New War to END WARS
World in Flames
【第三章】
〜Nuclear War〜
ここは、某国にある研究所。
某国がイデア理論に基づく兵器の開発を行っていた場所だが
今は完全に、完成されたディゾナントの１人、ガイアに支配されている。
「…そう、シルフィやマナは裏切ったの」
ガイアがつぶやく。
「そうみたいね。次は、力ずくで決着をつけるわ」
フレイアは、意気軒昂だ。拳を固めて一振りし、言葉を態度で強めてみせる。
「…まだ…動くのは早いわ…」
「待ってたら、一体何が起きるって言うの。
私たちの状況は、今が最良じゃない。
待っていれば、いずれ、向こうも第三世代を投入してくるわ。
そうなったら、パワーバランスはまた逆転よ。
今行動にうつりましょう。そうすれば勝てるわ」
「…私たちにとっての勝利とは…なに…？」
「勝利？簡単よ、敵を打ちのめすこと」
「敵は誰？何が私たちの敵かしら？」
「…何がって…とにかく、立ちふさがるものは何でも破壊すればいいのよ」
「……何もかも破壊することになるわ…」
「それも悪くないかもね」
「……まだ…早い…」
「怖じ気づいたの？」
「いいえ………もう少し…もう少しすれば…すべて…完璧に…」
場面は変わる。
ここは、お台場大学のアインハルト研究室。
校舎が半壊したとはいえ、ここは無事なままだ。
「ひゅー。ひどい有様だな。名城、怪獣でも攻めてきたのか？」
「柊のいうように、怪獣のほうがましかもしれないわね。…せんせ、連中が使ってた
兵器をひとつ確保してきたよ、はい」
「…P-4、起爆装置は解除してあるか？」
「それぐらいちゃんとはずしてるよ。当然じゃない」
「…安全は確保されてます…」
「それで、構造は大体わかるか？」
「…概ね名城さんやP-3の言う通りかと…」
「P-3、どうした？顔色が悪いぞ」
「トーヤくん……」
「…言いづらいことか？」
「さすがにこれだけひどい破壊だと、DICEの力でもみ消すってわけにもいかないでしょうね」
「そうだな…どういって公表するべきか」
「園宗寺さん、思い切って本当のことを言ってはどうですか」
「忍、本当のことを言っても、果たして信じてもらえるかな」
「…ふむ…ひどく出来の悪いプルトニウムだな。オーパスも今時あり得ない精度の低さだ。
粗製濫造品としか言いようがない。ずいぶんと低い技術で作られてる」
「そんなひどい物なら、なんでこれほどの破壊になったんだ」
「霧生くん。こんなひどい物だから、この程度の被害で済んだ。
本来の威力をざっと計算してみると、ほぼ通常の核砲弾と同等の威力があると考えられる」
「核砲弾？」
「先生が、作るだけ無駄とおっしゃってた、存在波による核起爆装置のことですか？」
「ああ、その通りだ。理論的には可能だがコスト的に引き合わない。
こんな物を作るぐらいなら、通常の核爆弾を作るか、さもなければ
存在波爆弾の研究でもしていたほうがましだろう」
「それでも、作った奴がいるってことは、何かしら役に立つって思ったってことだろ」
「役に立つとすれば、それこそ今度の襲撃のようなことぐらいだな。
これでも普通のロケット弾よりは威力が大きい」
「…状況を整理しよう。テロリストの一団が我々を襲うために
イデア理論を応用した、核ロケット弾で我々を攻撃してきた。
その結果、お台場大学が半壊状態になってしまった。
そのロケット弾は、今のところ技術水準が低いが…理論的には
より洗練された物に出来る、そういうことだな」
「まあ、簡単に言うと、そういうことになりますね、園宗寺さん」
「わかった。一応P-8に伝えておこう」
そういうと、園宗寺は携帯電話で本部と連絡を取る。
携帯電話といっても、音声を暗号化して送る能力がある携帯電話だ。
たとえ盗聴があったとしても、内容を知ることは不可能だろう。
「…私だ」
「あなたか。一体何があったのだ」
「おまえでもわからないことがあるのだな」
「私は神様ではない。能力が優れていたとしても、限界はある」
「簡単に説明する。テロリストにお台場大学が襲われた。
すくなくない死者と、多数の負傷者が出ている。
正確な人数は不明だ」
「テロリストの捕獲は？」
「失敗した。全員死亡。攻撃に使われた兵器のサンプルだけ捕獲してある」
「了解した。…分析は先生に任せておけば問題ないと思うが」
「すでに仮分析は終了している。イデア理論利用の原始的な核爆弾だ」
「挨拶代わりということか」
「？…！盲点だったな。私もぼけたものだ」
「被害の中心にいると、見えなくなる物もある」
「どうやら、当分帰れないようだ。そちらの維持を頼む」
「了解した。Old Eagleにもそう伝えておく」
「頼んだ」
園宗寺は電話を切った。P-8なら、これだけで何が起きたかすべて理解しただろう。
「園宗寺さん、挨拶代わりとは一体どういうことなんですか？」
「何かを達成する為ではなく、デモンストレーションの為の行動だったということだ」
「デモンストレーション…？」
「そうだ。…もし、この弾頭が量産されて、世界中にばらまかれたとしたら、どうなる？」
「………」
「生産コストを考えると、とても引き合うようなものだとは思えないわ。
この工作精度から考えると、普通に核爆弾を作った方がむしろ安上がりよ」
「………こんな出来の悪いプルトニウムが、これほど少量あるだけで
作れるなら…核査察は事実上無意味になりますね、園宗寺さん」
「先生の、言うとおりだ。…ひどい脅迫だな」
「…そんな…そんなことのために、こんなことを…」
「P-3?」
「P-3の責任じゃないってば。悪い癖だよ。何が起きても自分を責めるなんて」
「そりゃ、十夜の彼女だもんな、似たもの同士なんだろ」
「P-3,何があったの？話してみて…言葉に出来ない辛いことは、言葉にするだけで
すこしは…気休めには…なるから」
「オリジナル…ありがとうなの。
だけど…もうすこし…ごめんなの。もうちょっと………
……あのね…また、うちの学校の生徒が…巻き込まれて……死んで…しまったの」
「見学にでも来てたのか？」
「ううん…それなら…それなら……まだよかったの。
そうじゃなくて、うちの生徒の１人が…その…オーギュメントを持って…
……ロケット弾を撃ってた人たちの…仲間だったの」
「まさか。いくらなんでもテロリストの仲間ってことはないだろ。
第二科学部が量産型オーギュメントを配りまくったけど、それは
こういうことに巻き込まれないためだったじゃないか」
「トーヤくん…だけど、本当なの、３年の野田くんだったの」
「……… 」
「それもまた、挨拶のうちか」
「ったく、無茶苦茶しやがるぜ。やつら一体何を考えてるんだ 」
「……ガイアの考えることは…わかりますが…これは…ガイアとはちがいます…」
「マナのいうのが正しいと思うよ。ガイアやフレイアなら、こんな挨拶せずに
さっさと殴り込みに来た方が早いもん」
「だが、相手は、私がここにいるのを知っているほどの情報力がある相手だろう。
DICEの情報網を出し抜けるとすれば、国家レベルの諜報機関、それも
私を常に監視しているぐらいの規模の所だ。
自ずと可能性は限られる」
「園宗寺さんほどのVIPなら、一挙手一投足が見張られてますよ」
「P-8が身代わりになっていて、私を捕捉出来るほどとなると、ごく少数だろう。
P-8の存在を知らなければならないのだから」
「では…一体？」
「Made in Japanとでも書いてないか？」
「誠志郎くんどうしたの？」
「いや、挨拶代わりなら、製造国ぐらい刻印してないかって思ってな」
「…なるほど…あの国か。だとすれば…やるじゃないか、あいつだ」
「先生、どうしたんですか？」
「サンクト・ペテルブルクのあいつからの挨拶状だな。
まったくろくでもないことをしてくれる」
「なあ、あいつって、誰のことなんだ」
「それで全部つじつまが合った。アインハルト博士のライバルだった…」
「ライバルという表現は適切ではない。才能だけなら、向こうの方が上だろう」
「成果は先生の方が上がってるように見えますが」
「空木くん。私が成果を上げているのではない。
私がやっていることは、カスミと…P-シリーズのおかげだ。
それに、彼が、助手に恵まれてるとも思えないな」
「先生、それはほめられたと思っておきます」
「私はお世辞はいわないよ」
「話が脱線しているじゃないか。それで、一体どうするべきだっていうんだ」
「…我々には、何も出来ることはない」
「なんだって！」
「霧生、そんな怒鳴りまわすなよ。焦ったって何もできやしないぜ」
「だからといってなんでそんなのんきになれるんだ」
「………。先生、護衛を借りる訳にはいかないか」
「園宗寺さん、一体どうするつもりなんです？」
「挨拶を受けたのだ。返事をしに行くのが、礼儀だろう」
「園宗寺さん、それは危険です」
「瞬間跳躍能力を持つ、第３世代オーギュメントの持ち主が相手なら
どこへいても同じように危険だ」
「十夜くん。ヨーロッパ旅行に出かける気はないかね」
「先生、トーヤくんはオーギュメントを持ってないの」
「本場のロシア料理を食いに行くのも悪くないかもな」
「柊ぃ。だれも柊を連れて行くなんて言ってないよ」
「十夜、俺たちは友達だよな」
「…俺が何か役にたつかな」
「役に立ってもらわなければ困る。貴様は俺のライバルなんだぞ」
「…名城、手伝ってくれるか」
「うん、いいよ。柊のお守りは任せておいて」
「お守りかよ…」
「言い得て妙だな」
「名城さんと、誠志郎くんが行くなら、トーヤくんは行かなくていいと思うの」
「いや、どうしても十夜くんには一緒に行ってもらわなければ困る。
それから、マナくんに、シルフィくんだったね。
すまないが、しばらく、…P-3の代わりにうちに来るつもりはないかね。
歓迎する。…いや、我々と行動を共にして欲しいんだよ。
もし、単独でいると、いつフレイア達の襲撃を受けるかわからないからね」
「うん、私はいいよ。何かわくわくすることが起きそう。ね、でしょ、マナ」
マナは黙ってカードを繰り、そして一枚引いた。
「…恋人の正位置…そうね…シルフィにとっては…それがいいことのようね…」
「決まり！マナを１人には出来ないでしょ」
こうして、話はまとまった。
第三世代オーギュメントとは正反対の兵器、イデア理論の点から見れば
ディゾナント以上に原始的ながら、破壊力という意味では
通常のオーギュメントを超える兵器、存在波反応型核爆弾の開発者と
対決するために、十夜達…園宗寺達は、サンクト・ペテルブルクへ向かうことになる。
先生と、マナ達を、日本に残して。