お台場大学まではテロに遭わずに園宗寺達は
お台場大学のアインハルト研究室までたどり着けたのだった。
そういうわけで、ここは、お台場大学アインハルト研究室。
すでに、オリジナルのカスミにP-3,十夜に瞳に誠志郎、無関係ではないということで
マナとシルフィ。言うまでもなく『先生』と理子ちゃんもそろっている。
もっとも、P-6やP-7は来てないようだ。
P-6はハウスキーパーであるし、P-7はまた別の場所でするべき事がある。
「よう霧生じゃないか、元気にしてたか。アメリカには美味い物があるか」
「柊〜いきなり会って挨拶がそれ？」
「彼女出来た？なんて聞くよりは普通だろ」
「…腕を上げたか？霧生」
「ああ、あんたに負けないようにな」
「トーヤくんは先生になるための勉強をしてたの」
「園宗寺さん。お久しぶりです」
「ああ、久しぶりだな空木くん」
「ええと、初めて会う人がいるよね、紹介するね。
こちらがP-3の教え子のマナさんにシルフィさん」
「…はじめまして…」
「やっほー。はじめー、私がシルフィ。シルフィ＝ゴールドスミスだよ。
P-3達と同じで完成されたディゾナント。能力がP-シリーズより落ちるのが残念」
「久しぶりですね、園宗寺さん。何年ぶりでしょうか」
「園宗寺さん、久しぶりです。家をずっと貸してくださってありがとう」
「空木くん、アインハルトさん、長い挨拶はいい。すぐに本題に入ろう。
日本についてからここまで一切、DICE支部にも連絡をとらせないが
それほど警戒しなければならない事が何か起きたのか」
「P-4から説明は聞きませんでしたか？」
「おおざっぱには聞いた。跳躍能力のあるディゾナントに襲われたそうだな」
「………」
「P-3。だいじょうぶか？」
「う、うん・・・トーヤくん・・・だいじょうぶ…」
「顔色が悪いな。…そうか、教え子を亡くしたのだったな。…」
「遠回しな話はいい。第三世代オーギュメントっていうのは一体なんだ？
カスミ、なぜそれを使わせない。それがあれば、すぐに問題が解決するんだろ」
「まあまて忍。順番に話を聞いていこう。
先生、まずは、これほどの警戒をしなければならない理由についてだ」
「そのことについては、園宗寺さんがとっくに知っていると思ってました。
すでに相手は攻撃に手段を選ばなくなってきています。
見境なしのテロ攻撃で我々を混乱させるために園宗寺さんを襲われては困りますから」
「見境なしのテロ攻撃だと」
「ええ、私ならやります。DICE本部をP-7に襲撃させたでしょう」
「……そういえば、そうだったな…あれでDICE本部襲撃が主なことだと思いこんでしまった」
「園宗寺さんが襲われれば、園宗寺さんを襲うことが目的だと誰もが思うでしょう。
よもや、こちらのマナやシルフィが本命だとは誰も思いません」
「完成されたディゾナントだからなのか」
「ええ、その通りです、園宗寺さん」
「詳しい説明は、P-3にさせよう」
「…その必要はありません…私は……フレイアやガイアと同じように
カナ＝ゴールドスミスから生み出された『完成されたディゾナント』です…
……私を作った研究所は…今では…ガイアが完全に支配してます…
…その研究所で作られた…最強のディゾナントが…フレイア…
…そして…そこでは…すでに…第三世代オーギュメントが…完成してます…」
「完成されたディゾナントが、P-シリーズ以外にも存在するのは知っていた。
だが、性能的にP-シリーズを超える物が作れるとは思わなかったな」
「P-シリーズの、P-は、プロトタイプのPなの。
性能的には、オリジナルとそれほど変わらないの。
オリジナルが完全に覚醒すれば、私と同等なの」
「完全に覚醒すればね。私はそんなことを鍛えてないわ」
「カスミがそうする必要もない、はずだったのだ」
「先生、それで、一体第三世代オーギュメントとは何なのだ？
みな何か恐ろしい究極兵器のように言うが、まったく見当がつかない」
「お父さん、だめ。…園宗寺さん、そんなものを使わせないで」
「カスミ、すでに二人死んでいるんだ！いつ園宗寺さんが殺されるかもわからないだ！」
「興奮するなよ霧生…。カスミ、説明するだけは説明した方がいい」
「だけど…だけど…知ったら…絶対に…使うっていうんでしょ」
「………」
「それほど危険なものなのか？」
「１から説明しよう」
そういうと、『先生』は説明用のホワイトボードの所に立った。
さすがに『先生』だけあって様になっている。
「オーギュメントとは何か？ということについては説明の必要がないね。
コアブレインにオーパスを組み合わせることで機能を発揮する特殊兵器だ。
主たる機能はSC空間の展開と所有者をSC空間で定位させること。
オーパス同士の共鳴＝干渉作用によりカレイドフェノムを発生させることも出来る。
ディゾナントについても説明はいらないだろう。
コアブレインにイデア情報を書き込むことで作られる、人造生命体だ。
…完成されたディゾナントの存在を前提とするなら、そういう方がむしろ
実態に近いだろう。ロボットと呼んでもいいが、機械よりは生命体に近い。
さて、ディゾナントの進化については省略して、オーギュメントの進化について説明しよう。
先ほど説明したオーギュメントだが、オーギュメントの主要な性能は
コアブレインによって決定される。
コアブレインとは、エネルギージェネレーターであり、主要な制御システムでもあるわけだ。
初期のオーギュメントは、コアブレインの出力を最適化するような形状の
共鳴体にとりつけることで出力を増大させていた。
コアブレインの出力が不十分だからだな。
しかし、新しい高出力コアブレインの開発により、量産型オーギュメントが開発された」
「先生、量産型、といっても、一般的な意味での量産化は出来てませんが」
「理子くんは厳密主義者だな。
まあ、その通りだ。
量産型オーギュメントを作るためには、高度な存在波制御が必要なため
能力者のイデア情報を取り込んで作られる、完成されたディゾナントが必要だ。
完成されたディゾナントがコアブレイン用の人工頭脳を作り上げることによって
従来の製法では不可能な精度を出すことが出来るようになる。
従来、オーパスなしでは発動出来なかった、カレイドフェノム発生機構も
そのままコアブレイン組み込むことで性能を向上…いや、すまない。
量産型オーギュメントの説明は復習でしかなかったね。
簡単に済ませよう。とにかく、量産型オーギュメントはオーギュメントの
利便性を飛躍的に高めた、いわゆる第二世代オーギュメントとでも言うべき物だ。
だが、このような形でのオーギュメント作成はある一定レベルで壁に突き当たる」
「コアブレインを高性能にすればするほど性能が上がるのではないのか？」
「霧生くん、量的な変化が、質的な変化を生み出すのだ。
コアブレインの性能が一定水準を超えると、存在波を１００％受け取ることになる。
それは、まさに完成されたディゾナントになる、ということだ。
これではオーギュメントにはならない。その意味で、一段の製法では
性能に一定の限界が生じてしまうのだよ。
この効果は最初に空木くんが発見したのだったかな？」
「最初に発見したのはP-4ですね。
それにちなんで、第４の壁、という名前をつけたはずです」
「そうだったかな？忘れていたよ。
とにかく、その第四の壁を突破するためには、一段の製法では無理だということだ。
つまり…全く別な形で、コアブレインを作り出さなければならない」
「それは一体どういうことなんです」
「…完成されたディゾナントを構成するコアブレインは、完成後も変化するのは知っているかな」
「それは知ってるぜ」
「誠志郎くんが知っているとは意外だな」
「なんだよ人をおちこぼれみたいに」
「事実でしょ柊」
「話をそらすな、さっさと進めろ」
「…いいかね？逆転の発想だ。完成されたディゾナントになってしまうことで
オーギュメントの素材としてのコアブレインの性能に限界が生じるなら
はじめから完成されたディゾナントを作ればいい。
完成されたディゾナントの人工頭脳に、補助用のコアブレインを
オーギュメントにとりつけて、オーギュメント用のコアブレインとして
完成されたディゾナントのコアブレインを使えるようにする。
これにより、従来のオーギュメントの限界を突破する、飛躍的に
高性能のオーギュメントを作れるのだ」
「…実験は、してあるのか？」
「もちろん。自分自身を検体として使った。テストは成功しているよ」
「………先生、では…」
「だめ！絶対にだめ！……どうして、どうしてみんな…みんな
私たちを引っ張り出そうとするの！…もう…もう…おとうさんは
…ううん。おとうさんだけじゃない。ここにいるみんな
P-3も、P-4も十夜くんも、誠志郎くんも、瞳さんも
みんなのために十分働いたじゃない。
もうこれ以上…これ以上苦しめないで」
「カスミ、実験は成功しているのだろう。何か問題があるのか？」
「些細な問題がひとつある」
「先生、私はカスミさんに賛成です。これはとても些細な問題とは思えません」
「空木くん、一体何が起きるのだ？」
「ごくまれに、コアブレイン化された完成されたディゾナントが、元に戻れなくなるのだ」
「それは一体？」
「死んじゃう…ってことよ。人間を解剖して大砲を作るわけにいかないでしょ。
たとえ後で縫合したら元に戻せるかもしれないとしても。
第三世代オーギュメントって、それと同じ事をしてるじゃない。
そんなもの、絶対に使わせられないよ」
「…元に戻れなくなる確率はそれほど高いのか？」
「一度だけの実験ですが、概ね数パーセントだと思われます」
「数パーセントならいいじゃないか」
「一回当たり数パーセント。それが１０回、２０回と積み重なったら
かならず元に戻れなくなるときが来る。絶対に…
私は、もう、P-３や…みんな…私の大切な家族を危険にさらしたくない」
「……カスミ…だが、他に、方法はない。
P-８ですら対応出来ない相手だ。…一回、一回だけ…」
「ううん。能力者は私だけじゃない。立香やカナさんがもう見つかってる。
きっと探せばもっともっと見つかるはず。
その人達を使って、完成されたディゾナントを作って、第三世代に変えてしまうようになったら
一体どうなるの？そのたびに第三世代オーギュメントを使うの？
それじゃ、いずれ、必ず、…みんな、オーギュメントになってしまう。
私はそんなこと認めたくない！」
「………しかし、そうしなければ、遅かれ早かれ我々はみな
フレイアにやられてしまうのではないか。
それでは、結局、家族は守れないことになるぞ」
「園宗寺さん、カスミが反対するのは、他に道があるからだ。
だからこそ、P-8も今まで放置することができたのだが」
「他の道？」
「すでに立香くんを被験者として実験を重ねてある。
オーギュメントが所有者と一種の共鳴状態になって動作することは周知の事と思う。
オーギュメントの性能は、オーギュメントそれ自身の性能だけではなく
所有者の能力にも依存するのだ。つまり、能力者がオーギュメントを使うなら
在来型のオーギュメントといえども、飛躍的に性能を向上させることが可能になる」
「それなら、カスミがオーギュメントを持てば対抗できないか」
「…私じゃ無理。立香の結果からお父さんが計算してみたら、最良の出力でも
第三世代には対抗できないって」
「それならやはり第三世代しかないじゃないか」
「希望は、あるのよ、霧生くん。…カスミを超える能力者がいればいいの」
「当てがあるのか？」
「一応…」
会話は、ここでとぎれた。
室内がSC空間に変貌する。
通常空間での攻撃に反応して量産型オーギュメントが動作
さらにそのオーギュメントの動作を把握してP-4がSC空間を一気に室内全域に展開したのだ。
「一体何が起きた？」
「わからない。だが量産型オーギュメトは生命の危機に反応して動作する」
「外の様子はわからないか？」
「…私が探ってみましょう…」
「マナと言ったな。SC空間の中から外の様子をどうやって探るのだ？」
「マナは世界一の占い師なんだよ」
「占いか」
「あ、馬鹿にしたでしょ」
「…………破壊………何かが破壊をもたらしてますね…これは……狂気？
狂気に基づく破壊？………少なくとも、事故ではありません。故意に
何者かが破壊を行ってます」
「敵襲か！」
「落ち着けよ忍。SC空間内にいればだいじょうぶだって」
「トーヤくん・・・」
「P-3,どうした？」
「そとで使ってる兵器って、もしかしたら、存在波爆弾かも」
「………SC空間に時折揺らぎが入ります……P-3の判断は正しいと思われます…」
「だが、実用的な存在波爆弾はさすがにまだ作成されていないだろう」
「わからなければ調べるしかないの」
「うん、そうだね。…柊はそこで待ってて。ちょっと様子を見てくるから」
「おい名城、だいじょうぶか？」
「じょぶじょぶ。P-3はどうする？一緒に行く？」
「うん…様子をみてくるの。なにかいやな予感がするの」
「P-3、気をつけてね」
「うん、…霧生くん、誠志郎くん、もしかしてオーギュメント使いや
ディゾナントが来たら、ちゃんとやってね」
「わかってるって」
「…わかった」
「私も、デバイスレインの一人だ」
そういって、園宗寺は、ジ・オーディナンスを取り出したときには
すでに瞳とP-3の二人はSC空間外へと離脱していた。
名城瞳の内部には、P-シリーズの一人、P-5のコアブレインが組み込まれている。
いや、P-5と名城瞳が融合して、現在の瞳になっていると言うべきだろうか。
二人がSC空間外に出たとき、状況はすでに最悪と言って良かった。
「なんで…なんて無茶苦茶なことを…」
「・・・・」
二人が目にした物は、崩れかけている校舎だった。
その原因も二人はすぐに認識した。
数人の武装した人物が、RPG〜ロールプレイングゲームではない
世界の紛争地域では普通に目にするロケットランチャーだ〜を
この校舎に向かって打ち込んできているのだ。
また一発、ロケット弾が校舎に命中する。
すさまじい閃光を伴う爆発により、校舎がさらに崩れる。
「瞳さん、感じてると思うの」
「うん、P-3…今のでわかった。…なんてもの使うんだよっ！
許さないんだから…絶対に許さないんだからっ！」
崩れた校舎の中に、一体何人のお台場大学の生徒がいるだろうか。
数人？数十人？数百人とまでは行かないだろうが…。
「P-3、行くよ」
「うん、わかったの」
逆相の存在波を発生させて完全に気配を殺し、崩れた校舎を二人は滑り降りていく。
さすがにP-7ではないので瞬間跳躍は無理なのだ。
全力で、特殊工作員達のいる場所へ走る。
彼らはまだ何が起きているか全く気付いていない。
当然だ、彼らには、瞳とP-3は全く存在が認識できてないのだから。
「SC空間展開！あんたら、一人残らず覚悟しなさいよっ！」
名城がSC空間を展開して叫ぶ。
特殊部隊工作員達はあっという間にSC空間に漂う不確定の波へと変貌した。
どうやら、彼らはオーギュメントすら持っていなかったらしい。
だが・・
「ごめん、ごめんみんなっ！」
「だれなの？」
カレイドフェノムが、不確定の波と化した工作員にたたきつけられる。
工作員と、工作員が所持していた兵器は、不確定の波ですらなくなってしまった。
完全に消去されたのだ。
「誰？」
「母なる祖国万歳！」
「だめ、やらせない！」
P-3が、工作員を消滅させた誰か〜冒頭に出てきた、藍仙高校の生徒だ〜の
自爆攻撃をカレイドフェノムで阻止する。
「逃げようったってそうはいかないからね」
SC空間を瞳が解除する。
「あ、あなたは…」
「P-3、知ってるの？」
「うん。たしか、あなたは、３年…」
まだ二人とも、彼の覚悟がどういうものかわかっていなかった。
そんなことは、小説かマンガかはたまたドラマか
そういう、フィクションの世界でしか起こりえないと思っていた。
彼は、とっさに毒薬を一気飲みしたのだ。
「だめなの。だめなの。そんなことを…なんで…」
「こら、勝手に死ぬな。ええい死ぬなっていうのに…
生き返れ、ほら………」
手遅れだった。よほど強力な毒薬だったのだろう。
瞳が毒消しのイデア情報を打ち込んだにもかかわらず
…毒が体内から消えたはずなのに、「死」のイデアは
すでに彼にとりついて、離れようとはしなかった。
「……一体…何を求めて…そんなことするの…」
「わかんないわ。…だけど、何も手に入らなかった、ってことはないよ」
「一体どういうこと？」
「あいつらが使ってた弾頭を一個手に入れたよ。
これを分析すれば、これが何かわかるはず。
…今とりあえずわかるのは、存在波利用の小型核爆弾みたい、ってことね」
「イデア理論を…こんなことに使うなんて…そんなの…そんなのってない…そんなのないよ…」
「P-3…現実を受け入れなきゃだめだよ。…これが、現実なんだから…」
「うん。…だけど…これだと、きっと、間に合わない。…まにあわないの…」
二人の視線の先には、ほぼ完全に崩壊したお台場大学の校舎があった。